一触 → 即発
文字数 2,275文字
剛介に肩を引っ張られた鷹野はそのまま体をクルリと回転させると、握りこぶしを剛介のアゴにピッタリくっつけた。
「ケンカが得意なのはお前だけじゃねーんだよ」
一瞬の静寂のあと鷹野は冷めた目をしながら拳をスっと引くと、いきなり剛介のみぞおちにブチ込んだ。
「ウッ!」
剛介は低いうめき声をあげた。と同時に女子の悲鳴があたりに響いた。
“けっこうケンカ慣れしているなコイツ… 傷が残らないような場所を選んでいるようだし…”
注意深く陽二は事態の推移を見極めようとしていた。
くの字に体が曲がった剛介の背中を引っ張り地面に転げ倒した鷹野は、次に剛介の腹部を蹴ろうとする。
“まずい!”
陽二が二人の間に割って入ろうとした時だった。
「まだウチが竜崎さんに告っている途中だって言っとるんよ」
声のする方を鷹野が見ると、鋭い目つきをした鈴が近づいて来るところだった。
「でもその前にハッキリさせんといかんね。ウチはアンタのことは全然知らんし知ろうとも思わんわ、よく名前もわからない人さん」
“うわっ、それは言っちゃいけないよ! どう見ても自分大好き人間のプライドに傷を付けまくってる!”
エマが心配するまでもなくアッという間に鷹野の形相が変わった。
「なんだとコイツ! この俺様が下手に出ていりゃあ!」
鷹野は鈴の方をにらみつけながら大股で歩いて近づいていく。
「オイ、ちょっと待てよ。こっちの話もまだ終わってないぜ」
苦しげな顔をした剛介が鷹野の肩を後から引っ張ると同時に殴りかかった。が、その拳を鷹野は振り向きざまに腕を上げて受け止めると反対側の手でカウンターパンチを剛介の顔に見舞った。
「もういい加減にしろよ! 二人ともこれ以上はタダのケガじゃすまないぞ!」
地面に倒れ込んでいる剛介と鷹野の間に陽二があわてて割って入った。
「なんだコイツ! 俺様のことを傷つけようとするヤツは誰だろうと許さねえんだよ!」
陽二の襟首を右手で締め上げながら鷹野は顔を近づけて見下ろしてきた。
「ス、スミません…」
“あーあ、なんでこの手のヤカラは威嚇してくるときに皆同じようなことばっかりしてくるんだろ? ホントにマンガみたいで笑えるんだよな…”
怖がる表情を保ったまま陽二は冷静に観察し考える。
“目は相手の目しか見ていない、自分の顔は無防備でガラ空き、腹や足の守りにも無頓着… 隙があり過ぎてコッチが困っちゃうね… へたにケガをさせちゃいけないし今日はアレでいこうかな”
何をするでもなくぶら下がったままの鷹野の左手を陽二は獲った。その手のひらを内側に向けつつ巻くように持ち上げ、手首の関節をひねって極める。
“小手返し”
「!!」
ひねられた手首の痛みに思わず右手に握っていた襟首を放した鷹野に対して、すかさず陽二はさらに左手首の極めて態勢を崩した。そして鷹野の身体を後ろへ押し倒しながら、踏み込んだ足を振り子のように後ろへ振り悠然と鷹野の足を刈る。
“カッコいい…”
それまでは全然目立たなかった、どちらかと言うとサエなかった陽二の意外な面を見て美羽の胸はときめいていた。
「もう争いごとはココまでにしましょうよ、皆さん。竜崎はもういいよな」
周りを見て呼びかける陽二に剛介は黙ってうなずいた。
