二人きりの時に本当に剛介が聞きたかったこと
文字数 2,542文字
“このくらいの話ならまだ大丈夫だったみたいだな… では、あの『質問』はどうだ?”
「カトリには今、好きな人はいるのか?」
剛介の質問が二人しかいない室内に響いた。
その瞬間、また立ち止まってしまったカトリは顔が赤くなっていくことを自覚したが、暗闇の中であることを忘れて、剛介に知られないように下を向いて黙り込んだ。剛介は反射的にカトリの顔を見ようとしたが、暗闇にも関わらずカトリは逃げるように顔を横に向けて声を絞り出した。
「ワ、ワタシにはいるけど、ゴースケには今、好きな人はいるの?」
逆に質問されて、突然カトリと同じ状況に置かれた剛介は答えに詰まってしまった。答え方を間違えると自らを窮地に追い込む難問だ。どうにか答えをはぐらかすことができないものか…
「カ、カトリは俺のことをどう思う?」
剛介も苦しまぎれに、カトリへ質問に質問で応じてなんとか切り返した。
“ラッキー! この質問で今までの話のヘンな雰囲気を変えなくちゃ!”
カトリは再び早足で進み始めて、当たり前のように答えを返した。
「ゴースケは、体が大きくて力も強い男の人よ。でも、友達はたくさんいるのかしら…」
自分の思いに反していつの間にか話が自分のことに変わってしまっていたが、剛介はカトリが相手なら、それはそれで素直に話ができた。
「俺には友達がいないんだ。自分からは友達を作ったことはなくて、俺の言うことを聞かせてきただけだ。そう、父親がしていることをマネしてきただけなんだ」
「ゴースケはお父さんのことを、どう思っているの?」
二人は歩みを進めながら話を続けていた。
「地元で有名な企業を経営したり、政治家や役所に顔が利いてスゴイと思うが、人としては立派だとは思わない」
「それはどうしてなの?」
「まわりの人たちを自分の道具としか思っていないし、力ずくで人に言うことを聞かせるからだ。俺もそうされる人間の一人なんだ」
「ゴースケ、聞いて」
カトリは歩みを止めて、暗闇の中だったが剛介の方に顔を向けて話かけた。
「人にしてもらいたいと思うことはなんでも、あなた方も人にしなさい」
カトリの一言に剛介はハッとした。
「ゴースケはそんなお父さんのマネをずっと続けていくの?」
「… … …」
しばらく黙っていた剛介が口を開いた。
「いや、そんなことはない。俺は自分で考えて自分らしく生きていく、絶対に」
「ゴースケは強いのね。見直しちゃった。」
カトリの言葉を嬉しく思った剛介は、赤くなった顔をカトリに見られずに済ましてくれた暗闇に感謝していた。
「ゴースケ、あれが目印のキーホルダーを置いてある机に違いないわ。あの机とキーホルダーを片付けるようにハヤトに言われたのよ」
懐中電灯の円状の光が部屋の真ん中にある机とキーホルダーを照らし出した。気がつくと二人は隼人が目印を置いた部屋に到着していた。
“机を元に戻すことだけのために、あんなにも赤城はカトリと二人きりで話をしたがったのか?”
「キーホルダーはともかく、わざわざ机を元に戻す必要はないだろ。それに、」
カトリは、拳の人指し指を立てて、剛介の顔の前で、車のワイパーのように動かした。
「こんなに荒れ果てたところでも『発つ鳥あとを汚さず』よ!」
モヤモヤした様子の剛介は、カトリと協力して机を左側の壁まで運び終えて、カトリがキーホルダーをポケットに入れようとした瞬間だった。
“机を戻すだけで、あんなに二人きりの話にこだわったなんてどう考えても変だ”
納得できない剛介はカトリを問い詰めようとして、カトリの腕を乱暴につかまえた。不意のことにカトリはキーホルダーを手放してしまったが、勢いのついたキーホルダーは暗闇に吸い込まれていった。
「カトリ、赤城と二人して何を隠しているんだ?!」
「突然ナニするの! ゴースケ、キーホルダーが無くなっちゃたわよ!」
「そんなモノより、お前たちが話をしていたことの方が大事だろ!」
「ナニ言ってんの! あのキーホルダーはワタシにとって、とっても大切なものなのよ!」
“また捜しに来れるような場所じゃないのよ! ここは危険な場所なんだから!”
