宴のあとに
文字数 1,785文字
その時のカトリは明らかに怒っていた。
“これまでオレは成り行きのまま、いくつもの戦闘に巻き込まれてしまっている… そして訳も分からないまま『もう一人の自分』の言いなりになっている…”
『リアル』の隼人は『もう一人の自分』の行動に対して不断に優柔であることを自覚した。
そんな『リアル』隼人の思いにかかわらず、『転移』隼人はカトリの声が聞こえないかの様に黙々と室内の確認作業を続けていた。
《カトリが怒るのは当然なこと… オレは、メタルジャケッテッドの弾丸ではないとはいえ、仲間たちを銃で撃ったんだからな…》
「ワタシたち仲間なんだよ? わかっているの?」
カトリは話をしようとして隼人の行く手をさえぎるように前に立つが、隼人の方はカトリを押しのけてでも前へ進み続ける。
《あのときカトリは足をケガして満足な行動が出来なかった。他の仲間たちは戦闘にはズブの素人で、あの状況で何をしでかすか想像もできなかった。福本も銃の扱いにはなぜか慣れてはいたが使い方となると…》
『転移』隼人は戦いの時のことをVTRを見返すように鮮明に思い出していた。
《それに対して敵はあの戦いぶりを見るとかなりの手練れで、スぺツナズナイフと一緒に人殺しも辞さない決意を持っていた》
歩いている途中につま先で鉄の薄い板を蹴った隼人は、立ち止まってそれを拾って懐中電灯で照らして見た。それは堅いものに当たって先が欠けた『飛びナイフ』の刃だった。
《あの場でオレにできることといったら、エマを人の盾としていた敵に、人質として利用できる人間が一人もいなくなると思い込ませることぐらいだった…》
“だが、そのためとは言えオレは仲間たち全員を銃で撃った… いかなる理由があるにせよ、オレは仲間たちへの責任を負っていく… オレは、あの時の仲間みんなの姿が忘れられない…”
『転移』隼人による自己正当化を『リアル』隼人の気持ちは認めることも許すこともできなかった。
「チョット、待ちなさいよ、ハヤト! 聞いているの?」
足を引きずったカトリが追いかけて来て、『飛びナイフ』の刃を手に物思いに耽る隼人の肩に手をかけた。
「オレはもうしばらく建物の内部を調べてくる。カトリはケガをしているからついて来なくていい。別動隊の車に志織たちと一緒に乗せてもらって宿泊先のホテルまで連れて行ってもらえ」
隼人はカトリの手を払いのけながら振り返って、一方的にカトリへ告げた。そのときの『転移』隼人の行動を『リアル』隼人は制することはできなかった。
「えっ、ハヤトは一緒に車に乗っていかないの?」
“あの距離を、ハヤトは疲れた体で、重い荷物を持ちながら、歩いて帰るっていうの…”
隼人の淡々とした事務的な指示に対して、カトリは信じられないといった表情で問い返した。
「ああ、調べ物がいつ終わるか分からないから、先に戻っておいてくれ。オレは歩いて帰る」
隼人はカトリの方も見ずに早口で答えた。
「… ひどいことことしちゃったね、ハヤト…」
カトリのつぶやきは、寂しそうでもあり、心配そうでもあった。そしてこの言葉は隼人の心に突き刺さったが、それに耳を貸した様子は隼人には見られなかった。
その日の早朝、響子先生は生活指導の体育の女性教師からの内線電話の音で、合宿での早めの目覚まし時計の鳴る前の貴重な安らかな眠りの時間を破られた。1年B組の生徒がホテルの屋外のテラスで眠り込んでいるのを庭の掃除をしている作業員が見つけたということだった。
急いで向かった響子先生をテラスで待っていたのは、腕組みをして神経質そうに体をゆすり続ける女性教師と、毛布を背中から掛けられている4名の生徒たちがガーデニングチェアに腰かけて丸い大きなテーブルに上半身うつ伏せで寝ている姿だった。
「先生、ウチの準備中の作業員が早朝に見つけたのですが、生徒さんたちがここで夜を明かしたようなんです。朝冷えるのに体操着しか着ていなかったので、あわてて毛布を用意したところなんですよ」
困った顔をしたフロントの男性職員が響子先生に少し迷惑そうに話しかけてきた。その先では朝早くから余計な作業をさせられた作業員が、かなりご立腹の様子で立っていた。
