第19話 むかしむかし
文字数 1,429文字
僕はハッと目を覚ました。僕は、いつの間にか悠也のベッドに寝ていた。僕の横で、彼は寝息を立てていた。夜は明けているのか、外は少し明るくなっていた。
僕は起き上がり、悠也の部屋を出た。
一度自分の部屋に戻り、着替えなどを持ってシャワーを浴びにいった。
シャワーを浴びているあいだ、昔のことを思い出した。
少し僕のことを話するね。僕がこの施設に来た理由は、弟の樹を見つける為だった。
僕の両親は、僕が七歳の時に殺された。何の理由も無くね。逃げる僕たちをかばって、父親は銃弾を浴びて倒れた。父親の亡骸に駆け寄った母親も、男たちに殴られ、最後には、父親と同じように蜂の巣にされた。
両親が僕たちに言った最後の言葉は、今でもはっきりと覚えてるよ。
その時樹は、両親の前に立つ兵士に立ち向かおうとしたけど、僕がそれを止めて、彼の手を引いてその場から離れた。
親を亡くした僕たちは、その日のうちに親戚の家に引き取られた。でもある日、樹は親戚の家を出ていった。「仇をうつ」と言って、暗い夜道を走っていったんだ。とても寒い、冬の時期だった。あの時は珍しく、雪が降っていた。
「樹、どこいくの?」
「……ここを出る」
「何で?お外は危ないからやめようよ」
「嫌だ。父さんと母さんを殺した奴らを全滅させてやる」
「樹、やめようよ。死んじゃやだよ。おじさん、今なら寝てて怒られないから、お布団に入ろうよ」
「僕は死なない。全員殺すまで、絶対死なない!」
「樹……」
「巽は何も思わないの?目の前で、父さんと母さんが死んだんだよ⁈」
何も思わないわけがない。もちろん、僕だって頭にきたし、悲しかったし、悔しかったし、怖かった。
「巽、僕は父さんと母さんの仇をうつ。巽も一緒に行こう」
樹は僕の手を引っ張った。僕はそれを振り払った。
「巽……」
「怖いよ樹、やめようよ、お布団に入ろうよ。お願いだから樹、どこにも行かないでよ」
僕は涙を流しながら、必死に樹の腕を掴んだ。
「離して!僕は行くんだ‼︎」
「行かせないよ、行かないで……」
すると樹が、僕の顔をめがけて殴ってきた。僕は見事に樹の拳をくらい、地面に倒れた。軽く口を切った。頭も打って、目の前がクラクラした。
樹は僕を倒して、夜の寒い道を走っていった。あっという間に樹はいなくなった。
僕は泣きながら地面に顔をうずめた。そして、そのまま意識を失った。
それから二十五年間、樹に会っていない。僕を育ててくれたおじさんも、僕が二十歳の時に事故で亡くなった。僕は絶望した。
これからどうしようかと考えたとき、樹を探そうと思った。唯一、一ヶ所だけ、少年兵のケアをおこなっている施設があることを知って、僕はすぐにそこで働きたいと思った。運よく、看護師としての知識と経験を持っていた僕は、そこに入らせてもらうことになった。
「ここにいたら、樹を知ってる人がいるかもしれない」
でも、そう簡単に事が運ぶことはなかった。それと同時に、子ども達が苦しんでる姿を見るのが辛かった。でも、樹も同じ思いをしてるかもしれないと思うと、「こんな所で弱音を吐いちゃダメだ」と、自分に言い聞かせてきた。
それでも、樹の情報を聞くことはできなかった。
そしてようやく今、樹の情報を、悠也が知っている事に、僕は驚きしかなかった。心の片隅で、本当は死んでしまったんじゃないかって、もう二度と会えないって思っていた。もう、僕しかいないんだと思っていた。唯一の肉親が生きてるーー。僕はどうにかして、樹に会いたいと思った。
僕は起き上がり、悠也の部屋を出た。
一度自分の部屋に戻り、着替えなどを持ってシャワーを浴びにいった。
シャワーを浴びているあいだ、昔のことを思い出した。
少し僕のことを話するね。僕がこの施設に来た理由は、弟の樹を見つける為だった。
僕の両親は、僕が七歳の時に殺された。何の理由も無くね。逃げる僕たちをかばって、父親は銃弾を浴びて倒れた。父親の亡骸に駆け寄った母親も、男たちに殴られ、最後には、父親と同じように蜂の巣にされた。
両親が僕たちに言った最後の言葉は、今でもはっきりと覚えてるよ。
その時樹は、両親の前に立つ兵士に立ち向かおうとしたけど、僕がそれを止めて、彼の手を引いてその場から離れた。
親を亡くした僕たちは、その日のうちに親戚の家に引き取られた。でもある日、樹は親戚の家を出ていった。「仇をうつ」と言って、暗い夜道を走っていったんだ。とても寒い、冬の時期だった。あの時は珍しく、雪が降っていた。
「樹、どこいくの?」
「……ここを出る」
「何で?お外は危ないからやめようよ」
「嫌だ。父さんと母さんを殺した奴らを全滅させてやる」
「樹、やめようよ。死んじゃやだよ。おじさん、今なら寝てて怒られないから、お布団に入ろうよ」
「僕は死なない。全員殺すまで、絶対死なない!」
「樹……」
「巽は何も思わないの?目の前で、父さんと母さんが死んだんだよ⁈」
何も思わないわけがない。もちろん、僕だって頭にきたし、悲しかったし、悔しかったし、怖かった。
「巽、僕は父さんと母さんの仇をうつ。巽も一緒に行こう」
樹は僕の手を引っ張った。僕はそれを振り払った。
「巽……」
「怖いよ樹、やめようよ、お布団に入ろうよ。お願いだから樹、どこにも行かないでよ」
僕は涙を流しながら、必死に樹の腕を掴んだ。
「離して!僕は行くんだ‼︎」
「行かせないよ、行かないで……」
すると樹が、僕の顔をめがけて殴ってきた。僕は見事に樹の拳をくらい、地面に倒れた。軽く口を切った。頭も打って、目の前がクラクラした。
樹は僕を倒して、夜の寒い道を走っていった。あっという間に樹はいなくなった。
僕は泣きながら地面に顔をうずめた。そして、そのまま意識を失った。
それから二十五年間、樹に会っていない。僕を育ててくれたおじさんも、僕が二十歳の時に事故で亡くなった。僕は絶望した。
これからどうしようかと考えたとき、樹を探そうと思った。唯一、一ヶ所だけ、少年兵のケアをおこなっている施設があることを知って、僕はすぐにそこで働きたいと思った。運よく、看護師としての知識と経験を持っていた僕は、そこに入らせてもらうことになった。
「ここにいたら、樹を知ってる人がいるかもしれない」
でも、そう簡単に事が運ぶことはなかった。それと同時に、子ども達が苦しんでる姿を見るのが辛かった。でも、樹も同じ思いをしてるかもしれないと思うと、「こんな所で弱音を吐いちゃダメだ」と、自分に言い聞かせてきた。
それでも、樹の情報を聞くことはできなかった。
そしてようやく今、樹の情報を、悠也が知っている事に、僕は驚きしかなかった。心の片隅で、本当は死んでしまったんじゃないかって、もう二度と会えないって思っていた。もう、僕しかいないんだと思っていた。唯一の肉親が生きてるーー。僕はどうにかして、樹に会いたいと思った。