合宿報告記 秘められしこと
文字数 2,184文字
「今回の作戦中でも計画や見通しが勝手に思い浮かんだり、危険やストレスがかかる場になると体や口が勝手に動きだしたりした… そう、そんなときに自分の体なのに自分は脇にやられて他人の好き放題にされている気がしたんだ… 体や口を自分では思うように動かせなくなってね… ただ、自分自身の意識がハッキリしていて、その時のことはシッカリ覚えているんだ…」
今まで自分の身に起きたこと、自分が体験してきたことを隼人はまざまざと思い出しているようだった。
隼人の体験談については自分では信じても信じられなくても、この件に関する情報は漏らさず上司に提出することになっている。この隼人とのミーティング中の映像と音声も例外ではないので、今後の隼人の取り扱いについては上が判断する。
“実験データや結果へ影響を与えないように、はじめから赤城にはドナーがどんな人物かとか『記憶転移』という現象については何一つ伝えられていない… まあ『記憶転移』の方は本当ならば本人はかなり戸惑うに違いないわ… しかもこの年齢で戦争人間に改造されるかもしれないなんて…”
ヨーコ先生には知らないうちにこの実験に巻き込まれている隼人に同情するところがあった。そして、自分自身の体験について語る隼人がウソをついている様には思えなかったし、この計画の行く末を不安に思った。
「これからも、自分の体や心の調子のことで気づいたことがあったら、遠慮しないで教えてちょうだいね。それと、今回の話は病院に検査に行ったときにするといいわ。少しでも気になることがあったら、何でも病院で話や相談をしなさい。」
“実験は進行中だから、指示されたこと以外は私には何もしてあげられることはないの、ごめんね… でも、病院ではちゃんと体と心のデータを集めて報告しているはずだから、キチンと伝えてね… 何らかのアドバイスがもらえるハズと思うわ…”
ヨーコ先生の助言を隼人は真顔で聞いていたが、しばらくして次の話題を切り出した。
「今回の現場に乗り込んで来た高校生四人についてなんだ…」
隼人自身が気にかけていた学園内に流れているウワサについてだった。
「あなたたちのお友達の四人の子たちのことね」
「学園の中でその四人が合宿から帰って来た後に記憶を一部失っているらしい、っていうウワサが囁かれているんだ…」
「ああ、そのこと」
興味なさそうな顔をしてヨーコ先生は隼人に対し事務的に受け答えた。
「CIAで使っている尋問用のクスリであの子たちの記憶を消してから少し書き換えたの」
「エ、エエッ!」
「そんなに大声出さないでよ。今はこの部屋は不在ってことにしてあるんだから」
予想外の返答に驚愕する隼人に対してもヨーコ先生は興味なさそうだった。
「敵の捕虜から情報を引き出したあとに、記憶を受け入れる脳の部位をクスリでイジって、その尋問の時の記憶をなくせば、みんなハッピーになるでしょ。必要に応じて消した記憶を催眠術で書き換えることもできるし。MKウルトラの進化した姿ね」
「そんなことしていい訳ないだろ! アンタたち、いったい何考えているんだ!」
イスに掛けたまま淡々としゃべるヨーコ先生に隼人はすごい勢いで詰め寄った。
「人体への影響や健康上の安全性はどうなっているんだ?! 副作用はないのか?!」
「そんなもの保証されるワケないわよ。CIAは医療機関や製薬会社じゃないのよ。必要なのは情報を引き出すこと、記憶と痕跡を消すこと。当たり前でしょ」
「あいつら、まだ高校生になったばっかりだぞ! 将来どうなってもいいのかよ!」
頭に血が昇った隼人は、机を乗り越えて両手でヨーコ先生の襟首につかみかかっていた。
「あの子達だって自分たちで勝手に、危険で秘密の満ち溢れる場所に飛び込んで来たんでしょ。それに、その仲間の子たちに銃を向けて撃った当人に、そんなこと言われるスジ合いはないわ」
隼人のした非道を容赦なく突いたヨーコ先生の一言で隼人の全身からは力が抜けて行った。よろめいた隼人の強く握りしめた手が放れたので、乱れた襟元をヨーコ先生は内心の思いを表すことなく両手で直しながら話し続けた。
“本当はコッチだってそんなことはしたくなかったのよ… コトがコトだけに仕方なくてね… 思わず逆切れしちゃったけど、本当は大人が何とかしてあげるべきだったわ… ごめんなさい…”
「本当ならこの日1日の記憶を全部消すところだったけど、せっかくの合宿がそれじゃ可哀想だから一部の消去にとどめたんじゃない… 消去したり書き換えた時間は、現場にいた時間プラス余裕のためにさかのぼった時間が2倍ちょっとで今回は7時間くらい。スタッフだっていろいろ気を使ってくれたのよ。かかった費用は日本政府に請求しないとね」
“消えた記憶は7時間程度… そうするとオレとカトリ以外はキャンプファイヤーの時からあとのことを消されてしまったってことか…”