カトリは今まで誰にも見せたことのないような取り乱し方をして、懐中電灯でむやみに床を照らしてキーホルダーを捜し始めた。
「カトリ、俺の話も聞いてくれ!」
闇の中で必死にキーホルダーを捜すカトリに手をかけようとして、剛介は身をかがめながら足を進めた。
ガ、ガン!
「アッ?!」
剛介は真っ暗な床に置いてある鉄の塊に足をとられ、そのままカトリの体の上に倒れ込んでしまった。
「イ、イタイ!」
受け身をとれない体勢のままで、自分より大きな剛介に倒れ込まれたカトリは、まともに剛介の下敷きになり、足首を痛めてしまった。
「カトリ、大丈夫か?!」
足首を押さえたまま無言のカトリに、あわてて体をカトリの上から動かしながら剛介はうろたえることしかできなかった。
その時、音のない暗闇の中でカトリのスマホは隼人からの着信を告げた。
「カトリ、志織と陽二を見つけた。用件が終わっていたら、すぐに帰って来いよ」
「用件は終わったけど、大切なキーホルダーが無くなったんだよ! 見つけたらすぐに帰るから!」
痛みをこらえた声でカトリは隼人に訴えた。
「カトリ、そのまま残ると剛介も一緒に危険な目に遭うかも知れないんだ。すぐに戻って来い」
「ビッテ!」
「カトリ、みんなのために一刻を争うんだ! 早く戻って来いよ。待っているぞ」
スマホでの隼人との会話は終わらせて、残念そうな顔をしながらカトリは、有無を言わせない口調で、剛介の目を直視して話しかけた。
「ゴースケ、聞きなさい。私はゴースケを信じているの、わかるよね。だからゴースケも私を信じて、お願い」
剛介がうなづくのを確認してから、カトリはその場から無言で帰途についた。
「カトリには今、好きな人はいるのか?」
剛介の質問が二人しかいない室内に響いた。
その瞬間、また立ち止まってしまったカトリは顔が赤くなっていくことを自覚したが、暗闇の中であることを忘れて、剛介に知られないように下を向いて黙り込んだ。剛介は反射的にカトリの顔を見ようとしたが、暗闇にも関わらずカトリは逃げるように顔を横に向けて声を絞り出した。
「ワ、ワタシにはいるけど、ゴースケには今、好きな人はいるの?」
逆に質問されて、突然カトリと同じ状況に置かれた剛介は答えに詰まってしまった。答え方を間違えると自らを窮地に追い込む難問だ。どうにか答えをはぐらかすことができないものか…
「カ、カトリは俺のことをどう思う?」
剛介も苦しまぎれに、カトリへ質問に質問で応じてなんとか切り返した。
“ラッキー! この質問で今までの話のヘンな雰囲気を変えなくちゃ!”
