想定外の奇跡
文字数 1,843文字
「奇跡ってそう簡単に起こるものじゃないよな、やっぱり…」
志織を探し回ることに疲れた隼人はファストフード店のカウンターに座って、夕空の下の薄暗い電灯のもとにたたずむ市のイベント会場をボンヤリと眺めていた。
「そう言えば、この週末はライブイベントがあるってエマが言っていたな…」
この市のイベント会場は、繁華街とは駅をはさんだ反対側にある市営施設の一部で、何もない夜は静かというより寂しい場所になった。
「昼中に、まっさきに東条へ打ち上げの予定のことを伝えたかったのに… そうすれば、金になるけどマトモじゃないかもしれない今日の夜のバイトを断ってもらえただろ… そうすれば、すぐにでも明日の日中にできるマトモなバイトを探してもらえただろ…」
隼人は昼休みに志織へカトリが打ち上げを予定どおり日曜日にできるようにしてくれたことをすぐにでも伝えようとして直接電話をかけたが、志織は電話にでることはなかった。
リダイヤルを数回繰り返すうちに昼休みが終わり午後の授業が始まってしまい、昼休みに連絡をとることを諦めなければならなかった。
「そのあとの放課後も昼休みと同じようなことの繰り返しだったよな…」
もちろん放課後には速攻で全員向けのチャットアプリに確定版の打ち上げのスケジュールを載せたが、既読の数が一つだけ合わなかった。志織には直接話ををしたいとの思いから、隼人は図書室の前の談話スペースで志織へ何度も直接電話をかけてみた。しかし、この時も志織が電話にでることはなかった。
「せっかくカトリが頑張って話をつけてくれたんだぜ… 東条には一刻も早く教えてやりたいじゃないか…」
連絡がつかなければつかないほど、何とかして志織に直接話を伝えたい隼人の気持ちは強くなっていった。最後と決めたラスト一回の連絡が空振りに終わった隼人は、学校を飛び出ると志織のことを捜すためにあてもなく街中を探し回った。もちろんムリは承知のうえだった。
「結局街中のどこへ行っても東条はいなかったよな…」
刻々と時間だけが過ぎていき、途中で志織へ電話をかけてもつながることはなかった。チャットの既読の数もずっと一つだけ合わないままだった。
「今日はもうバイトを始めちゃっているのかもな…」
カウンター前のガラス越しにため息をつきながら、隼人がふと目を外にやると制服姿の女の子が道路をはさんだ反対側の歩道のところに立ってスマホを見ていた。足をXのように交差させて立つ見慣れた格好に隼人の目は吸いつけられた。突然何かに気がついたように女の子はスマホから顔を上げた。
「エ、エッ!?」
女の子は隼人の方に向かって手を振ってきた。その顔や姿かたちに見覚えは… ないはずがなかった!
「と、東条!?」
隼人は思わずその場で大声を出してから店を飛び出て歩道を駆け抜けた。目の前を行き来する道路上の車に行く手を阻まれ隼人が歩道の端でヤキモキしていると、手を上げている志織の前にギンギラした高級ワゴン車が停車した。
「と うっ !?」
あっけに取られて隼人の呼びかけが途切れたその時、胸をはだけさせて色シャツを着たジャケットパンツ姿のラフな格好の若い男が車から降りて来た。その男が志織と言葉を交わしている間、ドアを開けた車内からは道路の反対側に届く位のラウドなラップミュージックが流れ出ていた。
「!? !?」
あんぐりと口を開けたまま隼人が二人を凝視していると、男はジャケットの内側から封筒を取り出すと志織に手渡した。それを受け取った志織は嬉しそうに笑ってスクールバックの奥へ大事そうにしまい込んだ。それから男がサムズアップした手を車の方へ向けると、志織がうなずいて車に乗り込んでドアを閉めた。男は運転席に乗ると車を急発進させ、ラップミュージックを車外へ漏らしながら、いずことなく走り去って行った。彫像のように立ちつくす隼人がその場から動くことができたのは60秒以上たってからのことだった。
「目標はアキナンバー ハチハチ ハチハチ 黒のワゴン車に乗り移動、送れ」
この様子を誰にも知られないようにして見張っていた男が無線で連絡した。
『こちらは目標の位置情報の収集を継続。追って連絡する。しばらく待機、送れ』
「了解、終了」
