同じ二人は二人でも
文字数 2,485文字
「志織、ホラ見ろよ!」
志織を背負って手を動かせない剛介がアゴで目的地をさした。
「話をしているうちに、もうあのホテルに着いたぞ!」
剛介は志織を背中から降ろして、そっと地面に立たせようとした。
「イタタ…」
志織の口から漏れ出た声は小さかったが、その痛みのつぶやきを剛介は聞き逃さなかった。
「やっぱりまだ痛いのか… この先も俺がオンブしてや… いや、オンブする」
「剛介、もう平気だよ! 一人で歩けるし!」
これ以上迷惑をかけられないといった表情で、手のひらを大きく左右に振って、志織は懸命に剛介の申し出を拒否した。
「それに私はカトリより重たいんだし!」
「あんな冗談を本気にしているのか、志織は?!」
あきれた顔つきで剛介が言い返した。
「本当に、志織の方が全然カトリより軽いんだぞ!」
剛介は軽々と志織を背負い直して歩き出した。
深夜の建物の中は肝試しをした夕方とは比べ物にならないくらい暗かった。外は月明かりもあったため、夜道を慣れた目で周囲を見ることができたが、建物内は懐中電灯の照らし出す範囲内しか見えなかった。
「剛介、ここら辺なんか花火臭くない?」
鼻腔に漂ってくる刺激臭について志織は剛介に問いかけた。
「俺はゼンゼン気にならないけどな… オッと!」
剛介は床の何かに足を取られて転びそうになった。それに合わせて、志織の持つ懐中電灯の光の照らす場所が急に変わった。
「なんだ、切った細目のパイプみたいなのものが床に散らばっているぞ! 志織は大丈夫だったか?」
「私のことなら平気、床を照らすようにするから剛介も気をつけてね」
“火薬のニオイと小さく細いパイプ… 私が知っているその組み合わせがある場所は… 特殊技能学校の射撃訓練場と散らばる空薬きょう…”
「ねえ、剛介、引き返そうよ… 私…」
「ここまで来て引き返すワケにはいかない」
志織の不安を自分への妨害行為と剛介は言わんばかりだった。
「おーい、カトリーッ!」
「剛介、大声を出さないで、ここはヤバいよ!」
まわりに聞こえないように小さな声であったが、ハッキリと志織は剛介の耳元に伝えた。
“このことが剛介がさっき言っていた、赤城とカトリが隠そうとしていたこと?”
「俺たちが迎えに来たことを知らせないと! カトリーッ、どこにいるんだ!」
志織の意見にむしろ反抗するかのように、さらに大声を出して、大股で剛介は歩き始めた。
この声に呼び寄せられたのか、離れた物陰から黙って二人を見つめる目があることに剛介も志織も気づいてはいなかった。
そのころ志織と剛介に少し遅れてついて来ていたエマは、足元に散らかる小さくて細いパイプみたいなモノをじっくり観察していた。
“これって鉄砲の弾丸を撃ち終わったときに出る空の薬きょうね… 本物を見るのは初めてだわ… スマホで撮っとこう…”
広範囲に散らばる空薬きょうを撮っているうちに、エマは突撃銃が無造作に放置してあることにも気がついて色めき立った。
“これって、たしか昔あった共産主義陣営ってところの鉄砲でしょ… こんなモノまでココにあるってことは、アレですねぇ… スマホ、スマホ… スクープのニオイがプンプンしてきた!”
剛介と志織を見ていた先程の人物は、今度はエマを遠目に見つめて、自分が逃げ延びる方法を必死に考えていた。
“人道人権にうるさいこの国なら、3人も人質の民間人がいれば、相手も不用意には手を出してこないだろう… うまく利用すれば、足をケガした私でもここから脱出できる…”
しばらくしたところで志織は背後で光の明滅が散発的に起こっていることに気がついた。
“もしかして、誰かスマホで何か撮っている? エマ? 今すぐ止めさせないと!”
