フルコンタクト(第三種接近遭遇)

文字数 1,750文字

 “オレって今倒れていくところなんだ…”
 
 自分の状況をわりと冷静に隼人は認識していた。まわりの風景はスローモーションのようにゆっくりと動いていく。

 “頭ってぶっ倒れるときにはすごい遠心力がつくと思ってたけど、意外に勢いがつかないもんだな… ” 
 
 それは隼人が開けっ放しの教室の扉を出ようとした瞬間のことだった。何か自分より小さいものが坂道を走るブレーキの壊れた自転車のように前からぶつかって来て、隼人はなすスベもなく後ろへ勢いよく倒れこんだ。

 “知らないうちにアゴを引いてたんだ… 後頭部は強打せずにすんでよかった…”

 不思議なことに床に叩きつけられた時から痛みは感じていなかった。

 「ねえ赤城! 大丈夫!?」

 突然のことに驚いたエマが隼人の顔をのぞき込んで声をかけてきたが、隼人の方はすぐには現実感を感じられなかった。

 「赤城ったら!」

 エマの大声の一瞬の後、隼人の視覚以外の機能が徐々に外部との接触を再開したようだった。

 「い、いったい何があったんだ?」 

 「よかった… 頭は打たなかった?」

 呆然としていた隼人が返事を返してエマは安堵した。

 「教室から出ようとした赤城に廊下から走ってきたカトリが激突したのよ!」

 「そのカトリの方はどうしたんだ?」

 「ワタシならここだよ」

 声のする方に目をやると、カトリが自分の体の上に寝そべっているのを隼人は発見した。

 「カ、カトリ! なんでこんなところにいるんだ!」

 「ゴメンね… 止まり切れなくてハヤトにぶつかっちゃたんだけど、衝撃は全部ハヤトが吸収してくれたみたいで…」

 カトリはちょこっと舌を出して謝った。

 「カトリもいつまでそんなところに乗っかっているのよ!? 早くどいてあげなさい!」

 “こんなところを竜崎が見たらどうなることやら…”

 エマは急いでカトリを隼人の上から降ろそうとしながら剛介の席の方を見やった。

 “あれ? 竜崎も福本もいないじゃない… どこ行っちゃたのかしら?”

 「ほら、赤城だって重いでしょ! 急いで急いで!」

 「ワカッタわよ…」

 エマに急かされてもカトリはすぐにはその場を動こうとはしなかった。
 
 「エマ、ありがとう」

 はにかみながら隼人はエマに丁寧に礼を言った。

 「でも、オレはもうしばらくこのままでもいいけど…」

 「アンタたち、いい加減にしなさい!」

 いつまでも言うことを聞かないカトリと隼人をエマは強制的に立ち上がらせた。


 「それにしても、カトリは何で教室に駆けこんで来たのさ?」

 やっと隼人から離れたカトリにエマがたずねた。

 「カトリはいつもは家にお昼ごはんを食べに帰って、午後一番の授業ギリギリに戻ってくるんじゃなかったっけ?」

 「今日は昼休みになった時にゴースケの動きの背後にはE組のカヅキ スズがいるはずだ、ってエマに教えてもらったから、すぐに話しに行ったの」

 「あれからすぐに行ったの? てっきり私は放課後になってから行くと思ってたわ…」

 あきれ顔のエマに続き隼人がたずねた。

 「それで一体どんな話をしてきたんだ?」

 「次の日曜日にスズはゴースケやフクモトクンと会うの? って聞いたの」

 “あらあら、最初っから直球で行くのねカトリは…”

 「スズはワタシのことを相手にしないって態度で、あなたに答える義務はないって言ったの」

 “カトリに鈴のことを言うように、鈴にはカトリのこと言うことになっているのよ…”

 眉一つ動かすことなくエマはカトリと目を合わせ続けた

 “まあ、鈴からすればカトリはライバルだもんね…”

 「もし会うとしたら何をするつもりなの? って次に聞いたわ」

 “そんなこと聞いたのか…”

 「しつこそうな表情をして、スズはもちろん答える必要はない、って」

 隼人はカトリから鈴とのやりとりを聞いて、その場にいるような緊張を感じていた。

 「逆にスズからあなたは竜崎君とどういう関係なの? って聞かれたの」

 “うわ、鈴そうきたの…”

 「私は竜崎君からはあなたのことを全然聞いていないし、だって…」

 
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登場人物紹介

赤城 隼人(あかぎ はやと)

前の年にある手術を外国でしたため、みんなより1才年上の高校1年生

困っている人を助けずにはいられない優しいところも

窮地におちいると性格が急変することが?!


カトリーナ クライン

カトリック教徒で神様が大好き

ドイツ系スイス人の留学生で日本の文化慣習に疑問を持つことも

日本に来たのは勉強のためだけではなさそうな…

神鳴 響子(かみなり きょうこ)

隼人やカトリーナたちのクラスの担任の先生

柔和な中にも厳しい一面がある、この学校が好きな卒業生

「生徒たちには成長を期待しています」

東条 志織(とうじょう しおり)

誰とでも仲良くなれる社交的な女の子

ときには、周囲の人間関係をひっかき回すことが

実は何を思っているかは誰にもわからない

竜崎 剛介(りゅうざき ごうすけ)

地域で力を持つ竜崎グループの御曹司

家庭環境のせいか典型的オレ様タイプ

根は腐っていないので真の愛に目覚めるか

江間 絵馬(えま えま)

聖エルモ学園の24時間録画カメラ

ジャーナリスト魂の持ち主

相手によっては日和見することも

サトー ヨーコ

学園で一番人気の大人な美人

表向きは保健室のクールな先生

裏の稼業は読んでのお楽しみ

福本 陽二(ふくもと ようじ)

何にも考えず、思ったことをすぐ口にするタイプ

かなりのビビリで動揺が隠せないチキンな面も

加えて志織のことが気になる様子も隠せない

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