消費期限の切れた待合せ場所
文字数 2,882文字
「今さらこんなところにいても意味ないよな…」
ヨーコ先生にオリエンテーション合宿での出来事を報告をした後、しばらくフォークダンスのあとの出来事を思い出していた隼人は、気がつくと昨日の合宿休みの休校日に来たのと同じ場所へ同じ時間にやって来ていた。先程まで明るかった空が早くも夕焼け模様になりはじめていた。
「昨日来た時は、絶対に東条はここへ来てくれると思ってたんだよな…」
昨日は確かにフォークダンスの後に志織と二人での待ち合わせをした日だった。待ち合わせの場所に、隼人は待ち合わせ時間の30分前には到着するとソワソワしてキョロキョロあたりを見回していた。時間になっても志織が来なかったが、その時は理由が全く分からなかった。ただスマホを取り出しては画面の待ち合わせメールの内容を何度も繰り返して確認することしかできなかった。
「だって、東条は合宿のときにフォークダンスに誘ってくれて、一緒に森の中で話し合いをして、直接メールのやりとりまでしてくれたんだぜ…」
志織の記憶からは失われてしまった、あの夜のことを隼人は思いだした。
「昨日は結局2時間くらいも待っちゃってさ… オレってバカだよな…」
姿を現さない志織のことが気がかりになって、当てもなく周辺を捜しに行っては真っ直ぐに待ち合わせのところまで走って戻ることを幾度となく繰り返した。
「ついにはスマホで連絡までしちゃってさ… 10回コールじゃとても連絡つかなかったもんな…」
心配して15回、20回とコール回数を増やしてみたが、結局のところ志織に連絡がつかないことに変わりはなかった。普段でもスマホがつながらない理由はいくらでもあるけどさ、と隼人はその時思ったが、実は志織の身に何かあったのでは、という不安が心の中に段々つのっていっていた。
「そしたら今日になってヨーコ先生は、あのキャンプファイヤーの時の東条たちの記憶は消されているってさ… いくら待っても昨日は東条は来なかったワケだ…」
志織が昨日来るはずがなかったことを今日知ったが、またこの場所へ来ていた。根拠がありもしないホンの少しの希望を隼人は持って。しかも今日は昨日より志織がやって来る可能性はほとんどないことは分かっているのに…
「でも、もし昨日東条と会うことができたとして、オレは東条といったい何を話すつもりだったのかな… いったい何を一緒にするつもりだったのかな…」
半分(以上)勢いで学校の外の時間と場所で志織と会うことにした隼人であった。今まで学校内での活動では女子としゃべったり一緒に何かをすることがありはしたが、落ち着いて考えてみると決まった活動以外ではそうした覚えが全くなかった。ましてや校外で女子と二人きりで会うことなんて思いつきもしたことが無かった。
「オレは東条と何をしたかったんだ?」
空には大き目の月が出てくるくらいになっていた。
♫♫♫~ ♫♫♫~ ♫♫♫~
昨日セットした大き目のボリュームを直していなかったスマホが、場違いな音量を突然発し、隼人はあわててスマホを取り出した。
「! ! !」
着信画面を見た隼人はあわてて会話ボタンを押した。
「…赤城だよね? 私、東条だよ 急に電話しちゃってごめんね 今は話をしても大丈夫?」
「本当に東条か!? ビックリしたよ! どうした?」
隼人はタイミングよく志織から電話がかかって来てうれしさと驚きを同時に感じていた。
「ビックリさせちゃったか… 突然だったからね、ゴメン許してね… 合宿の時に福本が私のスマホを拾ってくれたらしくて、さっき私に返してくれたのよ。それで今、赤城に電話したってワケなの。実はスマホが見当たらなくて真剣に焦ってたところだったんだ」
「東条は謝ることなんかないよ! 悪いことなんかゼンゼンないし、こっちこそ勝手に驚いて悪かった」
うれしさと緊張で隼人は声のトーンがいつもより高くなり、テンションもあがった話し方をしていた。
「ところでさ、放課後に赤城が教室から出て行ったあとのことなんだけど、エマと剛介と福本が3人して私のところへやって来たんだよ」
志織から4人で話をしたことを聞いて、隼人は自分が教室を出るより前に、カトリが切ない表情をして隼人を見てから教室を出て行ったこと、そしてそのころには教室には既にカトリはいなかっただろうことを思いおこした。
