本当の気持ち

文字数 2,472文字

 「早く、着信を見ないと!」

 カトリとの電話を終えると隼人はすぐにスマホの電話の着信履歴を確認した。

 「東条からこんなに電話の着信が来ていた… この間オレはのんびりと風呂につかっていたのかよ… 連絡がとれずに東条は困っていただろうな…」

 いても立ってもいられなくなった隼人は急いで志織へ電話をかけたが、直ぐには電話はつながらなかった。

 ”こんな思いを東条もしていたんだ、きっと…”

 スピーカーから聞こえ続ける呼び出し音が隼人には恨めしかった。


 『はい、もしもし』

 「東条、悪かった! 何回も電話をかけてきてくれたのにスルーしちゃって、オレ… 本当にゴメン!」

 10コールほどしてから志織が電話にでるやいなや、隼人の口からは謝罪の気持ちが噴き出した。

 「打ち上げのメールのことならカトリに教えてもらった… いったいどうしたんだ? 教えてくれないか?」

 『私の方こそ赤城に相談をしないでみんなにメールを回しちゃって… ごめんなさい…』

 「いや、そのことはいいんだ… 本当に何があったんだ?」

 『剛介と福本から打ち上げの日程アンケートの返事がメールであってね… 日曜日はダメだから土曜日にしてくれって…』

 「そうか… あの二人とも全然連絡してこないくせにしょうがないな…」

 『それに、隼…赤城とも日曜日がいいねって話をしていたから… とにかく赤城に相談したくって連絡取ろうとしたんだけど…』

 語尾が消えゆくように話す志織に対して、その時にはのんびりと入浴をしていた隼人は申し訳がなかった。  

 『それで剛介と直接話をして日曜日に変えてもらえないか相談しようと思って電話してみたの… そうしたら…』

 「そうしたら?」

 『思った以上に剛介が強硬で… ぜんぜん返事をしなかったことを突いたら、俺たちには俺たちの都合があるんだって、いつになく言い張ってね…』 

 剛介の言いぐさに隼人は腹立ちをおぼえた。一方で志織が大切なことにワザと触れないでいるような気がした。それはカトリとの電話の最中に思い浮かんだ事柄だった。

 「それで打ち上げは土曜日にすることにして、東条は自分が予約だけをして参加しないってことにしたのか?」

 隼人は自分の直感を確かめるために敢えて意地悪な質問をした。 

 『カトリも土曜日か日曜日か早くハッキリさせて欲しがっていたでしょ… だからみんなにメールを早く回したの…』 

 「ところで、打ち上げを土曜日にしたら東条が参加することは全然できないのか?」

 『…』
 
 「どうして土曜日に打上げすると東条は出られないんだ?」

 『……』

 電話で話をする二人の間が微妙な空気と気まずい沈黙に包まれた。

 「なにか話してくれないかな、東条?」

 『…私だって』

 スマホの向こう側では志織が気持ちが抑えられなくなったようだった。

 『……私だって打ち上げには行きたいんだよ! 本当は!』

 “東条すまない…”

 意図していたこととは言え、ワザと志織を怒らせたことに隼人は大変な罪悪感を抱いた。

 『ごめん、感情的になって… あのね… 実は赤城にしか話せないことがあるんだよ…』

 一転して、小さな小さな声が隼人のスマホを通じて聞こえてきた。

 『恥ずかしいことだから言いにくいんだけど、私の家はみんなの家みたいに裕福じゃないんだ』

 「……」

 “やっぱり東条は打ち上げの費用のことをとても気にしていたんだ…”

 『それに打ち上げ費用の金額が初めの予定より上がったでしょ…』

 「費用が高ければ相談してくれっていったよな… なんでその時に話をしてくれなかったんだよ…」

 『もともと費用のことは自分で何とかしようと思っていたの… それに、たとえ高くなっても赤城のしたいように、赤城が喜ぶようにさせてあげたかったし…』

 自分の感覚や思い込みが志織に無理を強いたり負担を負わせたことを隼人はとても恥じ入った。

 『赤城に打ち上げのお店探しの時にスマホをいじって話に集中しないで叱られちゃったけど、ずっと打ち上げの費用をかせぐためのアルバイトを探していたの。そのアルバイトを土曜日の午後にして日曜日の打ち上げの費用にしようと思ってたんだ』

 「でも、土曜日に打ち上げがあるとなると」

 『そう、お金を用意する時間がなくなるの』

 ”オレも東条に迷惑かけたんだから何とかしないと”

 「…なあ東条、もし金の用意が間に合わないのならオレが

 『ううん、大丈夫。お金のことで他の人にお世話にはなりたくない』

 「金を用意するのがダメなら、オレが代わりに何かバイトを

 『本当にいいの、ありがとう』 

 隼人の言葉をさえぎるようにして志織はキッパリと答えた。

 「わかったよ… でも、あんまり無理するなよ」

 隼人は志織のことを心から案じていた。

 「実は… 東条のことをカトリがとても心配してくれて… それでオレに連絡してきたんだ」

 “エッ、なんでカトリが私なんかのことを心配してくれるの!?”

 志織は隼人の言っていることがすぐには信じられなかった。

 「今、カトリも東条のことを気にかけて竜崎に打ち上げを日曜日にできないか頼んでいるから少し待ってくれ。だから、打ち上げに来ないなんて言わないでくれ」

 “剛介は何か大事なことがありそうだったから、カトリが頼んでも難しいだろうな… 結局は自分でお金を用意しなければならない… それに私だって隼人と一緒に遊びたいもの…” 

 『…うん、わかったよ赤城… 心配かけてごめんね』

 “土曜日でも日曜日でもお金の用意が間に合うようにしないと… でも、今からできるバイトである程度のお金が稼げるのなんて限りがある… けど、頑張ろう”

 隼人への返答の穏やかな口調とは裏腹に、拳を握りしめ決意する志織には何もせずに待つだけのつもりは全くなかった。
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登場人物紹介

赤城 隼人(あかぎ はやと)

前の年にある手術を外国でしたため、みんなより1才年上の高校1年生

困っている人を助けずにはいられない優しいところも

窮地におちいると性格が急変することが?!


カトリーナ クライン

カトリック教徒で神様が大好き

ドイツ系スイス人の留学生で日本の文化慣習に疑問を持つことも

日本に来たのは勉強のためだけではなさそうな…

神鳴 響子(かみなり きょうこ)

隼人やカトリーナたちのクラスの担任の先生

柔和な中にも厳しい一面がある、この学校が好きな卒業生

「生徒たちには成長を期待しています」

東条 志織(とうじょう しおり)

誰とでも仲良くなれる社交的な女の子

ときには、周囲の人間関係をひっかき回すことが

実は何を思っているかは誰にもわからない

竜崎 剛介(りゅうざき ごうすけ)

地域で力を持つ竜崎グループの御曹司

家庭環境のせいか典型的オレ様タイプ

根は腐っていないので真の愛に目覚めるか

江間 絵馬(えま えま)

聖エルモ学園の24時間録画カメラ

ジャーナリスト魂の持ち主

相手によっては日和見することも

サトー ヨーコ

学園で一番人気の大人な美人

表向きは保健室のクールな先生

裏の稼業は読んでのお楽しみ

福本 陽二(ふくもと ようじ)

何にも考えず、思ったことをすぐ口にするタイプ

かなりのビビリで動揺が隠せないチキンな面も

加えて志織のことが気になる様子も隠せない

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