説得は納得か損得か
文字数 3,075文字
廃ホテルの外に出ると、入るときより少しあたりが暗くなっていた。
「やっと外へ出てこれたな。外で待っているはずの皆はどこにいるんだ?」
暗い建物の中を懐中電灯だけを頼りに走って来た隼人だったが、息を切らすこともなく周囲を見回した。
「人をあんなに大変な目にあわせておいて、心配もしてくれないの?! 外に出てすぐに皆のことを捜し始めるなんて、もう失礼しちゃうわね!」
肩で息をしながら怒っていたエマに、隼人は悪びれもなく言い放った。
「そんなことより大事なことがあるんだ! わがままを言わないで、早く皆を捜してくれ!」
「誰がわがままですって!」
「出てくるなり大声でケンカを始めて、いったいどうしたんだ?!」
外で順番を待っていた剛介が、騒ぎに驚いてカトリと一緒に駆け寄って来た。
「赤城ったら、私に怖い思いをさせておきながら、謝るどころか酷いことを言うのよ!
建物の中ではあんなことをしてきたのに!」
「二人してアンナコトをしていたの?」
けげんそうな面持ちでカトリがエマを見たので、エマはカトリから視線を外した。
「いや、建物の中でチョットしたトラブルがあってな…」
カトリに向かって話しながら、志織と陽二がやってこないことに隼人は気がついた。
「そう言えば、東条と福本はいないのか?」
「ハヤトたちを待っている間に、シオリがフクモトクンと気分転換してくる、って言って出かけて行ったのよ」
まだいぶかしがる表情をしてカトリが返答した。
「陽二がビビッていたから、志織は陽二の気分を入れ変えさせに行ったんだ」
剛介の補足説明に隼人は更に質問をした。
「二人はどこへ行ったんだ?」
「海の見える方に行くってシオリは言ってたけど…」
「そうか… 」
隼人はしばらく考え込んでから、手招きでカトリを呼んだ。
「カトリ、ちょっと話があるんだ… こっちへ来てくれないか?」
「オイ、待てよ! カトリは俺と組んでいるんだ!」
隼人の右肩に後ろから剛介が手をかけた。
「大切な話なんだ。ちょっとカトリを貸してくれ」
「人前ではできない話なのか? なら余計に無理だな!」
後ろから隼人の肩を握った剛介の右手の握力が、さらに強くなった。
「話が済んだらすぐにカトリは返してやる。待ってろ」
隼人はとても低い声で剛介に迫ると、左手で剛介の腕の急所を信じられないような力で掴んだ。剛介の顔は余りの痛みにゆがんでいた。
“こんなに恐い顔した赤城を見たことない… まるで別人みたい…”
隼人の身体中から邪魔者を許さない気迫が発散されているように、エマには思えた。
「ハヤト、何しているの! 手を放しなさい!」
カトリは隼人の腕にしがみついて、隼人の手を放させようとした。
「うるさいぞ、カトリ! 腕から手を放せ!」
隼人は右手を振るようにしてカトリの手を払おうとしたが、その時に隼人の顔がガラ空きになるのをカトリは見逃さなかった。
パシンッ!
カトリが隼人のホホを打った音が響いた。
「ハヤト、やり過ぎよ。こんなことするなんて、本当にあなたはハヤトなの?」
信じられない、といった調子の声をカトリをあげた。カトリの平手打ちを受けて隼人は憑つきものが落ちた様だった。隼人が剛介の腕を放した途端、剛介は左手で右腕をさすっていた。
「オレが悪かった。二人には謝る」
隼人は剛介とエマに謝罪した。
「本当に大事な話があるんだ。頼むからカトリと話をさせてくれ」
隼人が二人の方を見て訴えかけると、二人は目くばせしてから同時に黙ってうなずいた。
心配顔のカトリの手を引いて、離れたところへ行き隼人は話を始めた。
「今、あの建物の入口から真っ直ぐ行った奥の方の部屋に、AK-47の大量在庫を見つけたんだ」
「ヨーコのあの情報は正しかったのね… それでどうしたの?」
「銃の方は元に戻して、エマにも気づかれないように急いで引き返して来たんだ」
「銃はそのまま置いてきたのね」
「ああ、下手に置き場所を変えたりすると他人が入ったことが分かって警戒されるだろ。ただ、慌てていたから動かしたテーブルを左の壁に戻すのと、目印を持って帰ってくるのを忘れてしまったんだ」
「じゃあ、それを戻したりしに行かないといけないわね…」
「誰が行くのがいいと思う?」
「本当は、ハヤトとワタシが一緒なのがいいけど…」
「そうなんだが、 竜崎が許してくれないだろうな… オレが一人で行ってこよう。バベルの奴らが近くにいるかも知れない… 早く皆を連れ帰るために、急いで用事を済まさないと…」
「そのテーブルは一人で動かせるの?」
「それは大丈夫だ。カトリは竜崎と一緒に福本と東条を捜してきてくれ。エマにはここで待っててもらい、みんなとの連絡役になってもらおう」
隼人との話し合いが終わったカトリは剛介のところに駆け寄って行った。隼人はエマのところへ小走りで向かった。