無線機を身に付けた見張りの男は大きく深呼吸を一つしてから車影の消えていった先を見つめていた。
志織を探し回ることに疲れた隼人はファストフード店のカウンターに座って、夕空の下の薄暗い電灯のもとにたたずむ市のイベント会場をボンヤリと眺めていた。
「そう言えば、この週末はライブイベントがあるってエマが言っていたな…」
この市のイベント会場は、繁華街とは駅をはさんだ反対側にある市営施設の一部で、何もない夜は静かというより寂しい場所になった。
「昼中に、まっさきに東条へ打ち上げの予定のことを伝えたかったのに… そうすれば、金になるけどマトモじゃないかもしれない今日の夜のバイトを断ってもらえただろ… そうすれば、すぐにでも明日の日中にできるマトモなバイトを探してもらえただろ…」
隼人は昼休みに志織へカトリが打ち上げを予定どおり日曜日にできるようにしてくれたことをすぐにでも伝えようとして直接電話をかけたが、志織は電話にでることはなかった。
リダイヤルを数回繰り返すうちに昼休みが終わり午後の授業が始まってしまい、昼休みに連絡をとることを諦めなければならなかった。
「そのあとの放課後も昼休みと同じようなことの繰り返しだったよな…」
もちろん放課後には速攻で全員向けのチャットアプリに確定版の打ち上げのスケジュールを載せたが、既読の数が一つだけ合わなかった。志織には直接話ををしたいとの思いから、隼人は図書室の前の談話スペースで志織へ何度も直接電話をかけてみた。しかし、この時も志織が電話にでることはなかった。
「せっかくカトリが頑張って話をつけてくれたんだぜ… 東条には一刻も早く教えてやりたいじゃないか…」
連絡がつかなければつかないほど、何とかして志織に直接話を伝えたい隼人の気持ちは強くなっていった。最後と決めたラスト一回の連絡が空振りに終わった隼人は、学校を飛び出ると志織のことを捜すためにあてもなく街中を探し回った。もちろんムリは承知のうえだった。
「結局街中のどこへ行っても東条はいなかったよな…」
刻々と時間だけが過ぎていき、途中で志織へ電話をかけてもつながることはなかった。チャットの既読の数もずっと一つだけ合わないままだった。
「今日はもうバイトを始めちゃっているのかもな…」
カウンター前のガラス越しにため息をつきながら、隼人がふと目を外にやると制服姿の女の子が道路をはさんだ反対側の歩道のところに立ってスマホを見ていた。足をXのように交差させて立つ見慣れた格好に隼人の目は吸いつけられた。突然何かに気がついたように女の子はスマホから顔を上げた。
「エ、エッ!?」
女の子は隼人の方に向かって手を振ってきた。その顔や姿かたちに見覚えは… ないはずがなかった!
「と、東条!?」
隼人は思わずその場で大声を出してから店を飛び出て歩道を駆け抜けた。目の前を行き来する道路上の車に行く手を阻まれ隼人が歩道の端でヤキモキしていると、手を上げている志織の前にギンギラした高級ワゴン車が停車した。
「と うっ !?」
あっけに取られて隼人の呼びかけが途切れたその時、胸をはだけさせて色シャツを着たジャケットパンツ姿のラフな格好の若い男が車から降りて来た。その男が志織と言葉を交わしている間、ドアを開けた車内からは道路の反対側に届く位のラウドなラップミュージックが流れ出ていた。
「!? !?」
あんぐりと口を開けたまま隼人が二人を凝視していると、男はジャケットの内側から封筒を取り出すと志織に手渡した。それを受け取った志織は嬉しそうに笑ってスクールバックの奥へ大事そうにしまい込んだ。それから男がサムズアップした手を車の方へ向けると、志織がうなずいて車に乗り込んでドアを閉めた。男は運転席に乗ると車を急発進させ、ラップミュージックを車外へ漏らしながら、いずことなく走り去って行った。彫像のように立ちつくす隼人がその場から動くことができたのは60秒以上たってからのことだった。
「目標はアキナンバー ハチハチ ハチハチ 黒のワゴン車に乗り移動、送れ」
この様子を誰にも知られないようにして見張っていた男が無線で連絡した。
『こちらは目標の位置情報の収集を継続。追って連絡する。しばらく待機、送れ』
「了解、終了」
無線機を身に付けた見張りの男は大きく深呼吸を一つしてから車影の消えていった先を見つめていた。