自省のとき
文字数 2,419文字
「そんなのウソだろ… 志織さん… そんなことないって、言ってくれよ…」
懇願するような陽二の呼びかけに対する志織の答えはなかった。
動揺する陽二が男から目を離したスキに、男はナイフの刃先を陽二にロックオンした。
“アイツ、今度は福本にナイフの狙いをつけやがった! ダマされたフリもココまでだ!”
「オイ福本! 敵のナイフの刃は飛んでくるぞォ! 注意しろォッ!」
「オッ… わ、わかった!」
一層大きな剛介の声に反応して陽二が敵の男の方へ振り向いた。
「陽二、ちゃんと聞こえているか?! 志織のこともヤツのウソだ! 俺たちを仲間割れさせようとしているだけだ!」
剛介の呼びかけが、陽二に対して祈るような気持ちで志織の顔をうかがわせた。だが、志織の表情は無反応のままで変化がなかった。
“余計なことを!”
顔をしかめた男がナイフのスイッチを押すと、刃が無音で暗闇を切り裂いて突き進んだ。
ダ!ダ!
その場の全員の全く意図しないところから別の銃声と銃口炎が短く起こった。
撃たれた人物が、暗い室内に生じた銃口炎のストロボフラッシュの合間にストップモーションの様に崩れていく姿が見えた。
“ “ “エッ、ヨ、ヨージ?!” ” ”
高校生三人の頭の中に同時に同じ考えが浮かんだ。懐中電灯の光しかない室内で倒れているのは間違いなく陽二だった。
銃声のした方向へその場の全員が目を向け直すと、そこには防具で顔が見えない黒ずくめの男が短めの銃をかまえて無言で立っていた。
「テメエ、いったい陽二に何しやがるーっ!」
怒りに燃えた剛介の目が表情の読めない黒ずくめの男に向けられた。
「仲間に手を出すことは、この俺がゼッテーに許さねえーっ」
にぎり拳を固めた剛介が無言の黒ずくめの男へ襲いかかろうとした時だった。
ダ!ダ!
荒ぶる剛介の攻撃動作に対して、プログラムされた機械が発射したような、2発連射の銃弾が撃ち込まれた。銃の威力の前には、飛びかかろうとする剛介にも何もできることはなかった。剛介の崩れる様子も、銃口炎のフラッシュの合間に、ストップモーションのように映しだされた。
黙ったままの黒ずくめの男は、次に床へ体を横たえている志織の方に向いた。それに対して志織は、先程までの無表情と打って変わって非難するような目で黒ずくめの男をにらみつけた。
“志織…”
黒ずくめの男は志織へ銃口を向けたものの、トリガーを引くことに逡巡した。
“早くしてください…”
と、次の瞬間には志織は哀願するような顔になっていた。
ダ!ダ!
続けて志織も撃たれて銃口炎のフラッシュの合間に声も無く倒れゆく姿をさらした。
「キャーッ! みんなーっ! イヤだ! イヤだ! イヤだ! イヤだーっ!」
仲間が全員撃たれて一人残されたエマは、あらん限りの声で叫び声をあげた。
「人質を撃つのか… この国の官が… 罪のない民間人を撃ってもいいのか?!」
エマを捕らまえていた男は、その間ずっと目の前で繰り広げられる光景が信じられなかった。
「…」
表情の読み取れない黒づくめの男の銃口は次に盾にされているエマに向けられた。
“私もみんなと一緒になれる…”
あらん限りの声を出し終わったエマの目は見開かれていたが、不思議と心の中は落ち着いているようで、半開きの口からは声は全く出なくなっていた。むしろ、銃で撃たれることを待っているようにもらえる見えた。
ダ!ダ!