「ねえ剛介、後ろの方へ戻ってちょうだい」
不吉な予感に襲われた志織の願い出にも、剛介は聞く耳を持たず、そのまま真っ直ぐ進んでいった。
「!」
しばらくして、自分の持った懐中電灯の光が照らし出した、倒れている人間の身体の一部分を剛介が目の当たりにした時であった。
「キャーッ!」
そのとき、後ろの方から女の大きな悲鳴が聞こえてきた。
「ほら、言ったとおりになった! 早く戻りなさいよ!」
志織は思わず大きな声を出して剛介の背中を何度も叩いた。そして、この時ほど自分の足がケガしたことを後悔したことはなかった。
「オ、オウッ」
こうなると自分たちが非常事態にあることを剛介もやっと認めて、すぐに向きを後方に変えて走り出した。
悲鳴の起きた場所へ着いてから人影に懐中電灯を向けると、エマが見知らぬ男にナイフを突き付けられていた。
「おい、エマから手を放せ、何かあったら、タダじゃ済まないぞ!」
怒声を浴びせる剛介に対して、相手の言葉遣いは丁寧だった。
「君たちが私の言うことを聞くならば、手出しをしないことを約束する。頼むから私を追ってくる者から私が逃げるまで盾になって欲しい」
「ふざけるな! お前なんかの言いなりにはならないぞ!」
言い返す剛介の耳元で志織が小声で話しかける。
「剛介、できるだけ時間を稼いで… あと、私を下に降ろしてちょうだい…」
剛介に渡すために、相手から目を離さずに志織は常備暗器のチリペッパースプレーを取り出すために手を少し動かした時だった。
「そこの君、勝手なマネは困るな… そのまま動いてはいけない」
黙ったままのエマの首筋にナイフを押し当てて、男は悲しそうな顔をした。
「私の言うことを聞かないと、この子は確実に死ぬことになる…」
“あの男、ゼッタイ本気だわ…”
「剛介ゴメン、アイツの言うことを聞いて」
志織が剛介に話しかけていることを男は見逃さなかった。
「お二人の内緒話も止めていただきたい」
志織を背負って手を動かせない剛介がアゴで目的地をさした。
「話をしているうちに、もうあのホテルに着いたぞ!」
剛介は志織を背中から降ろして、そっと地面に立たせようとした。
「イタタ…」
志織の口から漏れ出た声は小さかったが、その痛みのつぶやきを剛介は聞き逃さなかった。
「やっぱりまだ痛いのか… この先も俺がオンブしてや… いや、オンブする」
「剛介、もう平気だよ! 一人で歩けるし!」
これ以上迷惑をかけられないといった表情で、手のひらを大きく左右に振って、志織は懸命に剛介の申し出を拒否した。
「それに私はカトリより重たいんだし!」
「あんな冗談を本気にしているのか、志織は?!」
あきれた顔つきで剛介が言い返した。
「本当に、志織の方が全然カトリより軽いんだぞ!」
剛介は軽々と志織を背負い直して歩き出した。
深夜の建物の中は肝試しをした夕方とは比べ物にならないくらい暗かった。外は月明かりもあったため、夜道を慣れた目で周囲を見ることができたが、建物内は懐中電灯の照らし出す範囲内しか見えなかった。
「剛介、ここら辺なんか花火臭くない?」
鼻腔に漂ってくる刺激臭について志織は剛介に問いかけた。
「俺はゼンゼン気にならないけどな… オッと!」
剛介は床の何かに足を取られて転びそうになった。それに合わせて、志織の持つ懐中電灯の光の照らす場所が急に変わった。
「なんだ、切った細目のパイプみたいなのものが床に散らばっているぞ! 志織は大丈夫だったか?」
「私のことなら平気、床を照らすようにするから剛介も気をつけてね」
“火薬のニオイと小さく細いパイプ… 私が知っているその組み合わせがある場所は… 特殊技能学校の射撃訓練場と散らばる空薬きょう…”
「ねえ、剛介、引き返そうよ… 私…」
「ここまで来て引き返すワケにはいかない」
志織の不安を自分への妨害行為と剛介は言わんばかりだった。
「おーい、カトリーッ!」
「剛介、大声を出さないで、ここはヤバいよ!」
まわりに聞こえないように小さな声であったが、ハッキリと志織は剛介の耳元に伝えた。
“このことが剛介がさっき言っていた、赤城とカトリが隠そうとしていたこと?”
