ノット オンリー バベル バット オールソー …

文字数 1,671文字

 放課後になってから学園内の修道院の中にある担任の響子先生の住まいの部屋で、カトリは響子先生と二人きりでミーティングを始めていた。

 「今日はわざわざ来てもらってすみませんね、カトリ。予定があるようなのに無理を言ってごめんなさい。合宿休みが明けてから放課後はすぐに帰っているようだけど、もし良かったら何をしているか教えてもらえませんか?」

 木製の丸イスに座るカトリの方を向いて、自分のイスに腰掛ける響子先生は話しかけた。

 「前にも報告をしたけど、オリエンテーション合宿の最後の晩にバベルの部隊を廃ホテルで待ち伏せする計画だったのが逆にこちらが待ち伏せされちゃって… その時にハヤトにずいぶん助けてもらって… それで自分が未熟だっていうことがよ~くわかったから、ヨーコに頼んで放課後にトレーニングを毎日しているの」

 カトリは遠くを見ているような様子で薄目をして話を始めた。

 「ハヤトったら、いかにも新兵といった様子だったのに、今回のオペがいざ始まると急に人が変わったようになって… 状況の把握は適切だった。戦いの方は荒っぽくて無茶なところもあってけど、理にかなっているの… 最初は偉そうな態度をとるから嫌な男だと思ったんだ… でも、私のことを信じてくれるし頼りがいもあったの… それに」

 熱に浮かされたような表情でエンドレスに話を続けようとするカトリの頬は赤みを帯びていた。

 「それはそれは… それ以上は結構ですよ、カトリ」

 もう結構といった顔つきをして、響子先生はカトリの話を止めさせた。ハッとしてそれまでの態度を急停止させたカトリは、恥ずかしそうに下を向いてから話題を変えた。

 「キョーコ、最近、検邪聖省からは何か連絡はあった?」

 「まず、こちらからはカトリの報告を伝えておきました。そのときに私たちとCIAとの関係についてなんですけれども、注意を喚起されました」

 持ち前の真面目さと誠実さが表れた顔で響子先生がカトリに話し始めた。

 「CIAと言うよりアメリカはプロテスタントが支配的な国だから、カトリックへの不信が根強いところがあるのは知っているわね。共通の敵がいるときには手を差し伸べてくるけれど、特に政治や金が絡むと、裏では自分たちの利益を最優先に考えているでしょうね。まあ、それは私たちも同じでしょうけど… 今は共同歩調をとっていてもCIAには注意を怠らないように、って言うことだったわ」

 「CIAのことは分るけど、ヨーコは悪い人ではないと思うんだ…」

 「カトリ、人当たりがいいことと信用できる人とは違うと思うの。これはCIAの中にいる信仰の厚い者からの情報なんだけどね…」

 ヨーコ先生への邪気のないカトリの発言に対して響子先生は真面目な表情のまま話し続けた。

 「あなたと赤城君が最初にバベルの銀行強盗対応に出動した時のことだけど。あなた、そして赤城君が乗っている荷車へ銃眼から車内に弾丸を撃ち込まれたことがあったでしょ」

 「うん、弾がかすめていってワタシは気絶してしまったから憶えていないけれど…」

 「その弾道の計測結果から、バベルの工作員のいた位置からは荷車の銃眼を通して内部に弾丸を撃ち込むのは角度的に無理だったようなの。そうなると、バベル以外の人間が別の場所から狙撃したことになる。銃弾は日本の警察では使用していない特別なタイプだから、誰かは分からないけど日本警察でもない。あの場の情報を知り狙撃のホットポイントにいることができた者がいた。一般のCIA要員が知らないとはいえ、その狙撃者には誰の息がかかっていたのかしら」

 カトリは響子先生の問いかけに黙っていた。

 「もう一つ、あなたも知っているわよね… 合宿に参加した、ある生徒たちが記憶の一部を失っているらしいっていう噂のこと」

 “あの晩からあと、確かにハヤト以外のみんなのすることや言うことがちぐはぐだった”

 自分の仲間の身に起きたことについてカトリも何かがあることは気づいていた。
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登場人物紹介

赤城 隼人(あかぎ はやと)

前の年にある手術を外国でしたため、みんなより1才年上の高校1年生

困っている人を助けずにはいられない優しいところも

窮地におちいると性格が急変することが?!


カトリーナ クライン

カトリック教徒で神様が大好き

ドイツ系スイス人の留学生で日本の文化慣習に疑問を持つことも

日本に来たのは勉強のためだけではなさそうな…

神鳴 響子(かみなり きょうこ)

隼人やカトリーナたちのクラスの担任の先生

柔和な中にも厳しい一面がある、この学校が好きな卒業生

「生徒たちには成長を期待しています」

東条 志織(とうじょう しおり)

誰とでも仲良くなれる社交的な女の子

ときには、周囲の人間関係をひっかき回すことが

実は何を思っているかは誰にもわからない

竜崎 剛介(りゅうざき ごうすけ)

地域で力を持つ竜崎グループの御曹司

家庭環境のせいか典型的オレ様タイプ

根は腐っていないので真の愛に目覚めるか

江間 絵馬(えま えま)

聖エルモ学園の24時間録画カメラ

ジャーナリスト魂の持ち主

相手によっては日和見することも

サトー ヨーコ

学園で一番人気の大人な美人

表向きは保健室のクールな先生

裏の稼業は読んでのお楽しみ

福本 陽二(ふくもと ようじ)

何にも考えず、思ったことをすぐ口にするタイプ

かなりのビビリで動揺が隠せないチキンな面も

加えて志織のことが気になる様子も隠せない

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