銃声と銃口炎が起きたが、その中でもエマは静かな様子のままだった。
「『人の嫌がることは私がすすんで行いますマリアさま』」
隼人は自分の行ったことから目をそらさずにつぶやいていた。
もはやエマが自分の体を支える力を失ったため、敵の男はエマの体を抱え続けることができなくなって、床に倒れ行くままにすることしかできなかった。
「そ、それ以上、ち、近づくな!」
自分が取り乱していることを隠そうともせず、次に取り出した『飛びナイフ』を倒れているエマにあたふたと向けながら、敵の男は隼人の方を向いて大声で命令した。
その時、人質がいなくなってガラ空きになった男の体に無音の弾丸が幾度となく撃ち込まれた。『飛びナイフ』を握りしめながら倒れ込んだ男の顔には信じられないといった表情が深く刻まれていた。
《間がいいなカトリは… オレのゴーサインは不要だな…》
一瞬カトリの手際の良さが頭に浮かんだ隼人だったが、倒れた男に対する警戒をとくことなく、銃を向けながら近寄って、その体の上から身に着けているものをボディチェックした。
「なんてヤツだ… 『飛びナイフ』をまだ何本も身に着けていやがった…」
男の服をめくり上げると多数の『飛びナイフ』に身に着けていた姿に隼人はあきれながら、そのまま手足を結束バンドで拘束した。それから倒れた陽二の元へ駆け寄り全身を隅から隅まで確認したが、飛んだナイフの刃による切傷は全く見当たらなかった。
《自分で陽二を撃っておいてなんだが、『飛びナイフ』にやられる前にオレの弾が間に合ったんだ… 良かった…》
『転移』隼人は陽二の(無事)を確認できて安心していた。
《全体的に見て、与えられた状況下では、オレにできる最善の方法が取れただろう…》
そこへ狙撃銃を重そうに抱えたカトリが足を引きずりながら合流してきた。
「ハヤト、どうしてみんなを撃ったの?」
隼人の目を射るように見すえるカトリは明らかに怒っていた。
「ワタシたち仲間なんだよ?」
“オレはこんなことをして良かったのか?”
カトリの問いかけが、『リアル』の隼人に疑問を抱かせ、自省をさせていた。
懇願するような陽二の呼びかけに対する志織の答えはなかった。
動揺する陽二が男から目を離したスキに、男はナイフの刃先を陽二にロックオンした。
“アイツ、今度は福本にナイフの狙いをつけやがった! ダマされたフリもココまでだ!”
「オイ福本! 敵のナイフの刃は飛んでくるぞォ! 注意しろォッ!」
「オッ… わ、わかった!」
一層大きな剛介の声に反応して陽二が敵の男の方へ振り向いた。
「陽二、ちゃんと聞こえているか?! 志織のこともヤツのウソだ! 俺たちを仲間割れさせようとしているだけだ!」
剛介の呼びかけが、陽二に対して祈るような気持ちで志織の顔をうかがわせた。だが、志織の表情は無反応のままで変化がなかった。
“余計なことを!”
顔をしかめた男がナイフのスイッチを押すと、刃が無音で暗闇を切り裂いて突き進んだ。
ダ!ダ!
その場の全員の全く意図しないところから別の銃声と銃口炎が短く起こった。
撃たれた人物が、暗い室内に生じた銃口炎のストロボフラッシュの合間にストップモーションの様に崩れていく姿が見えた。
“ “ “エッ、ヨ、ヨージ?!” ” ”
高校生三人の頭の中に同時に同じ考えが浮かんだ。懐中電灯の光しかない室内で倒れているのは間違いなく陽二だった。
銃声のした方向へその場の全員が目を向け直すと、そこには防具で顔が見えない黒ずくめの男が短めの銃をかまえて無言で立っていた。
「テメエ、いったい陽二に何しやがるーっ!」
怒りに燃えた剛介の目が表情の読めない黒ずくめの男に向けられた。
「仲間に手を出すことは、この俺がゼッテーに許さねえーっ」
にぎり拳を固めた剛介が無言の黒ずくめの男へ襲いかかろうとした時だった。
ダ!ダ!
