二人きりの時に剛介が聞きたかったこと
文字数 2,101文字
「うわ、ナニこれ… 思っていたより酷いわね…」
廃ホテルに立ち入ったカトリの感想は素直で直接的なものだった。
「建物の中は散らかっているけど、電気がついていないだけじゃないの」
“カトリはこんな状態を見ても全然怖がらないのか… もともと肝試しは怖くないと言ってはいたが…”
カトリの態度に拍子抜けした剛介には、今の状況はもはや肝試しとは言えなかった。カトリが怖がって少しは身を寄せるとか、手を握ってくるとかのイベントが起こることを若干期待していたが、その気配はゼロだった。
“まあ、カトリにはソノ気はないかも知れないが、二人だけのチャンスを逃す訳にはいかない!”
「ゴースケたちはこんなところで本当に勇気を試すつもりだったの?」
あたりを見回しながらカトリは『キモダメシ』に疑いを持っている様子だった。
「まだこの位じゃ肝試しにはならないに決まっているだろ」
“そういえば、こんなところでグズグズしていられないのよね!”
「ゴースケ、先の方へ進むわよ」
カトリは懐中電灯の明かりを点けて、奥へ進み始めた。
“ちょっとカトリを困らしてみようか”
オリエンテーション合宿の高揚感や解放感のせいか、剛介はイタズラ心を起こした。
「おい、カトリ、日本の肝試しではペアの二人は手をつなぐことになっているんだぞ。知っているか?」
「そうなの? 知らなかったわ。では、手をつなぎましょうか!」
カトリは剛介と手をつなごうとして手を剛介の方に手を伸ばしてきた。剛介はカトリの知らないことに乗じてだますことに罪の意識を感じて、近寄るカトリの手から遠のいた。
「どうしたのゴースケ? それじゃ手をつなげないよ?」
「カトリ、肝試しで二人で手をつなぐっていうのはウソなんだ。だまして悪かった、ゴメン」
剛介は真剣な表情でカトリに謝ったが、カトリの方は微笑んでいた。
「ゴースケがウソ、いいえ冗談を言っていることは知っていたわ。シオリとエマもゴースケならそんなイタズラを仕掛けてくるだろうから気をつけるように教えてくれたわ」
“女ども二人でそんなことをカトリに吹き込んでいたのか…”
「だけど、ワタシは『キモダメシ』をゴースケとも楽しみたいの。せっかくだからワタシと手をつないでちょうだい」
カトリは剛介の手を優しく握った。剛介はカトリといると自分の家庭では感じたことのない安らぎを感じられた。そして、これからはカトリのことは、からかってはいけないと心に刻み込んだ。
“ここでカトリと何か話をしなくては… それからあの『質問』をカトリにするとしても、いきなりだと当然引かれるだろう… 話の順序を考えて、まずは当たり障りのないことから話題にしないとな…”
「カトリ、日本での生活には慣れてきたか?」
「まだ、日本に来てから1か月ちょっとだけど、けっこう慣れてきたわ。日本の食べ物は美味しいね」
「スイスの学校と日本の学校はどんなところが違うんだ?」
「前にも話したかもしれないけど、スイスの学校では、教育を受けることが一番の目的で、服装やファッションも本人や家庭の自主性に任せられているの。日本では制服を着ることになっているでしょ。でも、この学校の制服はカワイイから、ワタシとても気に入っている着ているのよ! 男子の制服もキチンとしていいと思うわ。あと、お昼ご飯は自分のお家で食べるのが普通だから、私も昼食はお家まで食べに帰っているの」
「おばさんからの電話の相手は大変なんじゃないか?」
剛介の質問に、お手上げというゼスチャーをしてカトリは返答する。
「時差のことも考えてくれればいいんだけどね… でも、おばさんは今まで苦労もしてきているし、厳しくは言えないわ…」
“ごめんねゴースケ、本当にあんまりゆっくりしていられないんだ”
カトリは剛介の手を引っ張って、歩くスピードを上げた。急に体を引かれた剛介はバランスを崩した。
“カトリは何を急いでいるんだ? 早く奥に行こうとするなんて、まさか… そうだとしても、まだあの『質問』には早過ぎる… その前にこの質問で試そう”
「ところで、カトリはどんな男子が好きなんだ?」
カトリは歩みを止めて沈黙した。その時点で、剛介はしくじったと思って後悔した。
「んー、私の好きな男子のタイプは…」
少し考え込んでから言葉を続けた。
「そうね、いい言葉遣いの人で、人を助けることができて、誰からも尊敬される人かしら」
カトリの返事をする態度が剛介を安心させた。
“いけない、思わず立ち止まっちゃったわ! 先へ進まなきゃ!”
「そのような人なら確かにカトリにお似合いだろうな… できれば俺もそうなりたいな…」
この剛介の返事はカトリにスルーされたようだったが、話の順序に気をとられていた剛介はそれに気づいていなかった。
“このくらいの質問ならまだ大丈夫だったみたいだな… では、あの『質問』はどうだ?”