「ね、タカノさん」
「…」
無言でにらみ返す鷹野を見て、陽二は小さなため息をつきつつ極めた手首へ刺激を与える。すると声を上げる間もなく血相をかえて鷹野は何度もうなずいた。
「皆さんに分かってもらえて良かった」
ほほえむ陽二が手を放すと、また鷹野はニラミつけてから走って去って行った。
「ちょっと、待ってよ鷹野クン!」
そのあとを切羽詰まった声を出しながら杏奈が追って行く。
「ねえ鈴さん、あなた、さっき竜崎を助けるためにワザと鷹野にチョッカイ出したんでしょ」
はにかみながら鈴は剛介を見た。
「だって竜崎さんのこと心配で… 何かしなきゃいけんと思って夢中で…」
“俺のことを心配してだって…”
自分のことを案じてくれる言葉を聞いて剛介の胸は熱くなった。
「竜崎も鈴さんへの危険をそらそうとムリして鷹野へ向かって行ったんだよね」
「さあ、どうだったかな。よく憶えておらんな」
鈴は見逃さなかった。照れながらも自分をチラ見する剛介のことを。
「福本もすごかったね! 私、と~ってもビックリしたよ!」
エマの言葉に陽二の表情が一瞬曇った。
“ばかなマネしちまった… 気をつけないと”
「僕もよく憶えていないんだ… 必死だったからかな?」
急に陽二の声がワザとらしく明るくなった。
「そう言えばスズさんの告白、まだ途中だったよね」
「そうだった! ウチまだ告白の途中だったんよ!」
『生徒の皆さん、トークタイムの終りの時間となりました。すみやかに元の集合場所に戻ってください。繰り返します、生徒の~』
「えっ、これからっていう時に… ウチ必ず連絡しますのでよろしくお願いします、竜崎さん!」
「… わかりました! こちらも楽しみにしています! てか、竜崎は自分で返事しろよ」
顔を赤らめ返事をしない剛介に代わって陽二が返事をした。
「私もご一緒しますので、よろしくお願いしますね! フクモトさん!」
突然のことに陽二は自分の耳を疑いながら、恥ずかしそうに大きな声を出す美羽の方を見た。
その場の全員が別れを惜しんでそれぞれのクラスの集合場所に向かって行く。
「ねえ、あなた… カトリってどんな子なの? 詳しく教えてちょうだい」
エマは鈴からさり気なく耳打ちをされた。
「ケンカが得意なのはお前だけじゃねーんだよ」
一瞬の静寂のあと鷹野は冷めた目をしながら拳をスっと引くと、いきなり剛介のみぞおちにブチ込んだ。
「ウッ!」
剛介は低いうめき声をあげた。と同時に女子の悲鳴があたりに響いた。
“けっこうケンカ慣れしているなコイツ… 傷が残らないような場所を選んでいるようだし…”
注意深く陽二は事態の推移を見極めようとしていた。
くの字に体が曲がった剛介の背中を引っ張り地面に転げ倒した鷹野は、次に剛介の腹部を蹴ろうとする。
“まずい!”
陽二が二人の間に割って入ろうとした時だった。
「まだウチが竜崎さんに告っている途中だって言っとるんよ」
声のする方を鷹野が見ると、鋭い目つきをした鈴が近づいて来るところだった。
「でもその前にハッキリさせんといかんね。ウチはアンタのことは全然知らんし知ろうとも思わんわ、よく名前もわからない人さん」
“うわっ、それは言っちゃいけないよ! どう見ても自分大好き人間のプライドに傷を付けまくってる!”
