胸の痛み
文字数 2,043文字
爆風の衝撃波と煙のうねりが通り過ぎた後、隼人はかがめていた身体を起こしカトリと陽二のいた場所を見た。陽二の縛り付けられていたイスのあった場所には床に剥げたような白い円形の跡がある以外は何もなくなっていた。
「カ、カトリは?」
電灯が壊れた薄暗い部屋を隼人が見回すと、隅に埃だらけになって横たわったまま動かない人の姿を見つけた。
「カトリ?」
近づいてそばにしゃがみ込むと隼人は倒れている人のことを丁寧に抱きかかえた。
「やっぱりカトリじゃないか! 大丈夫か!」
呼びかけても反応しないカトリの意識レベルと外傷、それから体温・呼吸・脈拍などのバイタルを隼人はチェックした。
「体温、呼吸、脈拍の方には異常はない。外見上は目立った外傷は見られないが意識不明… 頭部に強い衝撃を受けたんだ… ヘッドホンをつけてたせいでヘルメットをしてなかったからか…」
すぐさま隼人は救急隊に連絡をとろうとしたが、無線の調子が悪く連絡がとれない。
「無線が使えるところまで行ってくるからな、カトリ! 待っててくれ!」
無言のカトリに声をかけて隼人は部屋を出て行った。
「いったい何が起こったの…」
人の気配を感じて部屋の外に隠れていた志織がスマホを片手に持って中へ入って来た。
「私は思想士官殿の命令どおりに敵がこの部屋に入った時に応援を呼ぶ電話番号をコールしただけなのに…」
部屋の中を見回して志織は慄然とした。
「福本が座っていたイスは… 跡形もない… あっちには倒れたままの人が… 二人とも私がやったんだ…」
放心状態の志織は倒れて動かない人の方へゆっくりと向かって顔をのぞき込む。
「ウソ! カトリ?」
生気のないカトリの顔を見て志織は手を口にあてて蒼白になった。
「おい、お前こんなところで何してる」
男の低い声に志織が振り向くと隼人がMP7A1をかまえていた。
「隼人!? あなた何でここにいるの!?」
「東条!」
意外なところで顔を会わせた二人だったが、二人の間にはかなりの温度差があった。
「やっぱりバベルだからこんなこと… ずっとお前のこと信じられなかったんだよ」
「えっ!」
目を大きく見開く志織に隼人はシニカルな態度で応えた。
「福本とカトリをやった気分はどうだ」
「私は敵が来たらスマホで応援を呼ぶように言われてただけなの…」
救いを求める目の志織は震える手を差し伸べながら隼人に近づいた。
「言うことはそれだけなの志織サン」
部屋の入口に黄色のトリアージタグを付けた亜衣がいた。
「陽二は本当にアナタのことが好きだったのよ… 私に会うたびにアナタと素のままの自分で話をしたいって言っていた」
亜衣は唐突に始めた語りを続ける。
「そんなアナタのことを私はずっと羨んでいただけ、なんてキレイごと言えない… 私には振り向いてくれない陽二に好かれていたアナタのことをずっと嫉妬してきたのよ。そう言えば、陽二は曹長、アンタのことを憎んでいたわよ」
亜衣は足元にあったレミントンを拾い上げスライドを前後に動かした。
「陽二と私を苦しめてきたアンタたち二人に制裁を加える」
“おれのために東条はこれまで何度も一生懸命になってくれただろ?”
つい、先ほどは怒りから志織にひどいことを口にした隼人だったが、志織が好きであんなことをする訳がないと思う、もう一人の自分がいた。
「俺のことはともかく志織は許してやってくれ。決してウソをつくような人間じゃないんだ。本当に騙されたに違いない」
隼人の言葉に志織の胸は痛んだ。
「アンタまでこの女に肩入れするの? この女のどこがそんなに良いの?」
「私は… 私は罪から生まれてきた。そして罪の中で生きてきた」
目を閉じうなだれながら志織は口を開いた。
「なに訳わかんないこと言ってんの?」
亜衣の持つレミントンの銃口が志織と隼人に向けられた。
「そんな私を信じてくれてありがとう、そして愛するという気持ちを教えてくれてありがとう、隼人」
志織は隼人を力を込めて突き飛ばすと、隠し持っていたスペツナズナイフを取り出し亜衣めがけて発射した。一瞬で亜衣の頬をナイフの刃がかすめ、亜衣はバランスを崩しながらレミントンのトリガーを引いた。
ヴァン
くぐもった発射音と同時に志織が倒れ込んだ。
ダダ
それと同時に、倒れ込んだ隼人のMP7A1が火を噴き亜衣を制圧した。
「志織!」
隼人は駆け寄り志織の負傷の状態をチェックする。
「胸部に被弾一発、意識なし… 呼吸および脈拍もなし… 俺の代わりに身を捨てて…」
隼人の体が反射的に動き志織の胸からあふれ出る血液を止血しようとする。すると志織の胸元からロザリオがこぼれ落ちた。
「志織は… バベルにいたのに神様を信じていたってことだ…」
手にロザリオを握りしめ呆然となった隼人が苦悩する表情へと変わっていく。