カトリは再び早足で進み始めて、当たり前のように答えを返した。
「ゴースケは、体が大きくて力も強い男の人よ。でも、友達はたくさんいるのかしら…」
自分の思いに反していつの間にか話が自分のことに変わってしまっていたが、剛介はカトリが相手なら、それはそれで素直に話ができた。
「俺には友達がいないんだ。自分からは友達を作ったことはなくて、俺の言うことを聞かせてきただけだ。そう、父親がしていることをマネしてきただけなんだ」
「ゴースケはお父さんのことを、どう思っているの?」
二人は歩みを進めながら話を続けていた。
「地元で有名な企業を経営したり、政治家や役所に顔が利いてスゴイと思うが、人としては立派だとは思わない」
「それはどうしてなの?」
「まわりの人たちを自分の道具としか思っていないし、力ずくで人に言うことを聞かせるからだ。俺もそうされる人間の一人なんだ」
「ゴースケ、聞いて」
カトリは歩みを止めて、暗闇の中だったが剛介の方に顔を向けて話かけた。
「人にしてもらいたいと思うことはなんでも、あなた方も人にしなさい」
カトリの一言に剛介はハッとした。
「ゴースケはそんなお父さんのマネをずっと続けていくの?」
「… … …」
しばらく黙っていた剛介が口を開いた。
「いや、そんなことはない。俺は自分で考えて自分らしく生きていく、絶対に」
「ゴースケは強いのね。見直しちゃった。」
カトリの言葉を嬉しく思った剛介は、赤くなった顔をカトリに見られずに済ましてくれた暗闇に感謝していた。
「ゴースケ、あれが目印のキーホルダーを置いてある机に違いないわ。あの机とキーホルダーを片付けるようにハヤトに言われたのよ」
懐中電灯の円状の光が部屋の真ん中にある机とキーホルダーを照らし出した。気がつくと二人は隼人が目印を置いた部屋に到着していた。
“机を元に戻すことだけのために、あんなにも赤城はカトリと二人きりで話をしたがったのか?”
「キーホルダーはともかく、わざわざ机を元に戻す必要はないだろ。それに、」
カトリは、拳の人指し指を立てて、剛介の顔の前で、車のワイパーのように動かした。
「こんなに荒れ果てたところでも『発つ鳥あとを汚さず』よ!」
モヤモヤした様子の剛介は、カトリと協力して机を左側の壁まで運び終えて、カトリがキーホルダーをポケットに入れようとした瞬間だった。
“机を戻すだけで、あんなに二人きりの話にこだわったなんてどう考えても変だ”
納得できない剛介はカトリを問い詰めようとして、カトリの腕を乱暴につかまえた。不意のことにカトリはキーホルダーを手放してしまったが、勢いのついたキーホルダーは暗闇に吸い込まれていった。
「カトリ、赤城と二人して何を隠しているんだ?!」
「突然ナニするの! ゴースケ、キーホルダーが無くなっちゃたわよ!」
「そんなモノより、お前たちが話をしていたことの方が大事だろ!」
「ナニ言ってんの! あのキーホルダーはワタシにとって、とっても大切なものなのよ!」
“また捜しに来れるような場所じゃないのよ! ここは危険な場所なんだから!”
カトリは今まで誰にも見せたことのないような取り乱し方をして、懐中電灯でむやみに床を照らしてキーホルダーを捜し始めた。
「カトリ、俺の話も聞いてくれ!」
闇の中で必死にキーホルダーを捜すカトリに手をかけようとして、剛介は身をかがめながら足を進めた。
ガ、ガン!
「アッ?!」
剛介は真っ暗な床に置いてある鉄の塊に足をとられ、そのままカトリの体の上に倒れ込んでしまった。
「イ、イタイ!」
受け身をとれない体勢のままで、自分より大きな剛介に倒れ込まれたカトリは、まともに剛介の下敷きになり、足首を痛めてしまった。
「カトリ、大丈夫か?!」
足首を押さえたまま無言のカトリに、あわてて体をカトリの上から動かしながら剛介はうろたえることしかできなかった。
その時、音のない暗闇の中でカトリのスマホは隼人からの着信を告げた。
「カトリ、志織と陽二を見つけた。用件が終わっていたら、すぐに帰って来いよ」
「用件は終わったけど、大切なキーホルダーが無くなったんだよ! 見つけたらすぐに帰るから!」
痛みをこらえた声でカトリは隼人に訴えた。
「カトリ、そのまま残ると剛介も一緒に危険な目に遭うかも知れないんだ。すぐに戻って来い」
「ビッテ!」
「カトリ、みんなのために一刻を争うんだ! 早く戻って来いよ。待っているぞ」
スマホでの隼人との会話は終わらせて、残念そうな顔をしながらカトリは、有無を言わせない口調で、剛介の目を直視して話しかけた。
「ゴースケ、聞きなさい。私はゴースケを信じているの、わかるよね。だからゴースケも私を信じて、お願い」
剛介がうなづくのを確認してから、カトリはその場から無言で帰途についた。