男子報告反省会 ~独断~
文字数 2,425文字
オリエンテーション合宿2日目の夕食後、生徒たちは順番制の入浴時間の待ち時間を、ある者は仲の良い友人たちと1室に集まってワイワイ騒いだり、ある者は宿泊施設の内外をあてもなく歩き回ったりして、日常生活から離れた不思議な気分の高まりに身を任せながら、思い思いに過ごしている。
隼人・剛介・陽二の3人は入浴の順番が遅い時間帯だった。入浴までの待ち時間は長いが、かと言って3人で一緒にすることがある訳でもなく、班に割り当てられた部屋で持て余した時間をそれぞれ自分の荷物の前で黙って座っていた。
トン! トン! トン!
部屋の扉をノックする元気な音が静かな室内を満たした。
「ハヤト、フクモトクン、ゴースケ、みんな仲良くしている?」
体操ジャージ姿のカトリが扉から、痛みのせいか、ちょっとしかめた顔をのぞかせながら声をかけた。
その後ろから志織とエマがカトリの脇を抜けて、スリッパを脱いで室内にまで入って来た。
「さっきは、いろんなことをしたよね!」
志織は陽二に向かって小さく手を振った。
「クラスのみんなには内緒だよ!」
隼人に向かって、エマも口の前に人差し指を立てながら声をかけた。
「ワタシたちはオフロの時間がもうすぐだけど、男子はどうなの?」
「俺たちはもう少し後の方だから、まだ時間があるんだ」
カトリの質問に間髪を入れずに剛介が返答した。
「カトリは足首の具合はどうだ?」
隼人がカトリにたずねた時に、剛介もその言葉に無言で反応していた。
「平気よ! 添乗の看護士さんに見てもらったわ! オフロもできるだけ患部を温めなければ大丈夫だって! それと、このあとのキャンプファイヤーを私たちも部屋で待っているから、呼びに来てね! それまで3人とも仲良くしていなさいよ!」
「じゃ、私たちは先にオフロに行って来るから!」
「大きなオフロ楽しみだね!」
志織とエマは3人に手を振りながら、スリッパをつっかけながら部屋を出て行った。
「ク、ク、ク…」
喧騒のあとの静けさの中を、開けっ放しの扉を閉めながら、陽二が抑えた笑い声をあげた。
「おい、福本、なに笑ってんだ?」
いぶかしそうな顔をしている剛介のことを気にもせずに、陽二は陽気に返事をした。
「いや、さっきのことを思いだしていてさ…」
「へー、いったい何があったんだ?」
意味ありげな陽二の様子に隼人も反応した。
「なんと、あの志織が… 僕に抱きついてきたんだよ!」
“今まで志織さん、だったのにイキナリ呼び捨てか?!”
興味のなさそうな態度だった剛介が、突然刮目して陽二の方へ振り向いた。
「このホテルから出かけた時には、まず志織の方から僕に話しかけてきたんだ! そのとき僕は志織の方が僕に興味があると直感的に思ったんだ。そして、廃ホテルの前で僕たちの順番を待っていた時のことさ。志織の方から気分が悪いって言ってきて、気分転換に別のところへ行きたいと言いだしたんだ… それからなんと! 僕の手を引っ張ってきて、僕に身を寄せてきたんだ! そうやって志織が僕のことを頼りにしてくれたから、移動中はもちろん僕が先導したのさ。その間、志織はずっと周囲の寂しい雰囲気に怯えて、黙りっぱなしだったんだ」
話をしている間、身振りと手振りを交えて陽二は得意満面だった。
「海が見える所まで向かって志織と風にあたっていたところで、赤城とエマが僕たちのところに来たんだ。あの廃墟までの帰り道でも、志織はあたりのことをずっと気にしていたんだ。“私、怖いの…”って志織の方から言ってきたから、落ち着かせようとして僕は志織の手を握ってあげたのさ! 今回は結局、僕と志織は肝試しは出来なかったのは残念だったけど、素敵な時間が過ごせて良かったよ… 志織の手は小さいけど温かかった! ところで、君たちの方はどうだったのさ?」
“あんなにビビッていたくせに何フカしているんだ?”
