第51話 昔話5

文字数 1,012文字

「洗濯物は川で洗って、よく絞って乾かすんだ。洗濯の量がいつも多くて、いつも服を踏みまくって洗ってた。

 料理は二週間に一回、町に食材の買い出しに出るんだ。普段は山の中とかで過ごすから、この時はみんないつも喜んで町に出た。
食材と言っても調味料とか腐らない缶詰とか乾物とか。肉とか魚は採ればいいし、山には食べられる草もあるから食べ物には困らなかった。ただ、水を飲むときはキチンとろ過しないと腹を壊す。

 あと食材以外にも、いろんな日用品も買いに行く。怪我人を手当てする時の包帯とか薬とか、服とか靴とか何かの機材とか、みんないろんな物を買ってた」
「悠也は何を買ってた?」
「……ゲーム。サバイバルアクションってゲーム。敵を銃で撃ったり、ナイフで首を切ったりするんだ。強い敵を倒したときは嬉しくなった。シュウに『敵を倒した』って言ったら、シュウは『よくやったな』って頭を撫でて褒めてくれた。それがとても嬉しかった」

 そのゲームは僕も一度やったことがある。血しぶきがグロテスクすぎて、すぐに具合が悪くなったのを覚えてる。
でも最近では、こういったゲームが世界的に流行ってるらしく、『ヒーローになりたい』という理由で兵士になる人も少なくないって、何かの本で読んだことがある。
 悪党を倒すのがカッコいいと思うのは分かるけどさ、これ以上は言葉にできない。
でも、兵士に肉親を殺されて復讐のために兵士を殺す人もいる。樹や悠也のように。
ーーこの世界に、この世の中に『平和』は存在するのかな。『平和な日』って、来るのかなーー。
善が悪を倒したら、善が悪になるんじゃないかな。
そんなことが頭に浮かんで、僕の頭の中をぐちゃぐちゃにかき回した。

 そんなぐちゃぐちゃな頭の中に、悠也の声が入ってきた。悠也は話を続けた。

「ルーはみんなのアイドルで、いい子だ。ご飯の時間になったら、誰よりも早く並んで待ってるんだ。自分の皿を口にくわえて、きちんとお座りしてるんだ。
とても人懐こくて、俺はすぐに仲良くなった。出会ったときは小さかったんだ。お腹に怪我をして、包帯でぐるぐる巻きにされてたけど、怪我が治ったら元気になった。
戦場で疲れたみんなを、ルーのあの人懐こい性格で癒してくれた。

 でも、誰よりも懐いてたのはシュウだった。いつもシュウの周りをウロウロしてた。シュウもルーにちょっかい出したり、ミルクをやったりしてた。

ほんと、あいつはアイドルだった」

悠也は、一旦言葉を切った。
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