報・連・相　　～驚愕～

　「…その後の被験者の様子ですが、落ち着いていて日常生活には支障はありません」
　　　
　話し相手が目の前にいるかのように、スマホに対してヨーコ先生は丁寧な言葉づかいをしている。

　「…はい、現場からコチラに到着した時点では、前にも報告しましたとおり彼は気を失っておりました。　…ええ、外傷についても報告のとおりで、頬には銃創の様なものはありました。　…気を失っておりましたが、彼の頭部には衝撃を受けた様子はありませんでした」

　それに対する相手の返答と打ち明け話を聞いているうちに、ヨーコ先生の顔は見る見る驚愕の表情に変わっていった。

　「エエッ！　ワザと彼らに向かって銃を撃ったのですか？！　なぜ、そんなことをしたのですか？！」

　思わず叫んでしまったものの、何とか冷静さを装おうとヨーコ先生は努めた。

　「…記憶転移のキザシを確実に確認できるように、あえて彼に“強めの心的衝撃”をお加えになったとのことですか？　それと同時にバベルのアジトをストーキングする目的でワザと逃がすために彼らをジャマしたと？　“ワザと”ではなく“意図的に”、“ジャマ”ではなく“行き過ぎを防止する”ですね。言葉づかいには気を付けます…　ただ、私は事前にそのようなお話しをお聞かせ頂いておりませんでした…　人の体は機械とは違うと思いますが…　手術をしたからといって記憶転移の成果を少し急ぎ過ぎではないでしょうか…　もちろん私もこの計画に疑いなど持っておりません…」

　未だ驚きと興奮状態から解き放たれていない自覚があるヨーコ先生は、平静さを取り戻すために話題を変えた。

　「今回のケースでは、初めてのわりに彼らも成果を出しました…　ええ、バベルの4名のうち3名を捕獲しました…　ハイ、とはおっしゃっても最後の1名はアジトをストーキングするため“意図的に”取り逃がしをさせたのですよね…　私にはイヤミのつもりはありませんが…　バチカンとの共同作戦で成果が得られたのは、喜ばしいことです…　えっ、外交的成果よりも議会向けのアピールが大事と言うのですか？！」

　再びヨーコ先生の導火線に火が着きそうになったが、相手の口調は有無を言わせないものだった。　

　「…ハイ、議員へのご対応、ご説明をなさっているご苦労は充分に理解しているつもりです…　いずれにせよ、今後は情報の共有についてもご配慮頂ければ、現場としても大変やり易くなるものですので…　ご連絡ありがとうございました」

　スマホを終話させるとヨーコ先生はため息をついた。自分たちの目的のためには、味方のはずのコチラに黙って、コチラのアンモがゴム弾と知ったうえで完全防護のスナイパーを用意して狙撃してくるなんて、やってくれじゃない…　あんまり信用し過ぎないよう注意しなきゃね、とヨーコ先生は小さな声でつぶやいた。