“勘違いプラス話の特盛だろ…”
剛介も隼人も疑わしそうな表情をして陽二のことを見ていたが、陽二はそんなことには構うことのなく、繰り返し二人にたずねてきた。
「なあ、君たちはどうだった? ねえ?」
「うるせーな、ちょっと黙ら
“カトリと言葉遣いに気をつけるって約束してたんだった!”
「陽二、少し静かにしろよ。俺は女には興味がないんだ」
陽二のことをウルサそうにしながらも剛介の挙動は不審だった。
“あれ、竜崎のヤツどうしたんだ? 急に丁寧にしゃべり始めて…”
剛介の方を盗み見た隼人の表情はけげんそうだった。
「でも、竜崎が廃墟から出てきた時にカトリを背負っていて、その後もここに帰るまでずっと背負いっぱなしだったのには驚いたよ! 二人とも黙っていたけど、本当に何にもなかったの?」
「俺はケガをしたカトリを運んでただけだ」
剛介は陽二を一瞥して返事をすると、陽二は目をそらした。
「赤城の方はどうなんだい? エマと何かなかったの?」
陽二は剛介のことは諦め、今度は話のマトを隼人に変えてきた。
《ホラ来た! チョットからかってやれ!》
合宿前に肝試しが話題になった時、肝試しでエマと二人きりになった時などに、心の中に湧き上がって来たあの《誰かの声》が、また隼人の心の内に聞こえた。
「オレはエマを抱きしめて離さなかったぜ! エマの方も満更でもなかったようだったし!」
“あれ、オレこんなこと言いたかったっけ?”
自分の口から出た言葉に隼人はビックリした。そして隼人の言葉を聞いた陽二と剛介は顔を見合せていた。
「ジョークだよ、ジョーク! そろそろ風呂の時間だから行こうぜ!」
作り笑いをしながら隼人は二人を風呂へ誘った。
隼人・剛介・陽二の3人は入浴の順番が遅い時間帯だった。入浴までの待ち時間は長いが、かと言って3人で一緒にすることがある訳でもなく、班に割り当てられた部屋で持て余した時間をそれぞれ自分の荷物の前で黙って座っていた。
トン! トン! トン!
部屋の扉をノックする元気な音が静かな室内を満たした。
「ハヤト、フクモトクン、ゴースケ、みんな仲良くしている?」
体操ジャージ姿のカトリが扉から、痛みのせいか、ちょっとしかめた顔をのぞかせながら声をかけた。
その後ろから志織とエマがカトリの脇を抜けて、スリッパを脱いで室内にまで入って来た。
「さっきは、いろんなことをしたよね!」
志織は陽二に向かって小さく手を振った。
「クラスのみんなには内緒だよ!」
隼人に向かって、エマも口の前に人差し指を立てながら声をかけた。
「ワタシたちはオフロの時間がもうすぐだけど、男子はどうなの?」
「俺たちはもう少し後の方だから、まだ時間があるんだ」
カトリの質問に間髪を入れずに剛介が返答した。
「カトリは足首の具合はどうだ?」
隼人がカトリにたずねた時に、剛介もその言葉に無言で反応していた。
「平気よ! 添乗の看護士さんに見てもらったわ! オフロもできるだけ患部を温めなければ大丈夫だって! それと、このあとのキャンプファイヤーを私たちも部屋で待っているから、呼びに来てね! それまで3人とも仲良くしていなさいよ!」
「じゃ、私たちは先にオフロに行って来るから!」
「大きなオフロ楽しみだね!」
志織とエマは3人に手を振りながら、スリッパをつっかけながら部屋を出て行った。
「ク、ク、ク…」
喧騒のあとの静けさの中を、開けっ放しの扉を閉めながら、陽二が抑えた笑い声をあげた。
「おい、福本、なに笑ってんだ?」
いぶかしそうな顔をしている剛介のことを気にもせずに、陽二は陽気に返事をした。
「いや、さっきのことを思いだしていてさ…」
「へー、いったい何があったんだ?」
意味ありげな陽二の様子に隼人も反応した。
「なんと、あの志織が… 僕に抱きついてきたんだよ!」
“今まで志織さん、だったのにイキナリ呼び捨てか?!”
