キーホルダーのゆくえ
文字数 1,681文字
「カトリ、ジャンケンで俺に勝ったら、このキーホルダーを俺がプレゼントしてやる。カトリが負けたらプレゼントは無しだ」
「ゴースケったらイヤな感じ… ところで、ジャンケンって何なの?」
「カトリはジャンケンも知らないのか? ジャンケンとはな…」
食べ終わった試食の餡ころ餅の包み紙を手いっぱいに持ったまま、上機嫌の剛介がカトリへ説明をしようと顔を向けた時、後から長い手が伸びてきて残り一つのキーホルダーが握られると同時に高く持ち上げられた。
「おいお前、それは俺たちが買おうとしていたキーホルダーだ! 元に戻せ、いや戻さないか!」
剛介が振り向くと、運動部活系の背の高い、スカした髪型にセットした男がキーホルダーを指でクルクル回していた。
「はあ? なに言ってんだ? 残り一個なのにいつまでもチンタラしてるからだろ」
「なんだと、貴様!」
「二人でいったい何のケンカしているんだ? 君らの声、すごくデカくて目立ちまくっているぞ!」
陽二が慌てて近づいてきて何ごとかといった様子で声をかけた。
「福本、コイツが俺たちが買おうとしていたキーホルダーを横取りしやがったんだ」
「横取りも何も、まだ金も払わないでおいて! オマエらこそ時間かけ過ぎてずっと他の客に迷惑かけてるんだよ!」
男に目を合わせられた陽二は、下を向いているカトリを見ると相手の的を得た指摘に沈黙を守らざるを得なかった。
「おい、貴様の方も俺とカトリがずっと悩んでいるのは見ていたはずだ!」
「いくら悩んでも物を買わないこともあんだろ。外から見てただけじゃ他人には買うかどうかは分からないんだよ」
「ゴースケ、もういい… 確かにワタシたちも良くなかったよ…」
「なあ、そんなことないよな、福本!」
同意を求める剛介の視線に対して陽二は目をつむって首を左右に振った。
「おい福本、お前まで…」
陽二の胸ぐらに向かって思わず剛介の手が伸びた。
「何するのゴースケ!」
カトリの憤怒の声に空をつかんだ手を剛介は悔しそうに振り下げた。
「時間をかけ過ぎたワタシたちが悪かったんだよ… どうぞ…」
「はあ、まったくいつまでかかるんだよオマエら? この期に及んでも時間かけ過ぎなんだよ!」
カトリが見ているのを明らかに意識して、男は剛介を小突いた。
「テメエもいつまでも調子乗ってんじゃねーぞ」
男がキーホルダーをクルクル回す手首が低い声とともに強い力で握り絞められた。
「!」
「いいんだ、もう止めとけよ」
剛介は陽二の肩を叩いた。
「お前も早く行った行った」
剛介は男の背中をポンポンと数回叩いた。すると背中にはあんこの残りと包み紙が盛大に付いたが、それに気づかないまま男は人だかりの間をかき分けて去って行った。
「ちょっとやり過ぎだヨ、ゴースケったら!」
「あんなヤロー、あのくらいで丁度いいんだ」
ご立腹のカトリのことをゴースケはぜんぜん意に介していなかった。
「福本…」
振り返ると剛介が頭を下げていたので、陽二の目が点になった。
「ありがとうな」
「いったいどうしたんだ、竜崎?」
陽二はいぶかしげな顔をしていた。
「俺のためにアイツに怒ってくれて…」
「なに言ってんだよ? あいつは調子に乗り過ぎだったし、ボクたちは仲間だろ、当然だよ」
当たり前そうな顔をする陽二を見て自分の今までの態度を剛介は反省していた。
「おい、カトリ! このキーホルダーが欲しかったんだろ?」
背後からの声に3人が振り返った。
「これどうしたの、ハヤト!?」
「みやげ物売り場を通りがかったら、さっきの騒ぎだろ… あのキーホルダーが騒ぎの元みたいだったから、在庫がないか店員さんに聞いたんだけど、運よくまだ一個あったからすぐに買ったんだ。出したらすぐになくなるくらいの人気だから一つずつしか出していなかったんだってさ」
「ありがとう! ハヤト!」
カトリはキーホルダーを握りしめて隼人に飛びついた。
ギシ、ギシ…