「エマ、今からカトリと竜崎は東条と福本を捜しに行ってもらって、オレは忘れ物を取りにもう一度建物の中に行ってくる。すまないが、エマはここでみんなの連絡役をやってくれないか?」
「私はこんな所に一人で残されるなんてイヤよ! それにカトリと二人でこっそり決めちゃって! 私と剛介には何も教えてくれないのね!」
先程のように、怒ることが珍しいエマだけに怒った時の勢いは激しかった。隼人もすっかり気合負けして身じろぎした。カトリの方を見ると、カトリもダメのハンドサインを出していた。隼人はカトリと剛介を手招きをして呼び寄せた。
「自分たちは楽しい思いをして、俺とカトリは志織と陽二のお守に行くだけだなんて、いい加減にしろよ」
剛介も怒り心頭だったが、今度は隼人に対して乱暴な態度はとらず、ニラ見つけるだけだった。
“エマや竜崎の身の安全を一番に考えているが、二人にはわかりそうにないな… 上手いウソもつけそうにもない… 一番早く皆をここから連れて帰るにはどうすればいいか…”
隼人は考えてエマと剛介への話し方を変えることにした。
「さっきは勝手なことを言って悪かった、エマ、竜崎」
謝っている隼人は二人に深々と頭を下げ続けた。
「竜崎はカトリと肝試しに行ってくれ。エマ、君はオレと一緒に福本と東条を捜すのを手伝ってくれないか」
「もう、わかればいいんだから、そんなことしないでよ、赤城! 見ていられないでしょ! 私は一人にされなければそれで良いんだから! 剛介もそうでしょ?」
先ほどとは違う、隼人の真摯な謝罪と真剣な依頼をする姿を見ることで、いたたまれなくなったエマは剛介にも同意を求めた。
「俺もカトリと一緒に予定通りにできれば別にかまわないがな」
返事をした剛介は自分の満足した様子を隠すことはなかった。
「私たちは志織たちを捜しに行こうよ赤城! 早く頭をあげなさいよ」
エマと隼人は二人して志織と陽二を捜しに行った。その時に隼人は離れたところから、カトリに向かって急ぐように口パクで話しかけ、カトリもわかったと口パクで返事をした。
「ゴースケ、私たちの方も肝試しに行きましょう」
カトリは剛介を伴って廃ホテルの中に向かった。
「やっと外へ出てこれたな。外で待っているはずの皆はどこにいるんだ?」
暗い建物の中を懐中電灯だけを頼りに走って来た隼人だったが、息を切らすこともなく周囲を見回した。
「人をあんなに大変な目にあわせておいて、心配もしてくれないの?! 外に出てすぐに皆のことを捜し始めるなんて、もう失礼しちゃうわね!」
肩で息をしながら怒っていたエマに、隼人は悪びれもなく言い放った。
「そんなことより大事なことがあるんだ! わがままを言わないで、早く皆を捜してくれ!」
「誰がわがままですって!」
「出てくるなり大声でケンカを始めて、いったいどうしたんだ?!」
外で順番を待っていた剛介が、騒ぎに驚いてカトリと一緒に駆け寄って来た。
「赤城ったら、私に怖い思いをさせておきながら、謝るどころか酷いことを言うのよ!
建物の中ではあんなことをしてきたのに!」
「二人してアンナコトをしていたの?」
けげんそうな面持ちでカトリがエマを見たので、エマはカトリから視線を外した。
「いや、建物の中でチョットしたトラブルがあってな…」
カトリに向かって話しながら、志織と陽二がやってこないことに隼人は気がついた。
「そう言えば、東条と福本はいないのか?」
「ハヤトたちを待っている間に、シオリがフクモトクンと気分転換してくる、って言って出かけて行ったのよ」
まだいぶかしがる表情をしてカトリが返答した。
「陽二がビビッていたから、志織は陽二の気分を入れ変えさせに行ったんだ」
剛介の補足説明に隼人は更に質問をした。
「二人はどこへ行ったんだ?」
「海の見える方に行くってシオリは言ってたけど…」
「そうか… 」
隼人はしばらく考え込んでから、手招きでカトリを呼んだ。
「カトリ、ちょっと話があるんだ… こっちへ来てくれないか?」
「オイ、待てよ! カトリは俺と組んでいるんだ!」
隼人の右肩に後ろから剛介が手をかけた。
「大切な話なんだ。ちょっとカトリを貸してくれ」
「人前ではできない話なのか? なら余計に無理だな!」
後ろから隼人の肩を握った剛介の右手の握力が、さらに強くなった。
「話が済んだらすぐにカトリは返してやる。待ってろ」
隼人はとても低い声で剛介に迫ると、左手で剛介の腕の急所を信じられないような力で掴んだ。剛介の顔は余りの痛みにゆがんでいた。
“こんなに恐い顔した赤城を見たことない… まるで別人みたい…”
隼人の身体中から邪魔者を許さない気迫が発散されているように、エマには思えた。
「ハヤト、何しているの! 手を放しなさい!」
カトリは隼人の腕にしがみついて、隼人の手を放させようとした。
「うるさいぞ、カトリ! 腕から手を放せ!」
隼人は右手を振るようにしてカトリの手を払おうとしたが、その時に隼人の顔がガラ空きになるのをカトリは見逃さなかった。
パシンッ!