荒ぶる剛介の攻撃動作に対して、プログラムされた機械が発射したような、2発連射の銃弾が撃ち込まれた。銃の威力の前には、飛びかかろうとする剛介にも何もできることはなかった。剛介の崩れる様子も、銃口炎のフラッシュの合間に、ストップモーションのように映しだされた。
黙ったままの黒ずくめの男は、次に床へ体を横たえている志織の方に向いた。それに対して志織は、先程までの無表情と打って変わって非難するような目で黒ずくめの男をにらみつけた。
“志織…”
黒ずくめの男は志織へ銃口を向けたものの、トリガーを引くことに逡巡した。
“早くしてください…”
と、次の瞬間には志織は哀願するような顔になっていた。
ダ!ダ!
続けて志織も撃たれて銃口炎のフラッシュの合間に声も無く倒れゆく姿をさらした。
「キャーッ! みんなーっ! イヤだ! イヤだ! イヤだ! イヤだーっ!」
仲間が全員撃たれて一人残されたエマは、あらん限りの声で叫び声をあげた。
「人質を撃つのか… この国の官が… 罪のない民間人を撃ってもいいのか?!」
エマを捕らまえていた男は、その間ずっと目の前で繰り広げられる光景が信じられなかった。
「…」
表情の読み取れない黒づくめの男の銃口は次に盾にされているエマに向けられた。
“私もみんなと一緒になれる…”
あらん限りの声を出し終わったエマの目は見開かれていたが、不思議と心の中は落ち着いているようで、半開きの口からは声は全く出なくなっていた。むしろ、銃で撃たれることを待っているようにもらえる見えた。
ダ!ダ!
銃声と銃口炎が起きたが、その中でもエマは静かな様子のままだった。
「『人の嫌がることは私がすすんで行いますマリアさま』」
隼人は自分の行ったことから目をそらさずにつぶやいていた。
もはやエマが自分の体を支える力を失ったため、敵の男はエマの体を抱え続けることができなくなって、床に倒れ行くままにすることしかできなかった。
「そ、それ以上、ち、近づくな!」
自分が取り乱していることを隠そうともせず、次に取り出した『飛びナイフ』を倒れているエマにあたふたと向けながら、敵の男は隼人の方を向いて大声で命令した。
その時、人質がいなくなってガラ空きになった男の体に無音の弾丸が幾度となく撃ち込まれた。『飛びナイフ』を握りしめながら倒れ込んだ男の顔には信じられないといった表情が深く刻まれていた。
《間がいいなカトリは… オレのゴーサインは不要だな…》
一瞬カトリの手際の良さが頭に浮かんだ隼人だったが、倒れた男に対する警戒をとくことなく、銃を向けながら近寄って、その体の上から身に着けているものをボディチェックした。
「なんてヤツだ… 『飛びナイフ』をまだ何本も身に着けていやがった…」
男の服をめくり上げると多数の『飛びナイフ』に身に着けていた姿に隼人はあきれながら、そのまま手足を結束バンドで拘束した。それから倒れた陽二の元へ駆け寄り全身を隅から隅まで確認したが、飛んだナイフの刃による切傷は全く見当たらなかった。
《自分で陽二を撃っておいてなんだが、『飛びナイフ』にやられる前にオレの弾が間に合ったんだ… 良かった…》
『転移』隼人は陽二の(無事)を確認できて安心していた。
《全体的に見て、与えられた状況下では、オレにできる最善の方法が取れただろう…》
そこへ狙撃銃を重そうに抱えたカトリが足を引きずりながら合流してきた。
「ハヤト、どうしてみんなを撃ったの?」
隼人の目を射るように見すえるカトリは明らかに怒っていた。
「ワタシたち仲間なんだよ?」
“オレはこんなことをして良かったのか?”
カトリの問いかけが、『リアル』の隼人に疑問を抱かせ、自省をさせていた。