第77話 逃亡2
文字数 1,865文字
「早く!あれに乗って!」
ジープを指差した女性は、西日に照らされながら鋭い目つきでこっちを見てきた。よく見ると、深緑色の軍服を着て、腰に銃を装備していた。
「待って!君は誰なんだ」
「そうよ!人ん家に勝手に入りこんで、ソファでくつろぐなんて、非常識にも程があるわよ!」
「こんな時に常識も非常識もないわよ!」
それもそうだと、僕は妙に納得したが、答えになっていなかったので「名前は?」と聞きなおした。彼女は「部下部下!」と言った。
僕たちは彼女に従うのをやめた。より一層急かしてくる彼女だったが、僕は「信用できない」と言った。
すると彼女はすぐさま腰に納めていた銃を引き抜き、僕達に銃口を向けてきた。
「早くしなさい!」
彼女の目は鋭く光った。僕達は渋々と彼女の指示に従い、僕は助手席に、椿は後ろの座席に乗った。
彼女の運転は荒々しかった。エンジンを余計にふかし、タイヤは高い音をあげていた。
少しの間、車内に会話の声は無かった。すると彼女が、何やら青い手帳を僕の目の前に出した。そこには、彼女の顔写真と、『特殊公安二部部下一花 』と書いてあった。
「な、名前が部下」
「そうよ」
「てっきり、騙されてるのかと」
「そうだろうと思ったから強引に車に乗せたわ。ごめんなさいね」
彼女の「ごめんなさいね」に、心はなさそうだった。椿に目をやると、彼女は不安そうな顔をしていた。
「あ!沖田!」
車は、跳ね上がりながら止まった。昼間の花屋の前に、光がこっちに向かって歩いていた。この車に気づいた光は、小走りで来た。
「沖田、乗れ」
早口で喋る彼女に対して、彼は素直に椿の横に乗った。
「予定より早い出発だな。どうした?」
光の問いに答えず、部下は車を急発進させた。
「大佐はどうした?」
「大佐はやられた。裏切り者がいた」
「誰?」
「弓削 」
「それ誰?」
「知らねぇのかよ」
話す度に部下の口が悪くなっていった。
「あの、今からどこへ行くんですか?」
「港」
地元の町を抜けて、直線の道に入ったところで、車のスピードが更に上がり始めた。
光は椿を立ち上がらせ、座席のシートを外した。そこから光が取り出したのは、アサルトライフルだった。そして、それを僕に渡した。
「AK?」
「正解。使い方は覚えてるな?」
「う、うん」
AKは一丁だけじゃなく光と部下も所持した。
僕の体の中にある脈が速くなっていった。いつの間にか、僕たちの車の後ろに二台の黒い車が着いてきていた。
椿は光の指示に従い、座席の間に挟まるようにしてうずくまった。
「後ろは俺がやる。二人は横の相手をやれ」
「あぁ」
「巽、殺さなくていい。車のタイヤを潰せ」
「やるのは私たちの仕事だ」
僕は返事が出来なかった。手が震え始め、それはどんどん酷くなった。部下が僕の右頬を強くつねってきた。
「緊張してんな」
「緊張ってのは一種のパニック状態だ。そんなときに落ち着く方法は……」
「……イタタタ」
「痛みを感じることだ」
「そうだそうだ」
二人は笑った。椿がひょっこり顔を出していた。彼女の顔は、強張ったままだった。
そうこうしていると、黒塗りの車はジープにじわじわと近づいてきて、助手席側から人が銃口と一緒に顔を出してきた。一発の発砲があり、その弾は外れた。光が窓から顔と手を出して、三発発砲。その一発が車のフロントガラスに当たり、相手の視界を遮った。それでも相手は発砲を続けて撃ってきた。光はその隙を見て応戦。部下も窓から腕を出して発砲。すぐにジープの窓ガラスは粉々に砕かれた。
港に行くはずのジープが、逆に山の方へと走って行った。気づいた僕がそれをいうと、部下は「作戦だ」と言った。
黒い車は三台に増え、その後ろから装甲車の様な、大きな車が近づいてきた。
「御門さん、運転代わって!」
僕はハンドルを握り、席を交代した。アクセルを思い切り踏み倒し、道を走らせた。
次第に銃声は絶え間なく聞こえるようになり、時折、ジープの車体に弾丸が当たるのが分かった。僕は車を道なりに走らせた。
山道に入る手前まで来て、それは起きた。ジープの天井から凄い音がした。上を気にした後に前を向くと、運転席の窓の外から僕のこめかみに銃口が向けられた。
「止まれ!」
僕はその声に聞き覚えがあり、すぐにブレーキを踏んだ。その弾みで、応戦していた二人はひっくり返った。
すぐに手を上げた。彼は車の上から飛び降り、すぐに助手席側へと移動した。それを見た光が驚いた。
「あれ、佐野……た、大佐?」
「これは何という『遊び』だ、部下」
