第32話 再会1
文字数 1,607文字
あの後、悠也は二週間、自分の部屋から出ることを禁じられた。僕達は上司に呼び出され、きつく叱られた。
言い訳はせず、僕はひたすら頭を下げた。おかげで、光に処分はなく、僕は、三ヶ月の減給と、一週間の就労停止処分を受けることになった。正直、これだけの処分で済んで良かったと思った。
光は、「すまん」と僕に謝ってきた。
「俺が甘かった。薬莢に手を出すとは思ってなくて……」
「気にしないで。銃を渡さなくても、あの子はガンパウダーを吸ってたかもしれないよ。僕が部屋に返せば良かったんだよ」
「でも……」
「それに、僕もそろそろゆっくりしたかったんだ。これを機に、久々にお墓参りに行こうかな」
「巽……」
「もう五年も帰ってないんだ。おじさんの家も綺麗にしなきゃね」
僕は、光に笑って見せた。光は、変わらず暗い顔をしていた。
次の日、僕は朝から施設を出た。光が見送りに来てくれた。
「少しの間、よろしくね」
「あぁ。いつ帰ってくんの?」
「まだ決めてない。就労停止処分が解けるまでには帰ってくるよ」
「分かった。気をつけろよ」
「ありがと」
自分のバイクに少しの荷物を乗せて、走らせた。途中でガソリンを入れて、家に着いたのは、夕方になってからだった。
バイクを走らせてからの風は冷たかった。手がかじかんで、赤くなった。
家の前にバイクを置いて、玄関に手を掛けると、玄関が空いていた。
「来てるのかな?」と玄関を大きく開けると、家の奥からドタドタと足音をたてて彼女 が走ってきた。
「おかえりなさい、寒かったでしょう」
僕の幼馴染の白波椿 は、僕がいない間、時々家に来ては掃除とかやってくれる、本当に僕にはもったいない人だ。
「ただいま。ごめんね、昨日は急に帰るって……」
「いいのよ。お風呂入る?できてるよ」
「うん」
その日、僕はお風呂に入った後、夜ご飯を食べずに眠った。
次の日、僕は朝から目を覚まし、色々と支度をした。椿は、昨日のうちに自宅に戻ったけど、「明日は仕事で来れないけど、明後日は休みをもらったから、来るね」と言ってくれた。
昨日椿が作ってくれた夜ご飯を朝に食べ、バイクに跨って、あの場所に向かった。そこは、死んだ両親が眠っている場所。家から少し離れた、見晴らしのいい小高い山の上だ。
途中、花屋さんが開いていたので、小さな花束を買った。
山の頂上に着いた。バイクから降りて、両親とおじさんが眠っている場所まで少し歩いた。
三人が眠っている所には、木を植えている。子どもの時、おじさんが、「この木が大きくなって、根っこが伸びるだろ?それで、お父さんとお母さんをずっと守ってくれるんだよ」と教えてくれた。
両親が亡くなって二十五年。その常盤木は、随分大きくなっていた。
ふと木の下を見ると、朝露のついた、白い花びらの水仙が二本、添えるように置いてあった。
僕は、水仙の花をしばらく眺めて、その花と並べるように花束を置き、手を合わせた。
「ただいま」
小さく呟いて立ち上がった時、後ろから、地面を蹴りながら近づいてくる足音が聞こえたので、僕は何気無く振り返った。そして、瞬きをすることを忘れて、それを見つめた。
黒いブーツに、膝までかかった黒いコート。そのコートのポケットに手を入れて、白い髪は短く整えられている、僕と同じ顔をした『ドッペルゲンガー』が、僕に向かって歩いてきた。
その距離は十メートル程から、一歩一歩、僕に近づき、ついに僕の目の前まで来た。
「巽……」と言ったその人は、ポケットから黒い手を出して、僕の肩を強く掴んだ。そして僕は、その人に抱き寄せられた。
「やっと会えた」
僕は、その姿、この低い声を知っていた。そして、この声を聞いた途端に目頭が猛烈に熱くなり、足腰の力が抜けて、僕はその場にしゃがみ込んでしまった。
