出発
文字数 1,913文字
E組の3人の女子生徒たちとの待ち合わせ場所へ向かう途中、陽二はうしろから何度も何度も剛介に声をかけられてウンザリしていた。落ち着きを失った剛介は、陽二に呼びかけるたびに多弁になって同じ質問を繰り返し繰り返した。
「何度でもいうけど、女の子は背が高いモデルみたいな体型で髪の毛が長い美人の女の子だよ」
「今日の俺ってどう見えてる? ヘンなところないか?」
「ああ、竜崎はいつもどうりで何も変わりないよ」
「本当にそんな子が俺に会いたいって言ったのか?」
「残念だけど、そーだよ!」
「なあ福本君、俺を呼び出した女の子は
「もういいかげんにしてくれないか!」
「あんまり邪険にしてあげないでよ、福本」
エマが陽二にウインクした。
「剛介は福本と違って女の子から声をかけてもらうことに慣れていないんだからさ。もう少し優しくしてあげなよ」
陽二の眉間のシワがゆるんでいく。
「なあ竜崎、聞いてくれよ。ボクはさっきのE組の女子たちとの話をもとにこれからの段取りを考えているんだ。ちょっとだけ集中させてくれないか?」
「そうだよね、剛介。福本は忙しいんだって、あなたのためにね」
ソワソワする剛介の相手をエマが代わってくれた。やっとそれで陽二はE組の女子たちとの会話を思い出すことができた。
“スズって子が告るってことだったけど、アンナっていうやたら体を寄せて来る子が仕切っている感じだったな… 真面目そうだったミウって子はあまりしゃべらなかった… 着いたらどうやって話を進めようか…”
後方からは、エマが上手に剛介に話を合わせ、月明かりの下で楽しそうな二人の声がしてきた。
“コッチの方は、竜崎は自分から女の子に話して流れを作れるタイプじゃない… といって僕は単なる伝達係だからシャシャリ出るわけにいかないし、エマの立ち位置はオブザーバー的役割でE組女子たちとはこの件では初対面だ…”
歩きながら頭をひねる陽二には選択肢は一つしか思いつかなかった。
“コッチからはあいさつだけにして、まずアンナって子に話をふる。その後は成り行きに任していくしかないな…”
「B組のヤツら遅いわよね?」
「杏奈、そんなことないんじゃない? ねえ、鈴もあわてすぎだと思うよね?」
またこの前の出来事を思い出していた鈴の耳には美羽の問いかけは届いていない。
鈴は美人しか載せないことで地元で有名な雑誌のモデルをしている。小さな事務所に所属していたが、あるテレビ番組にでることになって週末に一人で飛行機に乗って撮影現場に向かう途中のことだった。
出発時間に余裕をもって乗ったはずの路線バスが渋滞に巻き込まれ、空港行きのリムジンバスへの乗り継ぎに遅れそうになったのだ。おまけに大きなトランクは荷物が多くてとても重かった。特にバスの乗り降りや階段での持ち運びは女子一人ではとても大変だった。
若い女の子が困っているのを見て途中で手助けしようとする人もいたが、トランクを持つと重さに驚いてバツが悪そうにその場から立ち去った。
“もうダメ… これじゃ空港行きのバスにとても間に合わない…”
とうとう階段の昇りの時に鈴は動けなくなって座り込んでしまった。
「ジャマだか… じゃなかった。そこをどいてくれないか」
「すみません、今すぐどけます」
鈴の気持ちに逆らうように倒れたトランクは階段を滑り落ちていく。
「もういい、俺が運んでや、いや運ぶ。どこまで持って行くんだ?」
「ここの階段だけでいいんです。後はウチが運びますから」
鈴は必要最小限のことをそっけなく伝えた。
“また若い女のピンチを救うおせっかいな紳士気取り… どうせあなたにはムリよ…”
「結構重いじゃないか。だから女の荷物は…」
男は鈴に変に媚びを売ったり、顔や体つきをジロジロ見回すことはなかった。それから少し顔をしかめてトランクを持ち上げて、鈴にペースを合わせて階段を昇り始めた。
「それでどこまで行くんだっけな?」
「空港行きのリムジンバス乗り場です…」
「ちょっと遠いじゃないか… なあ、時間には余裕はあるんだろうな?」
心配そうに鈴の顔を見る男。
「それが… もう余り時間がなくて… …分くらい」
とても小さな鈴の声を聞いて男の血相が変わった。
「早くそれを言え! 荷物は俺が持って行く! お前は早くリムジンのチケットを握ってついて来い!」
重いトランクを持った男は鈴が追いつけない速さで先に走って行った。鈴がバス乗り場に行くと運転席から運転手を呼び出してトランクを車体の下へ積んでもらっていた。男の手招きに従って息を切らした鈴が乗車手続きをしているうちにそのデカい男は姿を消していた。