エマが心配するまでもなくアッという間に鷹野の形相が変わった。
「なんだとコイツ! この俺様が下手に出ていりゃあ!」
鷹野は鈴の方をにらみつけながら大股で歩いて近づいていく。
「オイ、ちょっと待てよ。こっちの話もまだ終わってないぜ」
苦しげな顔をした剛介が鷹野の肩を後から引っ張ると同時に殴りかかった。が、その拳を鷹野は振り向きざまに腕を上げて受け止めると反対側の手でカウンターパンチを剛介の顔に見舞った。
「もういい加減にしろよ! 二人ともこれ以上はタダのケガじゃすまないぞ!」
地面に倒れ込んでいる剛介と鷹野の間に陽二があわてて割って入った。
「なんだコイツ! 俺様のことを傷つけようとするヤツは誰だろうと許さねえんだよ!」
陽二の襟首を右手で締め上げながら鷹野は顔を近づけて見下ろしてきた。
「ス、スミません…」
“あーあ、なんでこの手のヤカラは威嚇してくるときに皆同じようなことばっかりしてくるんだろ? ホントにマンガみたいで笑えるんだよな…”
怖がる表情を保ったまま陽二は冷静に観察し考える。
“目は相手の目しか見ていない、自分の顔は無防備でガラ空き、腹や足の守りにも無頓着… 隙があり過ぎてコッチが困っちゃうね… へたにケガをさせちゃいけないし今日はアレでいこうかな”
何をするでもなくぶら下がったままの鷹野の左手を陽二は獲った。その手のひらを内側に向けつつ巻くように持ち上げ、手首の関節をひねって極める。
“小手返し”
「!!」
ひねられた手首の痛みに思わず右手に握っていた襟首を放した鷹野に対して、すかさず陽二はさらに左手首の極めて態勢を崩した。そして鷹野の身体を後ろへ押し倒しながら、踏み込んだ足を振り子のように後ろへ振り悠然と鷹野の足を刈る。
“カッコいい…”
それまでは全然目立たなかった、どちらかと言うとサエなかった陽二の意外な面を見て美羽の胸はときめいていた。
「もう争いごとはココまでにしましょうよ、皆さん。竜崎はもういいよな」
周りを見て呼びかける陽二に剛介は黙ってうなずいた。
「ね、タカノさん」
「…」
無言でにらみ返す鷹野を見て、陽二は小さなため息をつきつつ極めた手首へ刺激を与える。すると声を上げる間もなく血相をかえて鷹野は何度もうなずいた。
「皆さんに分かってもらえて良かった」
ほほえむ陽二が手を放すと、また鷹野はニラミつけてから走って去って行った。
「ちょっと、待ってよ鷹野クン!」
そのあとを切羽詰まった声を出しながら杏奈が追って行く。
「ねえ鈴さん、あなた、さっき竜崎を助けるためにワザと鷹野にチョッカイ出したんでしょ」
はにかみながら鈴は剛介を見た。
「だって竜崎さんのこと心配で… 何かしなきゃいけんと思って夢中で…」
“俺のことを心配してだって…”
自分のことを案じてくれる言葉を聞いて剛介の胸は熱くなった。
「竜崎も鈴さんへの危険をそらそうとムリして鷹野へ向かって行ったんだよね」
「さあ、どうだったかな。よく憶えておらんな」
鈴は見逃さなかった。照れながらも自分をチラ見する剛介のことを。
「福本もすごかったね! 私、と~ってもビックリしたよ!」
エマの言葉に陽二の表情が一瞬曇った。
“ばかなマネしちまった… 気をつけないと”
「僕もよく憶えていないんだ… 必死だったからかな?」
急に陽二の声がワザとらしく明るくなった。
「そう言えばスズさんの告白、まだ途中だったよね」
「そうだった! ウチまだ告白の途中だったんよ!」
『生徒の皆さん、トークタイムの終りの時間となりました。すみやかに元の集合場所に戻ってください。繰り返します、生徒の~』
「えっ、これからっていう時に… ウチ必ず連絡しますのでよろしくお願いします、竜崎さん!」
「… わかりました! こちらも楽しみにしています! てか、竜崎は自分で返事しろよ」
顔を赤らめ返事をしない剛介に代わって陽二が返事をした。
「私もご一緒しますので、よろしくお願いしますね! フクモトさん!」
突然のことに陽二は自分の耳を疑いながら、恥ずかしそうに大きな声を出す美羽の方を見た。
その場の全員が別れを惜しんでそれぞれのクラスの集合場所に向かって行く。
「ねえ、あなた… カトリってどんな子なの? 詳しく教えてちょうだい」
エマは鈴からさり気なく耳打ちをされた。