第28話 2人の男3
文字数 1,536文字
その日から背広の二人は、三日に一日のペースで僕を呼び出しては、最初の時と同じ質問をしてきた。僕も同じ答えをするだけだった。
彼らが来ている間、悠也は自分の部屋にこもっていた。悠也が反乱軍の兵士だった事は、僕以外に誰も知らなかった。この施設にいる人たちはみんな、悠也が政権軍側の兵士だと思い込んでいた。悠也自身、自分の事を誰にも話していなかったんだ。でも悠也は、念のため、顔を見られないようにと部屋にこもった。
でも、彼らも馬鹿じゃない。悠也に関する情報を、少しずつ集めていたんだ。
ついに悠也の顔が割れた。戦争が終わって、二ヶ月たった頃だった。
僕の目の前に出された写真は、幼い悠也だった。面影が、まるで一緒だった。
「この写真は、『小鬼』の六歳頃の姿です」
いつもの佐野さんの、淡々とした口調だ。
「この顔に見覚えは?」
僕は、その写真に顔を近づけ、「ない」と言った。
「嘘つくなよ?」
いつもの寺井さんの、疑いをかける言葉に、胸が音を立てた。
「寺井」といつものように、佐野さんがなだめた。
佐野さんは、かけているメガネをくいと上げた。応接室に、広場で遊んでいる子供たちの元気な声が聞こえてきた。
「元気そうな声が聞こえますね」
「ええ」
「ちょっと様子を見ても?」
「え、えぇ」
僕は二人を、広場に案内した。
この日も子供たちは、入り乱れて遊んでいた。鬼ごっこをして遊ぶ子、おしゃべりを楽しんでる子、ボールを器用に蹴っている子。今日もみんな、目を輝かせていた。
背広の二人は、広場の外から見渡した。すると、子供たちが、一人、また一人と、この二人に気づき、今まで楽しそうにしていた顔が、みるみるうちに強張っていった。そして、広場がどんどん静かになっていった。
「あー、元気そうで……」
寺井さんが、顔を引きつらせて言った。
「子供たちは、ここにいるだけで?」
「体調の悪い子は部屋にいます。あとは、カウンセリングや勉強をしている子も……」
「そうですか」
広場を後にした。二人は歩きながら話した。
「あそこにいたのは全員、正規軍のチャイルドソルジャーだな」
寺井さんが、あくび交じりに言った。
「見たことある顔か」
佐野さんは、何も変わらず言った。
「あぁ。それにあいつら、俺を見た途端、顔色を変えやがった」
佐野さんは鼻で笑い、「鬼教官の顔は、忘れたくても忘れられないんだろう」と言った。
二人を玄関まで送る途中、光とすれ違った。彼は顔がこわばりながらも、二人に頭を下げた。すれ違った後、寺井さんが光を止めた。光は、寺井さんの声に立ち止まった。
「あんた、見たことある顔だな」
光は少し振り返り、「気のせいです」と言って歩き始めた。だが、また寺井さんが止めた。また光も立ち止まった。
「おい、顔を見せろ」
光は、その声に応じた。
「俺に見覚えはないか?」
寺井さんの問いに光は少し黙り、首を振った。そして、去っていった。
二人は帰っていった。いつものように『また来ます』という言葉を残して。
その日の晩、光は酷くうなされた。僕は彼を起こした。
「光、光」
光は汗だくになりながら目を開き、息を荒くした。
「光、大丈夫?」
「……」
光は体をゆっくり起こし、背中を丸くした。左手で目元を覆い、一回深呼吸をした。
「光?」
「……」
その時、彼は急にベッドから出て、口を押さえた。そして、その場で吐いてしまった。
僕は光が落ち着くまで、彼の背中をさすり続けた。
やがて彼は落ち着きを取り戻し、部屋を出た。僕はそれを片付けた。
光は部屋に戻るなり、ベッドに座った。
「何か飲む?」
「……いい」
そう言って彼は、ベッドの中に入った。その時の彼の肩は、小刻みに震えていた。
彼は、小さな声で僕を呼んだ。