「何度でもいうけど、女の子は背が高いモデルみたいな体型で髪の毛が長い美人の女の子だよ」
「今日の俺ってどう見えてる? ヘンなところないか?」
「ああ、竜崎はいつもどうりで何も変わりないよ」
「本当にそんな子が俺に会いたいって言ったのか?」
「残念だけど、そーだよ!」
「なあ福本君、俺を呼び出した女の子は
「もういいかげんにしてくれないか!」
「あんまり邪険にしてあげないでよ、福本」
エマが陽二にウインクした。
「剛介は福本と違って女の子から声をかけてもらうことに慣れていないんだからさ。もう少し優しくしてあげなよ」
陽二の眉間のシワがゆるんでいく。
「なあ竜崎、聞いてくれよ。ボクはさっきのE組の女子たちとの話をもとにこれからの段取りを考えているんだ。ちょっとだけ集中させてくれないか?」
「そうだよね、剛介。福本は忙しいんだって、あなたのためにね」
ソワソワする剛介の相手をエマが代わってくれた。やっとそれで陽二はE組の女子たちとの会話を思い出すことができた。
“スズって子が告るってことだったけど、アンナっていうやたら体を寄せて来る子が仕切っている感じだったな… 真面目そうだったミウって子はあまりしゃべらなかった… 着いたらどうやって話を進めようか…”
後方からは、エマが上手に剛介に話を合わせ、月明かりの下で楽しそうな二人の声がしてきた。
“コッチの方は、竜崎は自分から女の子に話して流れを作れるタイプじゃない… といって僕は単なる伝達係だからシャシャリ出るわけにいかないし、エマの立ち位置はオブザーバー的役割でE組女子たちとはこの件では初対面だ…”
歩きながら頭をひねる陽二には選択肢は一つしか思いつかなかった。
“コッチからはあいさつだけにして、まずアンナって子に話をふる。その後は成り行きに任していくしかないな…”
「B組のヤツら遅いわよね?」
「杏奈、そんなことないんじゃない? ねえ、鈴もあわてすぎだと思うよね?」
またこの前の出来事を思い出していた鈴の耳には美羽の問いかけは届いていない。
鈴は美人しか載せないことで地元で有名な雑誌のモデルをしている。小さな事務所に所属していたが、あるテレビ番組にでることになって週末に一人で飛行機に乗って撮影現場に向かう途中のことだった。
出発時間に余裕をもって乗ったはずの路線バスが渋滞に巻き込まれ、空港行きのリムジンバスへの乗り継ぎに遅れそうになったのだ。おまけに大きなトランクは荷物が多くてとても重かった。特にバスの乗り降りや階段での持ち運びは女子一人ではとても大変だった。
若い女の子が困っているのを見て途中で手助けしようとする人もいたが、トランクを持つと重さに驚いてバツが悪そうにその場から立ち去った。
“もうダメ… これじゃ空港行きのバスにとても間に合わない…”
とうとう階段の昇りの時に鈴は動けなくなって座り込んでしまった。
「ジャマだか… じゃなかった。そこをどいてくれないか」
「すみません、今すぐどけます」
鈴の気持ちに逆らうように倒れたトランクは階段を滑り落ちていく。
「もういい、俺が運んでや、いや運ぶ。どこまで持って行くんだ?」
「ここの階段だけでいいんです。後はウチが運びますから」
鈴は必要最小限のことをそっけなく伝えた。
“また若い女のピンチを救うおせっかいな紳士気取り… どうせあなたにはムリよ…”
「結構重いじゃないか。だから女の荷物は…」
男は鈴に変に媚びを売ったり、顔や体つきをジロジロ見回すことはなかった。それから少し顔をしかめてトランクを持ち上げて、鈴にペースを合わせて階段を昇り始めた。
「それでどこまで行くんだっけな?」
「空港行きのリムジンバス乗り場です…」
「ちょっと遠いじゃないか… なあ、時間には余裕はあるんだろうな?」
心配そうに鈴の顔を見る男。
「それが… もう余り時間がなくて… …分くらい」
とても小さな鈴の声を聞いて男の血相が変わった。
「早くそれを言え! 荷物は俺が持って行く! お前は早くリムジンのチケットを握ってついて来い!」
重いトランクを持った男は鈴が追いつけない速さで先に走って行った。鈴がバス乗り場に行くと運転席から運転手を呼び出してトランクを車体の下へ積んでもらっていた。男の手招きに従って息を切らした鈴が乗車手続きをしているうちにそのデカい男は姿を消していた。