第６５話　昔話１９

「で、それが出来るようになったら次はシュウを円の外に出すゲームだ。人三人分くらいの円から『俺をここから出してみろ』って言ったんだ。武器はナイフ、あと素手。最初は押したり引っ張ったりしたけどダメだったから、ナイフを振り回して外に出そうとしたけど返り討ちにあって、逆に腕にナイフ刺された。何ヶ月かかったか分かんないけど、何とか接近戦で外に出せた。……違う、あの時は手加減してくれた」

　その時、風に乗って血の匂いがした。

「……鉄の匂いだ」
「血の匂いだ」

僕は少し警戒した。腰に下げている銃を持ってセーフティを外した。息を殺して耳を澄ませて辺りを見回した。でも、遠くでカラスの声がするだけで他に異変はなかった。
　僕はセーフティをロックして元に戻した。悠也は眉間にしわを寄せたままだった。

「ごめん。それで？」
「あ、あぁ。……とにかくあいつは自分にも周りにも厳しいやつだった。厳しすぎて団長から『やりすぎだ』って言われてた。でもシュウは『これくらいがちょうど良い』って言ってた。皆も言ってたよ。『シュウが厳しすぎる時は、団長がちょっと甘やかしてくれるから、怠け者の俺たちにはちょうど良い』って。『でも、間違えれば、団長の方が断然厳しい』って」
「そっか。君は今までにどれだけの人を殺した？」
「そんなの覚えてないし、いちいち数えられない。たぶん拷問して殺したのと同じくらい」
「子どもと大人ではどちらが多い？」
「……わかんない」

　僕はまた質問した。

「君は、薬物に手を出したとも言っていたね？どうして？」
「戦場にいれば怖くてその場から逃げたくなる。だからコカインとかを吸って気を紛らわせたんだ。ふわふわして、自分が生きてるのか死んでるのかわかんなくなる。それが気持ちいい。でも、団長も皆も『コカインでラリっちまうよりタバコにしとけ』って言われた。だからタバコとガンパウダーに変えた」
「この森で倒れてた時、大量のガンパウダーを塗られたと言ったね？」
「あぁ、あの時は寒くて死にそうだった、その上知らない男たちに運ばれたから、もう殺されるって思って、諦めた」
「ねぇ、どうしてこの森にいたの？」
「……」

　悠也は下を向き、体を小さく丸めた。

　「あの日の前に、旅団の集まりがあったんだ。たくさんの旅団の人と、お偉いさんが集まる会。大切な話があるからって大きい建物の中に皆が集められた。団長は『何かおかしい』って言って半分を集会に連れて行って、半分を外で待機させた。俺は集会の方に行った。
　……そこに寺井がいた。誰だろうって思ったんだ。団長たちは壇上に立たされた。で、しばらくしたら一番トップの『マツエダ』っていうおっさんが出てきて、言ったんだ。『我々は政権軍につくことにした』って。
　そこにいる全員が抗議した。だって、それは俺たちが『降伏した』って言ってるようなもんだ。壇上でももみ合いになった。その時、壇上にいた寺井が団長の腕を持って拘束して、どっかに連れていった。そして壁の上側が開いて、そこから敵が銃を持って俺たちに乱射したんだ。

　上から銃弾が降ってきた。たぶん大きなマシンガンだ。飛行機に取り付けるような大きなやつが何台もあって、しかも出入り口は閉められて皆パニックになった。俺も急いで銃を取り出そうとしたけど、周りにいる皆がバタバタ倒れていくから、俺、体が動かなくなった。あの時は怖かった。でも、その時シュウが助けてくれたんだ。『走れ！』って言って俺を持ち上げて、自分の腕で弾を弾いて逃げた。壁とか床とか血だらけで……。
　シュウが扉をこじ開けて出ようとしたらその先にも敵が銃を構えてた。撃ってきたけど運良く外れた。……なんて言ったらわかんないけど、とにかく、攻めてくる敵を倒しながら突破した。

　外に出て残りの皆を探したけど、皆、血を流して倒れてた。翼とルーが影に隠れて生きてたけど、翼の腹にでかい穴が空いてて動けない状態だったから、シュウが担いでとにかく走って逃げた。ルーもついてきたよ。近くの川に潜って、潜水しながら上の方を目指して、日が暮れるまでずっと泳ぎ続けて山の中に入った。
　川岸にたどり着いた時には、翼はもう死んでた。でもシュウは翼を担いで山の中を歩き始めたからルーも俺もついていった。

　二日は歩き続けたと思う。夜更けにこの森に着いて、ひと休みすることにしたけど火がなかったから、ルーに引っ付いて暖を取ろうとした。シュウは翼から離れようとしないで、木にもたれて静かにしてた」

　ゆっくりとした口調で、途中で深呼吸をしながらも彼は話を続けてくれた。