興味のなさそうな態度だった剛介が、突然刮目して陽二の方へ振り向いた。
「このホテルから出かけた時には、まず志織の方から僕に話しかけてきたんだ! そのとき僕は志織の方が僕に興味があると直感的に思ったんだ。そして、廃ホテルの前で僕たちの順番を待っていた時のことさ。志織の方から気分が悪いって言ってきて、気分転換に別のところへ行きたいと言いだしたんだ… それからなんと! 僕の手を引っ張ってきて、僕に身を寄せてきたんだ! そうやって志織が僕のことを頼りにしてくれたから、移動中はもちろん僕が先導したのさ。その間、志織はずっと周囲の寂しい雰囲気に怯えて、黙りっぱなしだったんだ」
話をしている間、身振りと手振りを交えて陽二は得意満面だった。
「海が見える所まで向かって志織と風にあたっていたところで、赤城とエマが僕たちのところに来たんだ。あの廃墟までの帰り道でも、志織はあたりのことをずっと気にしていたんだ。“私、怖いの…”って志織の方から言ってきたから、落ち着かせようとして僕は志織の手を握ってあげたのさ! 今回は結局、僕と志織は肝試しは出来なかったのは残念だったけど、素敵な時間が過ごせて良かったよ… 志織の手は小さいけど温かかった! ところで、君たちの方はどうだったのさ?」
“あんなにビビッていたくせに何フカしているんだ?”
“勘違いプラス話の特盛だろ…”
剛介も隼人も疑わしそうな表情をして陽二のことを見ていたが、陽二はそんなことには構うことのなく、繰り返し二人にたずねてきた。
「なあ、君たちはどうだった? ねえ?」
「うるせーな、ちょっと黙ら
“カトリと言葉遣いに気をつけるって約束してたんだった!”
「陽二、少し静かにしろよ。俺は女には興味がないんだ」
陽二のことをウルサそうにしながらも剛介の挙動は不審だった。
“あれ、竜崎のヤツどうしたんだ? 急に丁寧にしゃべり始めて…”
剛介の方を盗み見た隼人の表情はけげんそうだった。
「でも、竜崎が廃墟から出てきた時にカトリを背負っていて、その後もここに帰るまでずっと背負いっぱなしだったのには驚いたよ! 二人とも黙っていたけど、本当に何にもなかったの?」
「俺はケガをしたカトリを運んでただけだ」
剛介は陽二を一瞥して返事をすると、陽二は目をそらした。
「赤城の方はどうなんだい? エマと何かなかったの?」
陽二は剛介のことは諦め、今度は話のマトを隼人に変えてきた。
《ホラ来た! チョットからかってやれ!》
合宿前に肝試しが話題になった時、肝試しでエマと二人きりになった時などに、心の中に湧き上がって来たあの《誰かの声》が、また隼人の心の内に聞こえた。
「オレはエマを抱きしめて離さなかったぜ! エマの方も満更でもなかったようだったし!」
“あれ、オレこんなこと言いたかったっけ?”
自分の口から出た言葉に隼人はビックリした。そして隼人の言葉を聞いた陽二と剛介は顔を見合せていた。
「ジョークだよ、ジョーク! そろそろ風呂の時間だから行こうぜ!」
作り笑いをしながら隼人は二人を風呂へ誘った。