第9話 広場2

文字数 765文字

 彼が広場に出て一週間が過ぎ、事件が起きた。
広場から、子ども達の騒ぎ声が聞こえた。

「何?騒がしいわね」
「あ、僕、見てきます」

僕は駆け足で広場に行った。広場の真ん中を、子ども達が取り囲んでいた。警備員はたまたま居なかった。

「みんな、どうしたの?」

広場の真ん中に進んだ。そこにいたのは、左目を押さえて転がりまわる男の子と、それを見下ろしている悠也だった。ワンピースパジャマは泥だらけで、悠也は笑っていた。

「あぁぁぁぁ、目が、目がぁぁぁぁぁ」

男の子は、地面でもがいていた。

「君、どうしたの?」
「目を……やられたぁ」

口の中を切ったのか、口から血が出ていた。

 断末魔の声を聞いた他の大人たちもやってきた。

「巽!」
「光、この子が」
「あぁ、すぐに治療を」

大人たちは男の子を担架に乗せ、治療室へ運んだ。周りの子ども達は、この騒動を見ていたのだろう。数人は、怯えているようでその場にふさぎ込んでいた。

 僕は、悠也の前に行き、問いただした。

「悠也」

彼は虚ろな目をキラキラと輝かせながら、クスクスと笑っていた。

「君がやったの?」

彼は答えない。僕は、思いっきり悠也の頬を叩いた。彼は倒れた。僕は彼を起こし、両腕を掴んだ。思わず声を張った。

「君がやったの?」

彼はまだ笑っていた。だが顔は少しひきつり、目には涙を浮かべていた。

「……笑ってないで、泣きたいなら泣きなさい」

彼の顔がみるみるうちに強張った。息づかいが少しずつ荒くなった。

「泣け!」

彼は肩を震わせた。

「泣けぇっ!」

僕は、彼に向かって叫んだ。彼は涙をポロポロと落とし、手で顔を覆い、声を出して泣いた。僕は彼を強く抱きしめた。彼は、より大きな声で泣いた。彼の涙で、僕の肩は濡れた。

「ねぇ、何があったの?」

子ども達は誰も答えてくれなかった。

「悠也、行こう」

僕は、泣きじゃくる悠也を連れて僕の部屋に行った。
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