カトリが隼人のホホを打った音が響いた。
「ハヤト、やり過ぎよ。こんなことするなんて、本当にあなたはハヤトなの?」
信じられない、といった調子の声をカトリをあげた。カトリの平手打ちを受けて隼人は憑つきものが落ちた様だった。隼人が剛介の腕を放した途端、剛介は左手で右腕をさすっていた。
「オレが悪かった。二人には謝る」
隼人は剛介とエマに謝罪した。
「本当に大事な話があるんだ。頼むからカトリと話をさせてくれ」
隼人が二人の方を見て訴えかけると、二人は目くばせしてから同時に黙ってうなずいた。
心配顔のカトリの手を引いて、離れたところへ行き隼人は話を始めた。
「今、あの建物の入口から真っ直ぐ行った奥の方の部屋に、AK-47の大量在庫を見つけたんだ」
「ヨーコのあの情報は正しかったのね… それでどうしたの?」
「銃の方は元に戻して、エマにも気づかれないように急いで引き返して来たんだ」
「銃はそのまま置いてきたのね」
「ああ、下手に置き場所を変えたりすると他人が入ったことが分かって警戒されるだろ。ただ、慌てていたから動かしたテーブルを左の壁に戻すのと、目印を持って帰ってくるのを忘れてしまったんだ」
「じゃあ、それを戻したりしに行かないといけないわね…」
「誰が行くのがいいと思う?」
「本当は、ハヤトとワタシが一緒なのがいいけど…」
「そうなんだが、 竜崎が許してくれないだろうな… オレが一人で行ってこよう。バベルの奴らが近くにいるかも知れない… 早く皆を連れ帰るために、急いで用事を済まさないと…」
「そのテーブルは一人で動かせるの?」
「それは大丈夫だ。カトリは竜崎と一緒に福本と東条を捜してきてくれ。エマにはここで待っててもらい、みんなとの連絡役になってもらおう」
隼人との話し合いが終わったカトリは剛介のところに駆け寄って行った。隼人はエマのところへ小走りで向かった。
「エマ、今からカトリと竜崎は東条と福本を捜しに行ってもらって、オレは忘れ物を取りにもう一度建物の中に行ってくる。すまないが、エマはここでみんなの連絡役をやってくれないか?」
「私はこんな所に一人で残されるなんてイヤよ! それにカトリと二人でこっそり決めちゃって! 私と剛介には何も教えてくれないのね!」
先程のように、怒ることが珍しいエマだけに怒った時の勢いは激しかった。隼人もすっかり気合負けして身じろぎした。カトリの方を見ると、カトリもダメのハンドサインを出していた。隼人はカトリと剛介を手招きをして呼び寄せた。
「自分たちは楽しい思いをして、俺とカトリは志織と陽二のお守に行くだけだなんて、いい加減にしろよ」
剛介も怒り心頭だったが、今度は隼人に対して乱暴な態度はとらず、ニラ見つけるだけだった。
“エマや竜崎の身の安全を一番に考えているが、二人にはわかりそうにないな… 上手いウソもつけそうにもない… 一番早く皆をここから連れて帰るにはどうすればいいか…”
隼人は考えてエマと剛介への話し方を変えることにした。
「さっきは勝手なことを言って悪かった、エマ、竜崎」
謝っている隼人は二人に深々と頭を下げ続けた。
「竜崎はカトリと肝試しに行ってくれ。エマ、君はオレと一緒に福本と東条を捜すのを手伝ってくれないか」
「もう、わかればいいんだから、そんなことしないでよ、赤城! 見ていられないでしょ! 私は一人にされなければそれで良いんだから! 剛介もそうでしょ?」
先ほどとは違う、隼人の真摯な謝罪と真剣な依頼をする姿を見ることで、いたたまれなくなったエマは剛介にも同意を求めた。
「俺もカトリと一緒に予定通りにできれば別にかまわないがな」
返事をした剛介は自分の満足した様子を隠すことはなかった。
「私たちは志織たちを捜しに行こうよ赤城! 早く頭をあげなさいよ」
エマと隼人は二人して志織と陽二を捜しに行った。その時に隼人は離れたところから、カトリに向かって急ぐように口パクで話しかけ、カトリもわかったと口パクで返事をした。
「ゴースケ、私たちの方も肝試しに行きましょう」
カトリは剛介を伴って廃ホテルの中に向かった。