ヨーコ先生の説明から受けたショックから立ち直ることができない状態で、隼人の頭にはボンヤリと浮かんできたことがあった。
「そうすると、東条もあの時のことを憶えていない、ってことになるのか…」
今まで自分の身に起きたこと、自分が体験してきたことを隼人はまざまざと思い出しているようだった。
隼人の体験談については自分では信じても信じられなくても、この件に関する情報は漏らさず上司に提出することになっている。この隼人とのミーティング中の映像と音声も例外ではないので、今後の隼人の取り扱いについては上が判断する。
“実験データや結果へ影響を与えないように、はじめから赤城にはドナーがどんな人物かとか『記憶転移』という現象については何一つ伝えられていない… まあ『記憶転移』の方は本当ならば本人はかなり戸惑うに違いないわ… しかもこの年齢で戦争人間に改造されるかもしれないなんて…”
ヨーコ先生には知らないうちにこの実験に巻き込まれている隼人に同情するところがあった。そして、自分自身の体験について語る隼人がウソをついている様には思えなかったし、この計画の行く末を不安に思った。
「これからも、自分の体や心の調子のことで気づいたことがあったら、遠慮しないで教えてちょうだいね。それと、今回の話は病院に検査に行ったときにするといいわ。少しでも気になることがあったら、何でも病院で話や相談をしなさい。」
“実験は進行中だから、指示されたこと以外は私には何もしてあげられることはないの、ごめんね… でも、病院ではちゃんと体と心のデータを集めて報告しているはずだから、キチンと伝えてね… 何らかのアドバイスがもらえるハズと思うわ…”
ヨーコ先生の助言を隼人は真顔で聞いていたが、しばらくして次の話題を切り出した。
「今回の現場に乗り込んで来た高校生四人についてなんだ…」
隼人自身が気にかけていた学園内に流れているウワサについてだった。
「あなたたちのお友達の四人の子たちのことね」
「学園の中でその四人が合宿から帰って来た後に記憶を一部失っているらしい、っていうウワサが囁かれているんだ…」
「ああ、そのこと」
興味なさそうな顔をしてヨーコ先生は隼人に対し事務的に受け答えた。
「CIAで使っている尋問用のクスリであの子たちの記憶を消してから少し書き換えたの」
「エ、エエッ!」
「そんなに大声出さないでよ。今はこの部屋は不在ってことにしてあるんだから」
予想外の返答に驚愕する隼人に対してもヨーコ先生は興味なさそうだった。
「敵の捕虜から情報を引き出したあとに、記憶を受け入れる脳の部位をクスリでイジって、その尋問の時の記憶をなくせば、みんなハッピーになるでしょ。必要に応じて消した記憶を催眠術で書き換えることもできるし。MKウルトラの進化した姿ね」
「そんなことしていい訳ないだろ! アンタたち、いったい何考えているんだ!」
イスに掛けたまま淡々としゃべるヨーコ先生に隼人はすごい勢いで詰め寄った。
「人体への影響や健康上の安全性はどうなっているんだ?! 副作用はないのか?!」
「そんなもの保証されるワケないわよ。CIAは医療機関や製薬会社じゃないのよ。必要なのは情報を引き出すこと、記憶と痕跡を消すこと。当たり前でしょ」
「あいつら、まだ高校生になったばっかりだぞ! 将来どうなってもいいのかよ!」
頭に血が昇った隼人は、机を乗り越えて両手でヨーコ先生の襟首につかみかかっていた。
「あの子達だって自分たちで勝手に、危険で秘密の満ち溢れる場所に飛び込んで来たんでしょ。それに、その仲間の子たちに銃を向けて撃った当人に、そんなこと言われるスジ合いはないわ」
隼人のした非道を容赦なく突いたヨーコ先生の一言で隼人の全身からは力が抜けて行った。よろめいた隼人の強く握りしめた手が放れたので、乱れた襟元をヨーコ先生は内心の思いを表すことなく両手で直しながら話し続けた。
“本当はコッチだってそんなことはしたくなかったのよ… コトがコトだけに仕方なくてね… 思わず逆切れしちゃったけど、本当は大人が何とかしてあげるべきだったわ… ごめんなさい…”
「本当ならこの日1日の記憶を全部消すところだったけど、せっかくの合宿がそれじゃ可哀想だから一部の消去にとどめたんじゃない… 消去したり書き換えた時間は、現場にいた時間プラス余裕のためにさかのぼった時間が2倍ちょっとで今回は7時間くらい。スタッフだっていろいろ気を使ってくれたのよ。かかった費用は日本政府に請求しないとね」
“消えた記憶は7時間程度… そうするとオレとカトリ以外はキャンプファイヤーの時からあとのことを消されてしまったってことか…”
ヨーコ先生の説明から受けたショックから立ち直ることができない状態で、隼人の頭にはボンヤリと浮かんできたことがあった。
「そうすると、東条もあの時のことを憶えていない、ってことになるのか…」