「俺なんかは身近にいる志織のことも信じきれなかったのに…」
隼人は志織にしがみつきその名を叫ぶばかりだった。
「カ、カトリは?」
電灯が壊れた薄暗い部屋を隼人が見回すと、隅に埃だらけになって横たわったまま動かない人の姿を見つけた。
「カトリ?」
近づいてそばにしゃがみ込むと隼人は倒れている人のことを丁寧に抱きかかえた。
「やっぱりカトリじゃないか! 大丈夫か!」
呼びかけても反応しないカトリの意識レベルと外傷、それから体温・呼吸・脈拍などのバイタルを隼人はチェックした。
「体温、呼吸、脈拍の方には異常はない。外見上は目立った外傷は見られないが意識不明… 頭部に強い衝撃を受けたんだ… ヘッドホンをつけてたせいでヘルメットをしてなかったからか…」
すぐさま隼人は救急隊に連絡をとろうとしたが、無線の調子が悪く連絡がとれない。
「無線が使えるところまで行ってくるからな、カトリ! 待っててくれ!」
無言のカトリに声をかけて隼人は部屋を出て行った。
「いったい何が起こったの…」
人の気配を感じて部屋の外に隠れていた志織がスマホを片手に持って中へ入って来た。
「私は思想士官殿の命令どおりに敵がこの部屋に入った時に応援を呼ぶ電話番号をコールしただけなのに…」
部屋の中を見回して志織は慄然とした。
「福本が座っていたイスは… 跡形もない… あっちには倒れたままの人が… 二人とも私がやったんだ…」
放心状態の志織は倒れて動かない人の方へゆっくりと向かって顔をのぞき込む。
「ウソ! カトリ?」
生気のないカトリの顔を見て志織は手を口にあてて蒼白になった。
「おい、お前こんなところで何してる」
男の低い声に志織が振り向くと隼人がMP7A1をかまえていた。
「隼人!? あなた何でここにいるの!?」
「東条!」
意外なところで顔を会わせた二人だったが、二人の間にはかなりの温度差があった。
「やっぱりバベルだからこんなこと… ずっとお前のこと信じられなかったんだよ」
「えっ!」
目を大きく見開く志織に隼人はシニカルな態度で応えた。
「福本とカトリをやった気分はどうだ」
「私は敵が来たらスマホで応援を呼ぶように言われてただけなの…」
救いを求める目の志織は震える手を差し伸べながら隼人に近づいた。
「言うことはそれだけなの志織サン」
部屋の入口に黄色のトリアージタグを付けた亜衣がいた。
「陽二は本当にアナタのことが好きだったのよ… 私に会うたびにアナタと素のままの自分で話をしたいって言っていた」
亜衣は唐突に始めた語りを続ける。
「そんなアナタのことを私はずっと羨んでいただけ、なんてキレイごと言えない… 私には振り向いてくれない陽二に好かれていたアナタのことをずっと嫉妬してきたのよ。そう言えば、陽二は曹長、アンタのことを憎んでいたわよ」
亜衣は足元にあったレミントンを拾い上げスライドを前後に動かした。
「陽二と私を苦しめてきたアンタたち二人に制裁を加える」
“おれのために東条はこれまで何度も一生懸命になってくれただろ?”
つい、先ほどは怒りから志織にひどいことを口にした隼人だったが、志織が好きであんなことをする訳がないと思う、もう一人の自分がいた。
「俺のことはともかく志織は許してやってくれ。決してウソをつくような人間じゃないんだ。本当に騙されたに違いない」
隼人の言葉に志織の胸は痛んだ。
「アンタまでこの女に肩入れするの? この女のどこがそんなに良いの?」
「私は… 私は罪から生まれてきた。そして罪の中で生きてきた」
目を閉じうなだれながら志織は口を開いた。
「なに訳わかんないこと言ってんの?」
亜衣の持つレミントンの銃口が志織と隼人に向けられた。
「そんな私を信じてくれてありがとう、そして愛するという気持ちを教えてくれてありがとう、隼人」
志織は隼人を力を込めて突き飛ばすと、隠し持っていたスペツナズナイフを取り出し亜衣めがけて発射した。一瞬で亜衣の頬をナイフの刃がかすめ、亜衣はバランスを崩しながらレミントンのトリガーを引いた。
ヴァン
くぐもった発射音と同時に志織が倒れ込んだ。
ダダ
それと同時に、倒れ込んだ隼人のMP7A1が火を噴き亜衣を制圧した。
「志織!」
隼人は駆け寄り志織の負傷の状態をチェックする。
「胸部に被弾一発、意識なし… 呼吸および脈拍もなし… 俺の代わりに身を捨てて…」
隼人の体が反射的に動き志織の胸からあふれ出る血液を止血しようとする。すると志織の胸元からロザリオがこぼれ落ちた。
「志織は… バベルにいたのに神様を信じていたってことだ…」
手にロザリオを握りしめ呆然となった隼人が苦悩する表情へと変わっていく。
「俺なんかは身近にいる志織のことも信じきれなかったのに…」
隼人は志織にしがみつきその名を叫ぶばかりだった。