「俺たちが迎えに来たことを知らせないと! カトリーッ、どこにいるんだ!」
志織の意見にむしろ反抗するかのように、さらに大声を出して、大股で剛介は歩き始めた。
この声に呼び寄せられたのか、離れた物陰から黙って二人を見つめる目があることに剛介も志織も気づいてはいなかった。
そのころ志織と剛介に少し遅れてついて来ていたエマは、足元に散らかる小さくて細いパイプみたいなモノをじっくり観察していた。
“これって鉄砲の弾丸を撃ち終わったときに出る空の薬きょうね… 本物を見るのは初めてだわ… スマホで撮っとこう…”
広範囲に散らばる空薬きょうを撮っているうちに、エマは突撃銃が無造作に放置してあることにも気がついて色めき立った。
“これって、たしか昔あった共産主義陣営ってところの鉄砲でしょ… こんなモノまでココにあるってことは、アレですねぇ… スマホ、スマホ… スクープのニオイがプンプンしてきた!”
剛介と志織を見ていた先程の人物は、今度はエマを遠目に見つめて、自分が逃げ延びる方法を必死に考えていた。
“人道人権にうるさいこの国なら、3人も人質の民間人がいれば、相手も不用意には手を出してこないだろう… うまく利用すれば、足をケガした私でもここから脱出できる…”
しばらくしたところで志織は背後で光の明滅が散発的に起こっていることに気がついた。
“もしかして、誰かスマホで何か撮っている? エマ? 今すぐ止めさせないと!”
「ねえ剛介、後ろの方へ戻ってちょうだい」
不吉な予感に襲われた志織の願い出にも、剛介は聞く耳を持たず、そのまま真っ直ぐ進んでいった。
「!」
しばらくして、自分の持った懐中電灯の光が照らし出した、倒れている人間の身体の一部分を剛介が目の当たりにした時であった。
「キャーッ!」
そのとき、後ろの方から女の大きな悲鳴が聞こえてきた。
「ほら、言ったとおりになった! 早く戻りなさいよ!」
志織は思わず大きな声を出して剛介の背中を何度も叩いた。そして、この時ほど自分の足がケガしたことを後悔したことはなかった。
「オ、オウッ」
こうなると自分たちが非常事態にあることを剛介もやっと認めて、すぐに向きを後方に変えて走り出した。
悲鳴の起きた場所へ着いてから人影に懐中電灯を向けると、エマが見知らぬ男にナイフを突き付けられていた。
「おい、エマから手を放せ、何かあったら、タダじゃ済まないぞ!」
怒声を浴びせる剛介に対して、相手の言葉遣いは丁寧だった。
「君たちが私の言うことを聞くならば、手出しをしないことを約束する。頼むから私を追ってくる者から私が逃げるまで盾になって欲しい」
「ふざけるな! お前なんかの言いなりにはならないぞ!」
言い返す剛介の耳元で志織が小声で話しかける。
「剛介、できるだけ時間を稼いで… あと、私を下に降ろしてちょうだい…」
剛介に渡すために、相手から目を離さずに志織は常備暗器のチリペッパースプレーを取り出すために手を少し動かした時だった。
「そこの君、勝手なマネは困るな… そのまま動いてはいけない」
黙ったままのエマの首筋にナイフを押し当てて、男は悲しそうな顔をした。
「私の言うことを聞かないと、この子は確実に死ぬことになる…」
“あの男、ゼッタイ本気だわ…”
「剛介ゴメン、アイツの言うことを聞いて」
志織が剛介に話しかけていることを男は見逃さなかった。
「お二人の内緒話も止めていただきたい」