脇でカトリと隼人のやりとりを見て歯噛みしていた剛介の胸中を推し量る者は誰ひとりいなかった。
「ゴースケったらイヤな感じ… ところで、ジャンケンって何なの?」
「カトリはジャンケンも知らないのか? ジャンケンとはな…」
食べ終わった試食の餡ころ餅の包み紙を手いっぱいに持ったまま、上機嫌の剛介がカトリへ説明をしようと顔を向けた時、後から長い手が伸びてきて残り一つのキーホルダーが握られると同時に高く持ち上げられた。
「おいお前、それは俺たちが買おうとしていたキーホルダーだ! 元に戻せ、いや戻さないか!」
剛介が振り向くと、運動部活系の背の高い、スカした髪型にセットした男がキーホルダーを指でクルクル回していた。
「はあ? なに言ってんだ? 残り一個なのにいつまでもチンタラしてるからだろ」
「なんだと、貴様!」
「二人でいったい何のケンカしているんだ? 君らの声、すごくデカくて目立ちまくっているぞ!」
陽二が慌てて近づいてきて何ごとかといった様子で声をかけた。
「福本、コイツが俺たちが買おうとしていたキーホルダーを横取りしやがったんだ」
「横取りも何も、まだ金も払わないでおいて! オマエらこそ時間かけ過ぎてずっと他の客に迷惑かけてるんだよ!」
男に目を合わせられた陽二は、下を向いているカトリを見ると相手の的を得た指摘に沈黙を守らざるを得なかった。
「おい、貴様の方も俺とカトリがずっと悩んでいるのは見ていたはずだ!」
「いくら悩んでも物を買わないこともあんだろ。外から見てただけじゃ他人には買うかどうかは分からないんだよ」
「ゴースケ、もういい… 確かにワタシたちも良くなかったよ…」
「なあ、そんなことないよな、福本!」
同意を求める剛介の視線に対して陽二は目をつむって首を左右に振った。
「おい福本、お前まで…」
陽二の胸ぐらに向かって思わず剛介の手が伸びた。
「何するのゴースケ!」
カトリの憤怒の声に空をつかんだ手を剛介は悔しそうに振り下げた。
「時間をかけ過ぎたワタシたちが悪かったんだよ… どうぞ…」
「はあ、まったくいつまでかかるんだよオマエら? この期に及んでも時間かけ過ぎなんだよ!」
カトリが見ているのを明らかに意識して、男は剛介を小突いた。
「テメエもいつまでも調子乗ってんじゃねーぞ」
男がキーホルダーをクルクル回す手首が低い声とともに強い力で握り絞められた。
「!」
「いいんだ、もう止めとけよ」
剛介は陽二の肩を叩いた。
「お前も早く行った行った」
剛介は男の背中をポンポンと数回叩いた。すると背中にはあんこの残りと包み紙が盛大に付いたが、それに気づかないまま男は人だかりの間をかき分けて去って行った。
「ちょっとやり過ぎだヨ、ゴースケったら!」
「あんなヤロー、あのくらいで丁度いいんだ」
ご立腹のカトリのことをゴースケはぜんぜん意に介していなかった。
「福本…」
振り返ると剛介が頭を下げていたので、陽二の目が点になった。
「ありがとうな」
「いったいどうしたんだ、竜崎?」
陽二はいぶかしげな顔をしていた。
「俺のためにアイツに怒ってくれて…」
「なに言ってんだよ? あいつは調子に乗り過ぎだったし、ボクたちは仲間だろ、当然だよ」
当たり前そうな顔をする陽二を見て自分の今までの態度を剛介は反省していた。
「おい、カトリ! このキーホルダーが欲しかったんだろ?」
背後からの声に3人が振り返った。
「これどうしたの、ハヤト!?」
「みやげ物売り場を通りがかったら、さっきの騒ぎだろ… あのキーホルダーが騒ぎの元みたいだったから、在庫がないか店員さんに聞いたんだけど、運よくまだ一個あったからすぐに買ったんだ。出したらすぐになくなるくらいの人気だから一つずつしか出していなかったんだってさ」
「ありがとう! ハヤト!」
カトリはキーホルダーを握りしめて隼人に飛びついた。
ギシ、ギシ…
脇でカトリと隼人のやりとりを見て歯噛みしていた剛介の胸中を推し量る者は誰ひとりいなかった。