“人質になったみんなを助けたときには悪いけどみんな銃で撃たざるを得なかった… あの時、あの場でオレはカトリにそのことを責められた気がしたんだ… カトリの言葉は正しかったけど、あの時のオレにはキツかった… それで、今日は一日カトリとは距離を取っちまったからな…”
「それで4人で何の話をしたんだ?」
目の前に浮かんでいたカトリの哀しげな顔をなんとか脇にやって、隼人は志織との話に集中しようとした。
「今回の合宿の役員のみんなで集まって、お疲れ様の打上げ会をしようっていうのよ!」
電話を通して聞こえる志織の声は弾んでいた。
「お疲れ様の打上げ会?」
「そう、学級委員長さまをはじめとした今回のオリエンテーション合宿のために骨折りと頑張りを尽くした役員全6名のねぎらいといたわりのために打ち上げをしようって話なの!」
「そうか…」
“やっぱり二人きりで会う話じゃなかったな…”
予想したとおりの結果だったが、隼人は軽く落胆した。
“それに今はカトリとは正直なところ顔を会わせにくい… けど、こんな話はみんなにはできないもんな…”
「…この話あんまり興味なかった、かな?」
予想外に隼人の反応が淡白だったので、志織は冷水を浴びせられたように感じたようだった。
「いや、そういう訳じゃないんだけど… もう少しその話について聞かせて欲しいんだ」
スマホのスピーカー越しの志織の声色から気落ちを感じ取った隼人は、明るい口調で話すことに努めながら、志織に気を使わせないように話だけ前に進めようとした。
「もう少ししたら試験期間に入っちゃうでしょ! だからその前の、次の週末に私たち6人で一緒に食事をしたり、遊んだりしようじゃないかって話になってね」
志織のモチベーションがアッという間に復活し話し方も機嫌を取り戻したようになった。
「それは面白そうな話だな! オレも行こうかな?」
「でしょでしょ! じゃ、明日の放課後に一緒に話をしようよ! 私、今から楽しみだわ! また明日ね!」
一連のことを跳ねるようにしゃべってから志織は楽しそうに終話した。
“ちょっとしたお愛想を言ったら、真に取られちまった… オレって本当にどうしようもないな…”
隼人は己のヘタレさを呪うとともに、今後の身の処し方を考えるとプチ憂鬱になった。初夏に向かう頃とは言え、日没後の空気はまだまだ温かくはなかった。
ヨーコ先生にオリエンテーション合宿での出来事を報告をした後、しばらくフォークダンスのあとの出来事を思い出していた隼人は、気がつくと昨日の合宿休みの休校日に来たのと同じ場所へ同じ時間にやって来ていた。先程まで明るかった空が早くも夕焼け模様になりはじめていた。
「昨日来た時は、絶対に東条はここへ来てくれると思ってたんだよな…」
昨日は確かにフォークダンスの後に志織と二人での待ち合わせをした日だった。待ち合わせの場所に、隼人は待ち合わせ時間の30分前には到着するとソワソワしてキョロキョロあたりを見回していた。時間になっても志織が来なかったが、その時は理由が全く分からなかった。ただスマホを取り出しては画面の待ち合わせメールの内容を何度も繰り返して確認することしかできなかった。
「だって、東条は合宿のときにフォークダンスに誘ってくれて、一緒に森の中で話し合いをして、直接メールのやりとりまでしてくれたんだぜ…」
志織の記憶からは失われてしまった、あの夜のことを隼人は思いだした。
「昨日は結局2時間くらいも待っちゃってさ… オレってバカだよな…」
姿を現さない志織のことが気がかりになって、当てもなく周辺を捜しに行っては真っ直ぐに待ち合わせのところまで走って戻ることを幾度となく繰り返した。
「ついにはスマホで連絡までしちゃってさ… 10回コールじゃとても連絡つかなかったもんな…」
心配して15回、20回とコール回数を増やしてみたが、結局のところ志織に連絡がつかないことに変わりはなかった。普段でもスマホがつながらない理由はいくらでもあるけどさ、と隼人はその時思ったが、実は志織の身に何かあったのでは、という不安が心の中に段々つのっていっていた。
「そしたら今日になってヨーコ先生は、あのキャンプファイヤーの時の東条たちの記憶は消されているってさ… いくら待っても昨日は東条は来なかったワケだ…」
志織が昨日来るはずがなかったことを今日知ったが、またこの場所へ来ていた。根拠がありもしないホンの少しの希望を隼人は持って。しかも今日は昨日より志織がやって来る可能性はほとんどないことは分かっているのに…