廃ホテルに立ち入ったカトリの感想は素直で直接的なものだった。
「建物の中は散らかっているけど、電気がついていないだけじゃないの」
“カトリはこんな状態を見ても全然怖がらないのか… もともと肝試しは怖くないと言ってはいたが…”
カトリの態度に拍子抜けした剛介には、今の状況はもはや肝試しとは言えなかった。カトリが怖がって少しは身を寄せるとか、手を握ってくるとかのイベントが起こることを若干期待していたが、その気配はゼロだった。
“まあ、カトリにはソノ気はないかも知れないが、二人だけのチャンスを逃す訳にはいかない!”
「ゴースケたちはこんなところで本当に勇気を試すつもりだったの?」
あたりを見回しながらカトリは『キモダメシ』に疑いを持っている様子だった。
「まだこの位じゃ肝試しにはならないに決まっているだろ」
“そういえば、こんなところでグズグズしていられないのよね!”
「ゴースケ、先の方へ進むわよ」
カトリは懐中電灯の明かりを点けて、奥へ進み始めた。
“ちょっとカトリを困らしてみようか”
オリエンテーション合宿の高揚感や解放感のせいか、剛介はイタズラ心を起こした。
「おい、カトリ、日本の肝試しではペアの二人は手をつなぐことになっているんだぞ。知っているか?」
「そうなの? 知らなかったわ。では、手をつなぎましょうか!」
カトリは剛介と手をつなごうとして手を剛介の方に手を伸ばしてきた。剛介はカトリの知らないことに乗じてだますことに罪の意識を感じて、近寄るカトリの手から遠のいた。
「どうしたのゴースケ? それじゃ手をつなげないよ?」
「カトリ、肝試しで二人で手をつなぐっていうのはウソなんだ。だまして悪かった、ゴメン」
剛介は真剣な表情でカトリに謝ったが、カトリの方は微笑んでいた。
「ゴースケがウソ、いいえ冗談を言っていることは知っていたわ。シオリとエマもゴースケならそんなイタズラを仕掛けてくるだろうから気をつけるように教えてくれたわ」
“女ども二人でそんなことをカトリに吹き込んでいたのか…”
「だけど、ワタシは『キモダメシ』をゴースケとも楽しみたいの。せっかくだからワタシと手をつないでちょうだい」
カトリは剛介の手を優しく握った。剛介はカトリといると自分の家庭では感じたことのない安らぎを感じられた。そして、これからはカトリのことは、からかってはいけないと心に刻み込んだ。
“ここでカトリと何か話をしなくては… それからあの『質問』をカトリにするとしても、いきなりだと当然引かれるだろう… 話の順序を考えて、まずは当たり障りのないことから話題にしないとな…”
「カトリ、日本での生活には慣れてきたか?」
「まだ、日本に来てから1か月ちょっとだけど、けっこう慣れてきたわ。日本の食べ物は美味しいね」
「スイスの学校と日本の学校はどんなところが違うんだ?」
「前にも話したかもしれないけど、スイスの学校では、教育を受けることが一番の目的で、服装やファッションも本人や家庭の自主性に任せられているの。日本では制服を着ることになっているでしょ。でも、この学校の制服はカワイイから、ワタシとても気に入っている着ているのよ! 男子の制服もキチンとしていいと思うわ。あと、お昼ご飯は自分のお家で食べるのが普通だから、私も昼食はお家まで食べに帰っているの」
「おばさんからの電話の相手は大変なんじゃないか?」
剛介の質問に、お手上げというゼスチャーをしてカトリは返答する。
「時差のことも考えてくれればいいんだけどね… でも、おばさんは今まで苦労もしてきているし、厳しくは言えないわ…」
“ごめんねゴースケ、本当にあんまりゆっくりしていられないんだ”
カトリは剛介の手を引っ張って、歩くスピードを上げた。急に体を引かれた剛介はバランスを崩した。
“カトリは何を急いでいるんだ? 早く奥に行こうとするなんて、まさか… そうだとしても、まだあの『質問』には早過ぎる… その前にこの質問で試そう”
「ところで、カトリはどんな男子が好きなんだ?」
カトリは歩みを止めて沈黙した。その時点で、剛介はしくじったと思って後悔した。
「んー、私の好きな男子のタイプは…」
少し考え込んでから言葉を続けた。
「そうね、いい言葉遣いの人で、人を助けることができて、誰からも尊敬される人かしら」
カトリの返事をする態度が剛介を安心させた。
“いけない、思わず立ち止まっちゃったわ! 先へ進まなきゃ!”
「そのような人なら確かにカトリにお似合いだろうな… できれば俺もそうなりたいな…」
この剛介の返事はカトリにスルーされたようだったが、話の順序に気をとられていた剛介はそれに気づいていなかった。
“このくらいの質問ならまだ大丈夫だったみたいだな… では、あの『質問』はどうだ?”