知らないこと存ぜぬこと
文字数 2,145文字
「起こされた時、なぜ私がテラスにいたか全く理由がわからないんです…」
気持ち良い朝日が差し込んでいる、きれいに片付いた部屋の中で、志織はうな垂れながら神妙な顔つきをして、一対一で会い向かっている響子先生に話を始めた。
“とにかく、肝試しにみんなで行ったことだけはゼッタイに先生には言わないように注意しなくちゃね…”
素直に応対するつもりではあったが、先生に黙っておくべきことは決して忘れないよう注意を払いながら志織は話を続けた。
「私とカトリとエマは、レクリエーションで騒ぎ過ぎちゃったんです… それで昨晩は疲れてしまって、みんな消灯後すぐに寝てしまったんですが…」
「でも、昨日の晩の消灯後に竜崎君と福本君が、今日の朝の行事の件であなたたち女子の役員の部屋へ連絡に行くところに、体育の伊勢先生が出合っているのよ」
何かを探るような顔をした響子先生が、志織のことを見すえてキッパリと言い切った。
「エッ、その話本当ですか?!」
身に覚えがない初耳の事態に志織は心の底からビックリしていた。
「あなたは本気でそう言っているの? あの伊勢先生がウソを言う訳がないじゃない」
尋常じゃない驚き方をしている志織の返事と態度に響子先生の方が目を丸くした。
「では、その伊勢先生は竜崎君や福本君が私たちの部屋に入って行くところを実際に見たんですか?! 何か証拠はあるんですか?! 私はお布団に入ってから一度も起き出したりしていません! 男子にも会っていません! だから、眠っているのを起こされた時に自分が外のテラスにいたことには本当に驚いたんです!」
顔を真っ赤にしながら、途切れなく反論する志織に気圧されて響子先生はたじろぎ気味だった。
「でも、あなたは起こされた時には足にケガをしていて、懐中電灯を持っていたわよね… ずっと部屋で寝ていたはずなら、どうしてそうなるのかしら…」
落ち着いた口調でおだやかに質問する響子先生は、反論のできない事実で志織に対して詰め寄ってきた。
「私が? ケガをしていて? 懐中電灯を持っていた?」
語尾を上げる話し方をしながら、言われのないことを押し付けられたように、志織の顔には不服そうな様子がありありと表れていた。そう言われれば懐中電灯をポケットに持っていることにも、志織は今になって気がついた。
「そうらしい事実があることは認めますが、それは私の知らないうちにそうなっていたんです! ケガをしていた理由とか懐中電灯を持っていた理由を、私の方が教えて欲しいです!」
そんな志織の胸中にも、いま自分の知る少ない情報だけでも、ある疑問が生じてきていた。
「先生、さっきテラスにいたのは、私とエマと竜崎君と福本君の四人ですよね」
「そうですが、それがどうかしましたか?」
「それでは、その時カトリと赤城君はどうしていたのですか?」
「あなたたちの部屋へ確認に行った時には、その二人は自分たちの部屋でグッスリと眠っていましたよ」
志織が何を言いたいのかを図りかねる顔をして響子先生は教えてくれた。
「エッ! その二人だけどうして?」
思ったことが整理されずに志織の口からそのまま飛び出していた。
「その二人の方が普通ですよ。こちらの方は、あなたたち四人のことの方が余程わけが分かりませんが」
納得いかないといった表情のまま、響子先生は話を先に進めた。
「では、あなたには今朝の一件になぜ自分が関係したかも、またケガをしていたこと等についても、本当に分らず心あたりもないと言うのですね…」
「全くそのとおりです」
一点の曇りもない目で響子先生の目を直視して、その質問へ返答した志織であったが、自分にとっては一番隠したい肝試しのことに触れられないように、時にはワザと大げさな反応していた。
「いずれにせよ、あなたたち四人は消灯時間後に部屋を出た事実があります。学園に戻ってからゆっくり話し合いましょう」
額に手をあてながら響子先生は志織を解放した。志織は部屋を出る時に後ろから、ため息が聞こえたような気がした。
“みんなも事情を聞かれているのかしら…”
志織は事情聴取が終了になったのでひと安心していたが、他の仲間たちのことを心配し始めていた。と同時に、いつの間にか負った自分のケガとかについても、とても不思議に思っていた。それともう一つの事柄についても…
“それにしても、なぜ赤城とカトリは私たちと一緒にテラスにいなかったのかしら…”
四人の生徒たちを個別の部屋で聞き取りした教師たちは生徒たち全員からは志織と同じような話しか聞き取れなかった。昨晩は体育の女性教師に出合ったことは全くないと、剛介と陽二も真顔で言い張っていると聞かされた、見回り当番の女性教師は開いた口がふさがらなかった。
後日、この事件は学園内の有識者から「春の夜の集団健忘事件」「舟入キャトルケース」「女性教師の生霊遭遇」などの呼び名を与えられ、未解決怪奇事件として世界的な陰謀との関与を疑われつつ、聖エルモ新七不思議の筆頭に挙げられ続けた。