「どうした?腹でも痛いのか?」
「ち、ちが……。も……もう、会えないかと思って……」
僕は、言葉を詰まらせながら、その人のコートを握りしめた。
言い訳はせず、僕はひたすら頭を下げた。おかげで、光に処分はなく、僕は、三ヶ月の減給と、一週間の就労停止処分を受けることになった。正直、これだけの処分で済んで良かったと思った。
光は、「すまん」と僕に謝ってきた。
「俺が甘かった。薬莢に手を出すとは思ってなくて……」
「気にしないで。銃を渡さなくても、あの子はガンパウダーを吸ってたかもしれないよ。僕が部屋に返せば良かったんだよ」
「でも……」
「それに、僕もそろそろゆっくりしたかったんだ。これを機に、久々にお墓参りに行こうかな」
「巽……」
「もう五年も帰ってないんだ。おじさんの家も綺麗にしなきゃね」
僕は、光に笑って見せた。光は、変わらず暗い顔をしていた。
次の日、僕は朝から施設を出た。光が見送りに来てくれた。
「少しの間、よろしくね」
「あぁ。いつ帰ってくんの?」
「まだ決めてない。就労停止処分が解けるまでには帰ってくるよ」
「分かった。気をつけろよ」
「ありがと」
自分のバイクに少しの荷物を乗せて、走らせた。途中でガソリンを入れて、家に着いたのは、夕方になってからだった。
バイクを走らせてからの風は冷たかった。手がかじかんで、赤くなった。
家の前にバイクを置いて、玄関に手を掛けると、玄関が空いていた。
「来てるのかな?」と玄関を大きく開けると、家の奥からドタドタと足音をたてて
「おかえりなさい、寒かったでしょう」
僕の幼馴染の
「ただいま。ごめんね、昨日は急に帰るって……」
「いいのよ。お風呂入る?できてるよ」
「うん」
その日、僕はお風呂に入った後、夜ご飯を食べずに眠った。
次の日、僕は朝から目を覚まし、色々と支度をした。椿は、昨日のうちに自宅に戻ったけど、「明日は仕事で来れないけど、明後日は休みをもらったから、来るね」と言ってくれた。
昨日椿が作ってくれた夜ご飯を朝に食べ、バイクに跨って、あの場所に向かった。そこは、死んだ両親が眠っている場所。家から少し離れた、見晴らしのいい小高い山の上だ。
途中、花屋さんが開いていたので、小さな花束を買った。
山の頂上に着いた。バイクから降りて、両親とおじさんが眠っている場所まで少し歩いた。
三人が眠っている所には、木を植えている。子どもの時、おじさんが、「この木が大きくなって、根っこが伸びるだろ?それで、お父さんとお母さんをずっと守ってくれるんだよ」と教えてくれた。
両親が亡くなって二十五年。その常盤木は、随分大きくなっていた。
ふと木の下を見ると、朝露のついた、白い花びらの水仙が二本、添えるように置いてあった。
僕は、水仙の花をしばらく眺めて、その花と並べるように花束を置き、手を合わせた。
「ただいま」
小さく呟いて立ち上がった時、後ろから、地面を蹴りながら近づいてくる足音が聞こえたので、僕は何気無く振り返った。そして、瞬きをすることを忘れて、それを見つめた。
黒いブーツに、膝までかかった黒いコート。そのコートのポケットに手を入れて、白い髪は短く整えられている、僕と同じ顔をした『ドッペルゲンガー』が、僕に向かって歩いてきた。
その距離は十メートル程から、一歩一歩、僕に近づき、ついに僕の目の前まで来た。
「巽……」と言ったその人は、ポケットから黒い手を出して、僕の肩を強く掴んだ。そして僕は、その人に抱き寄せられた。
「やっと会えた」
僕は、その姿、この低い声を知っていた。そして、この声を聞いた途端に目頭が猛烈に熱くなり、足腰の力が抜けて、僕はその場にしゃがみ込んでしまった。
「どうした?腹でも痛いのか?」
「ち、ちが……。も……もう、会えないかと思って……」
僕は、言葉を詰まらせながら、その人のコートを握りしめた。