「でも、もし昨日東条と会うことができたとして、オレは東条といったい何を話すつもりだったのかな… いったい何を一緒にするつもりだったのかな…」
半分(以上)勢いで学校の外の時間と場所で志織と会うことにした隼人であった。今まで学校内での活動では女子としゃべったり一緒に何かをすることがありはしたが、落ち着いて考えてみると決まった活動以外ではそうした覚えが全くなかった。ましてや校外で女子と二人きりで会うことなんて思いつきもしたことが無かった。
「オレは東条と何をしたかったんだ?」
空には大き目の月が出てくるくらいになっていた。
♫♫♫~ ♫♫♫~ ♫♫♫~
昨日セットした大き目のボリュームを直していなかったスマホが、場違いな音量を突然発し、隼人はあわててスマホを取り出した。
「! ! !」
着信画面を見た隼人はあわてて会話ボタンを押した。
「…赤城だよね? 私、東条だよ 急に電話しちゃってごめんね 今は話をしても大丈夫?」
「本当に東条か!? ビックリしたよ! どうした?」
隼人はタイミングよく志織から電話がかかって来てうれしさと驚きを同時に感じていた。
「ビックリさせちゃったか… 突然だったからね、ゴメン許してね… 合宿の時に福本が私のスマホを拾ってくれたらしくて、さっき私に返してくれたのよ。それで今、赤城に電話したってワケなの。実はスマホが見当たらなくて真剣に焦ってたところだったんだ」
「東条は謝ることなんかないよ! 悪いことなんかゼンゼンないし、こっちこそ勝手に驚いて悪かった」
うれしさと緊張で隼人は声のトーンがいつもより高くなり、テンションもあがった話し方をしていた。
「ところでさ、放課後に赤城が教室から出て行ったあとのことなんだけど、エマと剛介と福本が3人して私のところへやって来たんだよ」
志織から4人で話をしたことを聞いて、隼人は自分が教室を出るより前に、カトリが切ない表情をして隼人を見てから教室を出て行ったこと、そしてそのころには教室には既にカトリはいなかっただろうことを思いおこした。
“人質になったみんなを助けたときには悪いけどみんな銃で撃たざるを得なかった… あの時、あの場でオレはカトリにそのことを責められた気がしたんだ… カトリの言葉は正しかったけど、あの時のオレにはキツかった… それで、今日は一日カトリとは距離を取っちまったからな…”
「それで4人で何の話をしたんだ?」
目の前に浮かんでいたカトリの哀しげな顔をなんとか脇にやって、隼人は志織との話に集中しようとした。
「今回の合宿の役員のみんなで集まって、お疲れ様の打上げ会をしようっていうのよ!」
電話を通して聞こえる志織の声は弾んでいた。
「お疲れ様の打上げ会?」
「そう、学級委員長さまをはじめとした今回のオリエンテーション合宿のために骨折りと頑張りを尽くした役員全6名のねぎらいといたわりのために打ち上げをしようって話なの!」
「そうか…」
“やっぱり二人きりで会う話じゃなかったな…”
予想したとおりの結果だったが、隼人は軽く落胆した。
“それに今はカトリとは正直なところ顔を会わせにくい… けど、こんな話はみんなにはできないもんな…”
「…この話あんまり興味なかった、かな?」
予想外に隼人の反応が淡白だったので、志織は冷水を浴びせられたように感じたようだった。
「いや、そういう訳じゃないんだけど… もう少しその話について聞かせて欲しいんだ」
スマホのスピーカー越しの志織の声色から気落ちを感じ取った隼人は、明るい口調で話すことに努めながら、志織に気を使わせないように話だけ前に進めようとした。
「もう少ししたら試験期間に入っちゃうでしょ! だからその前の、次の週末に私たち6人で一緒に食事をしたり、遊んだりしようじゃないかって話になってね」
志織のモチベーションがアッという間に復活し話し方も機嫌を取り戻したようになった。
「それは面白そうな話だな! オレも行こうかな?」
「でしょでしょ! じゃ、明日の放課後に一緒に話をしようよ! 私、今から楽しみだわ! また明日ね!」
一連のことを跳ねるようにしゃべってから志織は楽しそうに終話した。
“ちょっとしたお愛想を言ったら、真に取られちまった… オレって本当にどうしようもないな…”
隼人は己のヘタレさを呪うとともに、今後の身の処し方を考えるとプチ憂鬱になった。初夏に向かう頃とは言え、日没後の空気はまだまだ温かくはなかった。