銃口を向けられた部下は舌打ちをした。その顔は、苦虫を噛み潰した顔をしていた。
ジープを指差した女性は、西日に照らされながら鋭い目つきでこっちを見てきた。よく見ると、深緑色の軍服を着て、腰に銃を装備していた。
「待って!君は誰なんだ」
「そうよ!人ん家に勝手に入りこんで、ソファでくつろぐなんて、非常識にも程があるわよ!」
「こんな時に常識も非常識もないわよ!」
それもそうだと、僕は妙に納得したが、答えになっていなかったので「名前は?」と聞きなおした。彼女は「部下部下!」と言った。
僕たちは彼女に従うのをやめた。より一層急かしてくる彼女だったが、僕は「信用できない」と言った。
すると彼女はすぐさま腰に納めていた銃を引き抜き、僕達に銃口を向けてきた。
「早くしなさい!」
彼女の目は鋭く光った。僕達は渋々と彼女の指示に従い、僕は助手席に、椿は後ろの座席に乗った。
彼女の運転は荒々しかった。エンジンを余計にふかし、タイヤは高い音をあげていた。
少しの間、車内に会話の声は無かった。すると彼女が、何やら青い手帳を僕の目の前に出した。そこには、彼女の顔写真と、『特殊公安二部
「な、名前が部下」
「そうよ」
「てっきり、騙されてるのかと」
「そうだろうと思ったから強引に車に乗せたわ。ごめんなさいね」
彼女の「ごめんなさいね」に、心はなさそうだった。椿に目をやると、彼女は不安そうな顔をしていた。
「あ!沖田!」
車は、跳ね上がりながら止まった。昼間の花屋の前に、光がこっちに向かって歩いていた。この車に気づいた光は、小走りで来た。
「沖田、乗れ」
早口で喋る彼女に対して、彼は素直に椿の横に乗った。
「予定より早い出発だな。どうした?」
光の問いに答えず、部下は車を急発進させた。
「大佐はどうした?」
「大佐はやられた。裏切り者がいた」
「誰?」
「
「それ誰?」
「知らねぇのかよ」
話す度に部下の口が悪くなっていった。
「あの、今からどこへ行くんですか?」
「港」
地元の町を抜けて、直線の道に入ったところで、車のスピードが更に上がり始めた。
光は椿を立ち上がらせ、座席のシートを外した。そこから光が取り出したのは、アサルトライフルだった。そして、それを僕に渡した。
「AK?」
「正解。使い方は覚えてるな?」
「う、うん」
AKは一丁だけじゃなく光と部下も所持した。
僕の体の中にある脈が速くなっていった。いつの間にか、僕たちの車の後ろに二台の黒い車が着いてきていた。
椿は光の指示に従い、座席の間に挟まるようにしてうずくまった。
「後ろは俺がやる。二人は横の相手をやれ」
「あぁ」
「巽、殺さなくていい。車のタイヤを潰せ」
「やるのは私たちの仕事だ」
僕は返事が出来なかった。手が震え始め、それはどんどん酷くなった。部下が僕の右頬を強くつねってきた。
「緊張してんな」
「緊張ってのは一種のパニック状態だ。そんなときに落ち着く方法は……」
「……イタタタ」
「痛みを感じることだ」
「そうだそうだ」
二人は笑った。椿がひょっこり顔を出していた。彼女の顔は、強張ったままだった。
そうこうしていると、黒塗りの車はジープにじわじわと近づいてきて、助手席側から人が銃口と一緒に顔を出してきた。一発の発砲があり、その弾は外れた。光が窓から顔と手を出して、三発発砲。その一発が車のフロントガラスに当たり、相手の視界を遮った。それでも相手は発砲を続けて撃ってきた。光はその隙を見て応戦。部下も窓から腕を出して発砲。すぐにジープの窓ガラスは粉々に砕かれた。
港に行くはずのジープが、逆に山の方へと走って行った。気づいた僕がそれをいうと、部下は「作戦だ」と言った。
黒い車は三台に増え、その後ろから装甲車の様な、大きな車が近づいてきた。
「御門さん、運転代わって!」
僕はハンドルを握り、席を交代した。アクセルを思い切り踏み倒し、道を走らせた。
次第に銃声は絶え間なく聞こえるようになり、時折、ジープの車体に弾丸が当たるのが分かった。僕は車を道なりに走らせた。
山道に入る手前まで来て、それは起きた。ジープの天井から凄い音がした。上を気にした後に前を向くと、運転席の窓の外から僕のこめかみに銃口が向けられた。
「止まれ!」
僕はその声に聞き覚えがあり、すぐにブレーキを踏んだ。その弾みで、応戦していた二人はひっくり返った。
すぐに手を上げた。彼は車の上から飛び降り、すぐに助手席側へと移動した。それを見た光が驚いた。
「あれ、佐野……た、大佐?」
「これは何という『遊び』だ、部下」
銃口を向けられた部下は舌打ちをした。その顔は、苦虫を噛み潰した顔をしていた。