気持ち良い朝日が差し込んでいる、きれいに片付いた部屋の中で、志織はうな垂れながら神妙な顔つきをして、一対一で会い向かっている響子先生に話を始めた。
“とにかく、肝試しにみんなで行ったことだけはゼッタイに先生には言わないように注意しなくちゃね…”
素直に応対するつもりではあったが、先生に黙っておくべきことは決して忘れないよう注意を払いながら志織は話を続けた。
「私とカトリとエマは、レクリエーションで騒ぎ過ぎちゃったんです… それで昨晩は疲れてしまって、みんな消灯後すぐに寝てしまったんですが…」
「でも、昨日の晩の消灯後に竜崎君と福本君が、今日の朝の行事の件であなたたち女子の役員の部屋へ連絡に行くところに、体育の伊勢先生が出合っているのよ」
何かを探るような顔をした響子先生が、志織のことを見すえてキッパリと言い切った。
「エッ、その話本当ですか?!」
身に覚えがない初耳の事態に志織は心の底からビックリしていた。
「あなたは本気でそう言っているの? あの伊勢先生がウソを言う訳がないじゃない」
尋常じゃない驚き方をしている志織の返事と態度に響子先生の方が目を丸くした。
「では、その伊勢先生は竜崎君や福本君が私たちの部屋に入って行くところを実際に見たんですか?! 何か証拠はあるんですか?! 私はお布団に入ってから一度も起き出したりしていません! 男子にも会っていません! だから、眠っているのを起こされた時に自分が外のテラスにいたことには本当に驚いたんです!」
顔を真っ赤にしながら、途切れなく反論する志織に気圧されて響子先生はたじろぎ気味だった。
「でも、あなたは起こされた時には足にケガをしていて、懐中電灯を持っていたわよね… ずっと部屋で寝ていたはずなら、どうしてそうなるのかしら…」
落ち着いた口調でおだやかに質問する響子先生は、反論のできない事実で志織に対して詰め寄ってきた。
「私が? ケガをしていて? 懐中電灯を持っていた?」
語尾を上げる話し方をしながら、言われのないことを押し付けられたように、志織の顔には不服そうな様子がありありと表れていた。そう言われれば懐中電灯をポケットに持っていることにも、志織は今になって気がついた。
「そうらしい事実があることは認めますが、それは私の知らないうちにそうなっていたんです! ケガをしていた理由とか懐中電灯を持っていた理由を、私の方が教えて欲しいです!」
そんな志織の胸中にも、いま自分の知る少ない情報だけでも、ある疑問が生じてきていた。
「先生、さっきテラスにいたのは、私とエマと竜崎君と福本君の四人ですよね」
「そうですが、それがどうかしましたか?」
「それでは、その時カトリと赤城君はどうしていたのですか?」
「あなたたちの部屋へ確認に行った時には、その二人は自分たちの部屋でグッスリと眠っていましたよ」
志織が何を言いたいのかを図りかねる顔をして響子先生は教えてくれた。
「エッ! その二人だけどうして?」
思ったことが整理されずに志織の口からそのまま飛び出していた。
「その二人の方が普通ですよ。こちらの方は、あなたたち四人のことの方が余程わけが分かりませんが」
納得いかないといった表情のまま、響子先生は話を先に進めた。
「では、あなたには今朝の一件になぜ自分が関係したかも、またケガをしていたこと等についても、本当に分らず心あたりもないと言うのですね…」
「全くそのとおりです」
一点の曇りもない目で響子先生の目を直視して、その質問へ返答した志織であったが、自分にとっては一番隠したい肝試しのことに触れられないように、時にはワザと大げさな反応していた。
「いずれにせよ、あなたたち四人は消灯時間後に部屋を出た事実があります。学園に戻ってからゆっくり話し合いましょう」
額に手をあてながら響子先生は志織を解放した。志織は部屋を出る時に後ろから、ため息が聞こえたような気がした。
“みんなも事情を聞かれているのかしら…”
志織は事情聴取が終了になったのでひと安心していたが、他の仲間たちのことを心配し始めていた。と同時に、いつの間にか負った自分のケガとかについても、とても不思議に思っていた。それともう一つの事柄についても…
“それにしても、なぜ赤城とカトリは私たちと一緒にテラスにいなかったのかしら…”
四人の生徒たちを個別の部屋で聞き取りした教師たちは生徒たち全員からは志織と同じような話しか聞き取れなかった。昨晩は体育の女性教師に出合ったことは全くないと、剛介と陽二も真顔で言い張っていると聞かされた、見回り当番の女性教師は開いた口がふさがらなかった。
後日、この事件は学園内の有識者から「春の夜の集団健忘事件」「舟入キャトルケース」「女性教師の生霊遭遇」などの呼び名を与えられ、未解決怪奇事件として世界的な陰謀との関与を疑われつつ、聖エルモ新七不思議の筆頭に挙げられ続けた。