“これまでオレは成り行きのまま、いくつもの戦闘に巻き込まれてしまっている… そして訳も分からないまま『もう一人の自分』の言いなりになっている…”
『リアル』の隼人は『もう一人の自分』の行動に対して不断に優柔であることを自覚した。
そんな『リアル』隼人の思いにかかわらず、『転移』隼人はカトリの声が聞こえないかの様に黙々と室内の確認作業を続けていた。
《カトリが怒るのは当然なこと… オレは、メタルジャケッテッドの弾丸ではないとはいえ、仲間たちを銃で撃ったんだからな…》
「ワタシたち仲間なんだよ? わかっているの?」
カトリは話をしようとして隼人の行く手をさえぎるように前に立つが、隼人の方はカトリを押しのけてでも前へ進み続ける。
《あのときカトリは足をケガして満足な行動が出来なかった。他の仲間たちは戦闘にはズブの素人で、あの状況で何をしでかすか想像もできなかった。福本も銃の扱いにはなぜか慣れてはいたが使い方となると…》
『転移』隼人は戦いの時のことをVTRを見返すように鮮明に思い出していた。
《それに対して敵はあの戦いぶりを見るとかなりの手練れで、スぺツナズナイフと一緒に人殺しも辞さない決意を持っていた》
歩いている途中につま先で鉄の薄い板を蹴った隼人は、立ち止まってそれを拾って懐中電灯で照らして見た。それは堅いものに当たって先が欠けた『飛びナイフ』の刃だった。
《あの場でオレにできることといったら、エマを人の盾としていた敵に、人質として利用できる人間が一人もいなくなると思い込ませることぐらいだった…》
“だが、そのためとは言えオレは仲間たち全員を銃で撃った… いかなる理由があるにせよ、オレは仲間たちへの責任を負っていく… オレは、あの時の仲間みんなの姿が忘れられない…”
『転移』隼人による自己正当化を『リアル』隼人の気持ちは認めることも許すこともできなかった。
「チョット、待ちなさいよ、ハヤト! 聞いているの?」
足を引きずったカトリが追いかけて来て、『飛びナイフ』の刃を手に物思いに耽る隼人の肩に手をかけた。
「オレはもうしばらく建物の内部を調べてくる。カトリはケガをしているからついて来なくていい。別動隊の車に志織たちと一緒に乗せてもらって宿泊先のホテルまで連れて行ってもらえ」
隼人はカトリの手を払いのけながら振り返って、一方的にカトリへ告げた。そのときの『転移』隼人の行動を『リアル』隼人は制することはできなかった。
「えっ、ハヤトは一緒に車に乗っていかないの?」
“あの距離を、ハヤトは疲れた体で、重い荷物を持ちながら、歩いて帰るっていうの…”
隼人の淡々とした事務的な指示に対して、カトリは信じられないといった表情で問い返した。
「ああ、調べ物がいつ終わるか分からないから、先に戻っておいてくれ。オレは歩いて帰る」
隼人はカトリの方も見ずに早口で答えた。
「… ひどいことことしちゃったね、ハヤト…」
カトリのつぶやきは、寂しそうでもあり、心配そうでもあった。そしてこの言葉は隼人の心に突き刺さったが、それに耳を貸した様子は隼人には見られなかった。
その日の早朝、響子先生は生活指導の体育の女性教師からの内線電話の音で、合宿での早めの目覚まし時計の鳴る前の貴重な安らかな眠りの時間を破られた。1年B組の生徒がホテルの屋外のテラスで眠り込んでいるのを庭の掃除をしている作業員が見つけたということだった。
急いで向かった響子先生をテラスで待っていたのは、腕組みをして神経質そうに体をゆすり続ける女性教師と、毛布を背中から掛けられている4名の生徒たちがガーデニングチェアに腰かけて丸い大きなテーブルに上半身うつ伏せで寝ている姿だった。
「先生、ウチの準備中の作業員が早朝に見つけたのですが、生徒さんたちがここで夜を明かしたようなんです。朝冷えるのに体操着しか着ていなかったので、あわてて毛布を用意したところなんですよ」
困った顔をしたフロントの男性職員が響子先生に少し迷惑そうに話しかけてきた。その先では朝早くから余計な作業をさせられた作業員が、かなりご立腹の様子で立っていた。