第66話 昔話20

文字数 1,117文字

 「少ししてシュウが『俺を倒してみろ』って言い出した。意味が分かんなかった。こんな凍えそうな時に何言ってるんだって言ったら、『つべこべ言わずに本気で来い』って立たされた。あいつの目は本気だった。だって、ハンドガンを俺に向けて引き金を引いたんだ。俺の足に当たった。それでも『俺と戦え』って言ってきたから、俺はナイフを持ってシュウにかかった。
 でも勝つわけない。何度も、倒されて、骨が軋むくらいに殴りにいって一発当たったくらい。さ、最後の方はナイフを取られて脇腹を刺されて……、もう動けなくなった。

 そ、そしたらシュウ、持ってる弾からガンパウダーを取り出して……、俺の目の上とか腕をき、切ってそこに擦りこんだ。『お前は十分戦った。これからは仲間の分も生きろ』って、『ここには俺の兄貴がいるから安全だ』って、『俺の本当の名前は、御門樹(みかどたつき)だ。今まで黙ってて悪かった。今まで、お前を巻き込んでごめん』って……、服を脱がされて、シュウが今まで大切にしてた……べ、ベレッタを俺のズボンに……入れて、それで……翼を担いで……ルーを……連れて……、俺……お、俺……」

 悠也は泣いた。僕は「ありがとう、全部話してくれて」と言った。これ以上は聞いちゃいけないと思ったからだ。
 この子は、今まで自分がやってきた苦しいことや、心に抱え続けた辛い過去を頑張って打ち明けてくれた。

「悠也、君はもう武器を捨てて生きていいんだよ。もう戦争は終わったんだから」

僕も泣きそうになっていた。

 その時、また血の匂いが漂ってきた。

「なんだろう、嫌な予感がする」

僕が「もう戻ろう」と言うと、彼は小さく頷いて立ち上がった。


 ゆっくりと歩いて帰ると、血の匂いの正体が分かった。見覚えのあるとても大きな犬が、ウサギを引きちぎって食べていた。
悠也はその犬の姿を見ると、泣き顔から変わって、明るい表情で「ルー!」と言った。その犬は血の滴るウサギの足を口に咥えたままこっちを見た。そして、僕は突っ込んできたルーにタックルされて後ろに倒れてしまった。僕の上をルーが四本の足で踏みながら通り、悠也のところでおすわりをした。

「ルー!ルー!」

こんなに笑う悠也を見たのは始めてだった。
ルーは咥えていたウサギの足を悠也の足元に落とし、再会を懐かしむかのように悠也に抱きついた。悠也もルーを抱きしめた。

 すると、悠也の後ろから黒ずくめの白髪頭の男が、僕の知ってる男が立っているのが見えた。

「悠、でかくなったな」

その声に反応した悠也は、ますます笑顔になった。「シュウ!」と言うとルーから離れて樹のそばに立った。樹は悠也の頭を撫でると悠也の顔がますますほころんだ。でも、樹の顔色は血の気がなく真っ白になっていた。
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