第60話 昔話14

文字数 1,910文字

 悠也は、ウサギを抱え込んだまま話を続けた。

「左腕が無くなったのは、俺が十歳の頃だ。サイボーグの頭が爆発したんだ。

 『ジャック』の前の『ジャック』が、サイボーグになって、俺たちの前に出てきたんだ」
「ごめん、よくわからないよ」

悠也は少し考えて、また話した。

「えっと、シュウがジャックの名前になる前に、別の奴がジャックの名前を付けてたらしい。確か、シュウに色々教えた奴だ。戦い方とか、サバイバルの仕方とか……。名前は、『ヤマト』だったと思う。一度、写真も見た事があるけど、普通の男だ。
 ヤマトは戦場で死んだ。腕を落とされて瀕死になったシュウを抱えてた熊とヤマトは逃げ込んだ建物で敵に囲まれてしまって、ヤマトは熊を逃がすために囮になった。で、熊がシュウを担いで逃げてる時に自爆したんだ。建物ごと吹っ飛ばしたって。おかげでシュウ達は助かった。そしてヤマトは爆発に巻き込まれて、跡形も無くなってたらしい。
 で、左腕の時は、そのヤマトが俺たちの目の前にやってきたんだ。

 サイボーグの弱点は頭だ。体は機械でも、頭の脳みそと、ナントカって言うところは生身。でもそこらへんの周りは機械で覆われてるから直接は無理。そこで狙うのは首だ。
 首はよく動かすから、筋繊維が露出している。筋繊維の内側には神経回路とか、電極とか、何とかチップとかが埋まってるし、その奥にはナントカも通ってる。だからそこをライフルで撃ち抜くか、首を切るんだ。壊れる場所によってはあいつらは死ぬ。死なないにしても、神経回路とか電極とかにかかるショックが大きいから、体が動かなくなったり、頭に血が回らなくなっていづれは死ぬ。
 でも動きは速いし力は強いし、狙うのは難しい。だから、身体中の関節を狙って動きを鈍くさせるんだ。関節は他の場所に比べて筋繊維が見える。そこを何とかうまく狙って動きを遅らせるんだ」
「血があるの?」
「ん、『人工血液』って言う、プラスチックの血。普通の人工血液よりも白くて、性能がいいんだ。」

 人工血液なら僕も少し知っている。軍が開発したプラスチック製の血液は、普通の血液より酸素を送る量が違う。事故で怪我をした時とか、脳に酸素が必要な時は、この血液を使うと良いそうだ。
 白いプラスチック製に対して、ヘモグロビンを加工した赤い人工血液もある。
この血液が一番実用的で、この施設でも使う事があった。でも、その血液は値段が張るからすぐすぐに手が出せるものじゃない。
 この血液がもっと手に入りやすかったら、真紀ちゃんの病気も治せるかもしれないのにね……。

 彼は、コートの下にいるウサギを引っ張り出して自分の顔の前にやった。まじまじとウサギを見つめる悠也は、「よく見たら、お前可愛いな」と言った。

「ウサギの事?」
「鼻がヒクヒクなってて、目がでかい。今までウサギが可愛いとか思ったことなかった……。むしろ、うまそうだって思ってた。特に足はうまい、皮を剥いで血を洗って、トマトとかと煮込むとうまいんだ。……お前、ウサギ食べたことないのか?」
「あるけど、僕は焼いた方がいいな。肉の味がよく分かるから好き!」
「……お前、結構残酷な奴だな」

悠也が少し笑みを浮かべた。

 悠也はまたウサギをコートの下に入れると、話を続けてくれた。

「で、ヤマトが目の前に来たとき、みんな固まってた。死んだと思ってた奴が生きてて、敵の精鋭部隊にいるんだ。それまで有利だった俺たちは、すぐにピンチになった。だって、みんなヤマトに攻撃できなかったんだ。だって味方だったんだから。
 『ヤマト』って声かけても、『お前誰だ?』って言ってみんなを攻撃したんだ。でもみんなはそれをなんとか避けるだけで、とにかくその場から逃げようと必死だった。

 みんなショックだったみたいだ。でも団長は『敵であるなら殺すしかない』って言ってた。みんなはそれに『あんたそれでも人間か?』って怒ったんだ。『ずっと一緒にいた仲間だろ。ずっとあんたの隣で戦ってきた仲間を、簡単に殺すとか、何でそんなこと言えんだ?』って圭悟が言ったら、団長が『じゃあお前らは死にたいのか?そのまま全員死んでいいんだな?』って言った。

 このヤマトのおかげで俺も合わせて怪我人は十人。大希とシュウと直樹は重傷、それ以外は軽い傷。大希とシュウは手当をすれば大丈夫だったけど、直樹は少しやばかった。ヤマトの攻撃をもろに受けて、肋骨とか足とか折れたからしばらくは動けなかった。

 しばらくは嫌な感じになった。いつ殴り合いのケンカが始まるのかってドキドキしてた。でも、そんな時にシュウが言ったんだ。『俺が殺る』って」

 コートの下で動くウサギを、悠也はゆっくりと撫でていた。
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