疑問と沈黙
文字数 1,426文字
「ウチには竜崎さんにお話ししなければならないことがあります」
直前まで照れくさそうな顔をしていた鈴の表情が急に引き締まったので、剛介は直感で今から何かが起こると感じた。
「すみません竜崎さん… もし良ければ… ウチとお友達になってくれませんか?」
「友達に? この俺と?」
この場に呼び出されたいきさつから予想していたとはいえ、美人の女子からの申し出に剛介は自分の耳が信じられなかった。その一方で冷静に状況を把握している自分がいた。
「でもどうしてだ? 俺には、あんた… いやあなたから声をかけてもらう憶えがないんだが?」
“鈴もけっこう役者ね… そりゃアンタには憶えがないでしょうよ… ただ鈴はゲームで負けたバツでアンタに声をかけているだけなんだから! そして最後には…”
鈴と剛介の顔を代わる代わるながめる杏奈は他人から見てもワクワクしているのがわかった。
「あのさ、そういう話ならアナタたち二人きりの方がいいんじゃないのかな?」
エマが周囲に人がいることにもかまわずに告白話を続ける二人を気を遣って声をかけた。
「ちょっと、あなたは余計なこと言わないでよ! これから始まる面白いものが目の前で見られなくなっちゃうでしょ!」
「!?」
突然の杏奈の調子の強い、思いもしない物言いにエマは唖然とした。
「お、おい、ちょっと言い過ぎだろ! それにキミ、な、何言ってんだ?」
「はあ? 何のつもり?」
何とか口を開いた陽二に対して杏奈は鋭いまなざしで返答した。
「ウチは誰に聞かれても困ることをしている訳じゃない。だからウチはこのままで大丈夫」
鈴はエマと杏奈の方を見てキッパリと言った。が、剛介の方を向いた顔つきはすぐさま伺うような表情に早変わりした。
「ウチの方はそれでいいとして、竜崎さんはどうですか?」
「俺か? 俺はどっちでもかまわんが」
“気を利かせてあげたけど竜崎は男だから、こんなときのことなんてどうせ何も考えてないんでしょ… でもこの二人のことに私は関わり過ぎないようにしないとね…”
「私が余計なことを言ってごめんなさい。お話しを邪魔しちゃったみたいね。どうぞ続けてちょうだい」
剛介の方を一瞥してからエマは鈴に話を続けることを促した。
「一週間くらい前のことなんですけど… 紙屋町のバスセンターであったことなんです…」
伏目がちになりながら鈴は話を始めた。
「路線バスから空港行きのリムジンバスへの乗り継ごうとした時に持っていた大きなトランクを階段で運ぶことができなくて困っていたんです」
「…」
「それを見て助けてくれた体の大きな男の人がいて… とても重いトランクをウチの代わりに運んでくれただけでなく、先に走って行ってバスの運転手さんに話をしておいてくれたので、ウチはあとバスに乗るだけで良かったんです。お礼を言いたかったのですが、その人は気が付くと名前も言わないでその場を去ってしまっていて…」
鈴は沈黙を続ける剛介の方をチラチラ見ていた。
「その人をこのオリエンテーション合宿で偶然見つけて… それが竜崎さんだったんです…」
「竜崎、かっこいい奴だなお前! 見ず知らずの人を助けるなんて!」
「もしかしてきれいな女の子だったから手助けしちゃったのかな? ちょっと答えなさいよ、竜崎クン!」
「…」
陽二とエマのほめそやかしにも剛介は黙ったままだった。
そんな無言の剛介に焦れたように鈴は口を開いた。
「竜崎さん…」
直前まで照れくさそうな顔をしていた鈴の表情が急に引き締まったので、剛介は直感で今から何かが起こると感じた。
「すみません竜崎さん… もし良ければ… ウチとお友達になってくれませんか?」
「友達に? この俺と?」
この場に呼び出されたいきさつから予想していたとはいえ、美人の女子からの申し出に剛介は自分の耳が信じられなかった。その一方で冷静に状況を把握している自分がいた。
「でもどうしてだ? 俺には、あんた… いやあなたから声をかけてもらう憶えがないんだが?」
“鈴もけっこう役者ね… そりゃアンタには憶えがないでしょうよ… ただ鈴はゲームで負けたバツでアンタに声をかけているだけなんだから! そして最後には…”
鈴と剛介の顔を代わる代わるながめる杏奈は他人から見てもワクワクしているのがわかった。
「あのさ、そういう話ならアナタたち二人きりの方がいいんじゃないのかな?」
エマが周囲に人がいることにもかまわずに告白話を続ける二人を気を遣って声をかけた。
「ちょっと、あなたは余計なこと言わないでよ! これから始まる面白いものが目の前で見られなくなっちゃうでしょ!」
「!?」
突然の杏奈の調子の強い、思いもしない物言いにエマは唖然とした。
「お、おい、ちょっと言い過ぎだろ! それにキミ、な、何言ってんだ?」
「はあ? 何のつもり?」
何とか口を開いた陽二に対して杏奈は鋭いまなざしで返答した。
「ウチは誰に聞かれても困ることをしている訳じゃない。だからウチはこのままで大丈夫」
鈴はエマと杏奈の方を見てキッパリと言った。が、剛介の方を向いた顔つきはすぐさま伺うような表情に早変わりした。
「ウチの方はそれでいいとして、竜崎さんはどうですか?」
「俺か? 俺はどっちでもかまわんが」
“気を利かせてあげたけど竜崎は男だから、こんなときのことなんてどうせ何も考えてないんでしょ… でもこの二人のことに私は関わり過ぎないようにしないとね…”
「私が余計なことを言ってごめんなさい。お話しを邪魔しちゃったみたいね。どうぞ続けてちょうだい」
剛介の方を一瞥してからエマは鈴に話を続けることを促した。
「一週間くらい前のことなんですけど… 紙屋町のバスセンターであったことなんです…」
伏目がちになりながら鈴は話を始めた。
「路線バスから空港行きのリムジンバスへの乗り継ごうとした時に持っていた大きなトランクを階段で運ぶことができなくて困っていたんです」
「…」
「それを見て助けてくれた体の大きな男の人がいて… とても重いトランクをウチの代わりに運んでくれただけでなく、先に走って行ってバスの運転手さんに話をしておいてくれたので、ウチはあとバスに乗るだけで良かったんです。お礼を言いたかったのですが、その人は気が付くと名前も言わないでその場を去ってしまっていて…」
鈴は沈黙を続ける剛介の方をチラチラ見ていた。
「その人をこのオリエンテーション合宿で偶然見つけて… それが竜崎さんだったんです…」
「竜崎、かっこいい奴だなお前! 見ず知らずの人を助けるなんて!」
「もしかしてきれいな女の子だったから手助けしちゃったのかな? ちょっと答えなさいよ、竜崎クン!」
「…」
陽二とエマのほめそやかしにも剛介は黙ったままだった。
そんな無言の剛介に焦れたように鈴は口を開いた。
「竜崎さん…」