第47話 昔話1

文字数 1,336文字

 この日は、春だと言うのに朝から季節外れの雪が降っていた。花冷えにもほどがある。
悠也にコートを着せて長靴を履かせた。
コートも長靴も悠也には少し大きめで、少しだらけた格好で歩きにくそうにしていた。
施設を出て森に入った途端、無口だった悠也が口を開いた。

「最近怖い」
「怖い?」
「お前の顔、最近怖い。シュウみたい」
「シュウって?」
「……樹のこと。俺たちはシュウって言ってた」

僕たちは歩きながら話をした。

「なんでシュウなの?」
「知らない。シュウは記憶喪失で昔の記憶がないから、誰かが名前を付けてやったって、聞いた」

意味が分からなかった。樹は本当に記憶が無かったのか?でも、僕たちの家は、両親とおじさんのお墓は、椿は知ってたのに?
それとも、それもスパイの仕事だったの?
この時は、僕の頭の中には疑問しかなかった。

「とにかく、お前の顔が怖い。その顔は嫌いだ」
「ご、ごめん。気をつけるよ」

 ぼちぼちと歩いていると、夏の夜に悠也と話をした場所についた。

「ここでいい?」
「……ん」
「寒くない?」
「……問題ない」

僕は近くの木にもたれた。悠也も僕の隣で、木に背中を預けて座った。
風はなく、雪もやんだ。

「水には飛び込まないでね」
「……ん」

 緊張しているのか、悠也の顔はずっと強張っていた。

「で、何から話してくれるのかな?」
「……わかんない」
「……ん?」
「何から話したらいいんだ?」

僕は黙ってしまった。少し考えて、僕は質問をして話を聞くことにした。

「じゃあ悠也は、樹や団長の事、仲間たちの事を覚えてる?」

悠也は、ゆっくりと瞬きをした。そして、前に僕が渡した写真を出して、見せてくれた。

 「俺がいたところは、『第一旅団』というところだった。二十六人のエキスパートコンバットって言われてた。あと、メスの狼が一匹。

 嶽上って人が団長。凄く優しくて凄く厳しいけど、強いんだ。武器の扱いとかなんでも知ってて、怪我の治療もできる医者で、近距離、遠距離、なんでもできる人だった。
そして、シュウが実力ナンバー二。白髪頭だったから、皆からこっそり『白葱(しろねぎ)』って言われてた。近接戦闘が得意で、身体能力がズバ抜けてすごかった。身軽で、忍者みたいに高く飛んで走ってた。
熊って男が副団長。メンバーの中で一番の巨漢。身長が二mもあるんだ。皆から『テディベア』って言われてた。作戦中はいつもシュウとタッグを組んでた。
こいつは翼。シュウと子供の時から一緒にいるから、なんでも知ってる。俺はこいつから文字とかを教わった。翼は、団長から文字を教わったって言ってたっけ。だから、団長は凄いと思う。
なおは、メンバーの中で唯一の女。狙撃が得意で、数キロ先の目標を撃ち抜く程だった。でもこいつ、少し変わってて、『男は嫌い』って言ってた。自分の事も『俺』って言ってたし、町で休む時とか、いつも女を口説いたり、とにかく変なやつ。だから、皆から『変人』って言われてた。
ルーは、俺が旅団に入る一週間前にシュウが見つけた狼で、怪我をしてたけど、団長が怪我を治したんだって。でも、怪我のせいで赤ちゃんを産めない体になったんだ。こいつ可愛いんだ。たまに犬になるんだ。ルーは旅団の中で唯一のアイドルだ」

 彼は目を輝かせて話をした。今までに見せたことのない顔だった。
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