「見てて」
「うん」
僕がベッドの隣で見守る中、光は静かに目を閉じた。
彼らが来ている間、悠也は自分の部屋にこもっていた。悠也が反乱軍の兵士だった事は、僕以外に誰も知らなかった。この施設にいる人たちはみんな、悠也が政権軍側の兵士だと思い込んでいた。悠也自身、自分の事を誰にも話していなかったんだ。でも悠也は、念のため、顔を見られないようにと部屋にこもった。
でも、彼らも馬鹿じゃない。悠也に関する情報を、少しずつ集めていたんだ。
ついに悠也の顔が割れた。戦争が終わって、二ヶ月たった頃だった。
僕の目の前に出された写真は、幼い悠也だった。面影が、まるで一緒だった。
「この写真は、『小鬼』の六歳頃の姿です」
いつもの佐野さんの、淡々とした口調だ。
「この顔に見覚えは?」
僕は、その写真に顔を近づけ、「ない」と言った。
「嘘つくなよ?」
いつもの寺井さんの、疑いをかける言葉に、胸が音を立てた。
「寺井」といつものように、佐野さんがなだめた。
佐野さんは、かけているメガネをくいと上げた。応接室に、広場で遊んでいる子供たちの元気な声が聞こえてきた。
「元気そうな声が聞こえますね」
「ええ」
「ちょっと様子を見ても?」
「え、えぇ」
僕は二人を、広場に案内した。
この日も子供たちは、入り乱れて遊んでいた。鬼ごっこをして遊ぶ子、おしゃべりを楽しんでる子、ボールを器用に蹴っている子。今日もみんな、目を輝かせていた。
背広の二人は、広場の外から見渡した。すると、子供たちが、一人、また一人と、この二人に気づき、今まで楽しそうにしていた顔が、みるみるうちに強張っていった。そして、広場がどんどん静かになっていった。
「あー、元気そうで……」
寺井さんが、顔を引きつらせて言った。
「子供たちは、ここにいるだけで?」
「体調の悪い子は部屋にいます。あとは、カウンセリングや勉強をしている子も……」
「そうですか」
広場を後にした。二人は歩きながら話した。
「あそこにいたのは全員、正規軍のチャイルドソルジャーだな」
寺井さんが、あくび交じりに言った。
「見たことある顔か」
佐野さんは、何も変わらず言った。
「あぁ。それにあいつら、俺を見た途端、顔色を変えやがった」
佐野さんは鼻で笑い、「鬼教官の顔は、忘れたくても忘れられないんだろう」と言った。
二人を玄関まで送る途中、光とすれ違った。彼は顔がこわばりながらも、二人に頭を下げた。すれ違った後、寺井さんが光を止めた。光は、寺井さんの声に立ち止まった。
「あんた、見たことある顔だな」
光は少し振り返り、「気のせいです」と言って歩き始めた。だが、また寺井さんが止めた。また光も立ち止まった。
「おい、顔を見せろ」
光は、その声に応じた。
「俺に見覚えはないか?」
寺井さんの問いに光は少し黙り、首を振った。そして、去っていった。
二人は帰っていった。いつものように『また来ます』という言葉を残して。
その日の晩、光は酷くうなされた。僕は彼を起こした。
「光、光」
光は汗だくになりながら目を開き、息を荒くした。
「光、大丈夫?」
「……」
光は体をゆっくり起こし、背中を丸くした。左手で目元を覆い、一回深呼吸をした。
「光?」
「……」
その時、彼は急にベッドから出て、口を押さえた。そして、その場で吐いてしまった。
僕は光が落ち着くまで、彼の背中をさすり続けた。
やがて彼は落ち着きを取り戻し、部屋を出た。僕はそれを片付けた。
光は部屋に戻るなり、ベッドに座った。
「何か飲む?」
「……いい」
そう言って彼は、ベッドの中に入った。その時の彼の肩は、小刻みに震えていた。
彼は、小さな声で僕を呼んだ。
「見てて」
「うん」
僕がベッドの隣で見守る中、光は静かに目を閉じた。