第63話 昔話17
文字数 1,257文字
僕が「その後は?」と聞くと、彼は「言いたくない」と言った。
少しの間、彼は何も話さず下を向いて肩を震わせ、僕はただただ真上の枝を見つめた。
木々が芽ぐむ春ーー。そんな言葉が頭に浮かんだ。
まるで悠也みたいだと思った。
「もう直ぐ春が来るね」
「……まだ寒い」
「でもこの枝が、もう直ぐ春を知らせてくれるよ」
「……この木は何だ」
「さ、……分からないや」
「……分んないのか」
悠也は涙目だった。
「春はあまり好きじゃない」
「……うん」
悠也は目をこすり、遠くを見始めた。そこで僕は質問した。
「君は、同じ子どもの敵と戦ったことがあるの?」
「ん。あっちの前線にはガキが多かった」
「……なんで、子どもたちが戦わないといけないのかな?」
彼はそっぽを向きながら「戦争だから」と言った。
「あいつらにはノルマがあったらしい。一日七人を倒す……。それができなかったら飯抜きの上にボコボコにされる。それで死んだ奴も多いらしい」
「逃げれば、殺されるんだっけ?」
彼は瞬きを一つした。
「前に出れば俺たちの餌食、後ろに下がれば味方から殺されるんだ。自分から死んでいった奴もいた。
俺たちに捕まって、ガタガタ震えて命乞いする奴もいた。死にたくなかったんだろうな。泣きながら、血まみれになりながら『助けてくれ』って言ってた」
「拷問……したことある?」
「ん。それは俺の仕事だったから。敵を壁に縛り付けて情報を聞きだすんだ。『上司の名前』とか『部隊編成』とか色々。最初から言うやつなんていない。だからビビらせるんだ。殴ったりハンドガンで脚とか腕を撃ったりして、『このままじゃ死ぬ』って思わせれば大抵は情報を口に出す」
「その時って、どんな気分だった?」
「最初は苦しかった。今まで生きてた奴が、急に動かなくなるんだ。なんでこんなことしてんだろうって思ってた。でも、そのうち、俺が神様になった気分になって、楽しくなった。俺のさじ加減一つで生かせるし殺せるーー。こいつの命を自由にできるって思ったら、凄くワクワクした。銃口を向ければ、泣きわめく奴もいたし黙って目をつぶる奴もいた。大人が泣きながら命乞いする姿とか面白かったよ。
俺はすぐには殺さなかった。ゆっくりと壊すんだ。顔の形が変わるまで殴って、骨折って、呼吸がヒューヒューなって苦しそうにしてるのを見るとたまらなかった。そして最後はナイフで殺すんだ。ナイフを体に刺す瞬間が凄く気持ちよかった。『殺してくれ』って言う奴もいた。その時は喜んで殺してやったよ」
「……悠也、ちょっと……ごめん」
気分が悪くなった。僕は一度その場から離れた。暫くして落ち着きを取り戻したらまた彼の話を聞いた。
「あと、敵の首を切って、頭をボールの代わりにして皆で遊んだ。よく転ぶんだ。手で触るのは皆嫌がるから、蹴って遊んだ。よく転ぶんだぜ、人の頭って」
「……もう……ダメ」
僕は咄嗟に立ち上がり、茂みの方に走った。そこでしゃがみこんでいると、悠也が「どうした?」と大声で心配してくれた。
それから彼は、僕の事を知ってくれたのか、拷問の話はしなくなった。
少しの間、彼は何も話さず下を向いて肩を震わせ、僕はただただ真上の枝を見つめた。
木々が芽ぐむ春ーー。そんな言葉が頭に浮かんだ。
まるで悠也みたいだと思った。
「もう直ぐ春が来るね」
「……まだ寒い」
「でもこの枝が、もう直ぐ春を知らせてくれるよ」
「……この木は何だ」
「さ、……分からないや」
「……分んないのか」
悠也は涙目だった。
「春はあまり好きじゃない」
「……うん」
悠也は目をこすり、遠くを見始めた。そこで僕は質問した。
「君は、同じ子どもの敵と戦ったことがあるの?」
「ん。あっちの前線にはガキが多かった」
「……なんで、子どもたちが戦わないといけないのかな?」
彼はそっぽを向きながら「戦争だから」と言った。
「あいつらにはノルマがあったらしい。一日七人を倒す……。それができなかったら飯抜きの上にボコボコにされる。それで死んだ奴も多いらしい」
「逃げれば、殺されるんだっけ?」
彼は瞬きを一つした。
「前に出れば俺たちの餌食、後ろに下がれば味方から殺されるんだ。自分から死んでいった奴もいた。
俺たちに捕まって、ガタガタ震えて命乞いする奴もいた。死にたくなかったんだろうな。泣きながら、血まみれになりながら『助けてくれ』って言ってた」
「拷問……したことある?」
「ん。それは俺の仕事だったから。敵を壁に縛り付けて情報を聞きだすんだ。『上司の名前』とか『部隊編成』とか色々。最初から言うやつなんていない。だからビビらせるんだ。殴ったりハンドガンで脚とか腕を撃ったりして、『このままじゃ死ぬ』って思わせれば大抵は情報を口に出す」
「その時って、どんな気分だった?」
「最初は苦しかった。今まで生きてた奴が、急に動かなくなるんだ。なんでこんなことしてんだろうって思ってた。でも、そのうち、俺が神様になった気分になって、楽しくなった。俺のさじ加減一つで生かせるし殺せるーー。こいつの命を自由にできるって思ったら、凄くワクワクした。銃口を向ければ、泣きわめく奴もいたし黙って目をつぶる奴もいた。大人が泣きながら命乞いする姿とか面白かったよ。
俺はすぐには殺さなかった。ゆっくりと壊すんだ。顔の形が変わるまで殴って、骨折って、呼吸がヒューヒューなって苦しそうにしてるのを見るとたまらなかった。そして最後はナイフで殺すんだ。ナイフを体に刺す瞬間が凄く気持ちよかった。『殺してくれ』って言う奴もいた。その時は喜んで殺してやったよ」
「……悠也、ちょっと……ごめん」
気分が悪くなった。僕は一度その場から離れた。暫くして落ち着きを取り戻したらまた彼の話を聞いた。
「あと、敵の首を切って、頭をボールの代わりにして皆で遊んだ。よく転ぶんだ。手で触るのは皆嫌がるから、蹴って遊んだ。よく転ぶんだぜ、人の頭って」
「……もう……ダメ」
僕は咄嗟に立ち上がり、茂みの方に走った。そこでしゃがみこんでいると、悠也が「どうした?」と大声で心配してくれた。
それから彼は、僕の事を知ってくれたのか、拷問の話はしなくなった。