第21話 夜の出来事1
文字数 1,332文字
僕が寝込んでいた間、子ども達のお世話は他の看護師にお願いした。
亮は、いつものようにお勉強と体を動かすのを楽しんでいた。俊輔は、僕と同じように風邪をこじらせたらしく、二日間だけ寝込んでいたらしい。哲は、亮と同じように勉強と遊びと、精一杯楽しんでいた。悠也は、カウンセリングを受けるようになった。でも、カウンセラーと対峙して椅子に座って他愛もない話をするだけで、自分の話になると、だんまりを決め込むそうだ。
それでも僕は、安心して休んだ。
隼人が亡くなって三ヶ月、悠也がここに来て半年が過ぎた。悠也は、僕が寝込んだあの日から、徐々に自分を取り戻していったようだ。でも、戦争での心の傷は簡単に癒えるものではなく、ふとした時に、虚ろな目でボンヤリしていたり、何もないのに突然怖い顔をして辺りを警戒したり、夜中には悪夢を見る為、夜が怖いといったことは、頻繁にあった。
あと、悠也が極度に怖がるものがあった。雷だ。
悠也は、雷の大きな音と稲妻の光を見ると、パニックになった。呼吸を荒くして、目を大きく見開き、全身をガタガタと震わせていた。その場から逃げようと施設中を走り回り、最後には息を切らしながら倒れるといったことがよくあった。
それでも彼は、頑張ってカウンセリングを受け、年相応の勉強をし、少しずつ大人に近づいていった。
そんなある日、ある出来事があった。その日の夜、僕は自分の部屋のベッドで寝ていた。夜中に同じ看護師の宇佐美さんが、ドアを思いっきり開けて、僕のところにドカドカとやってきた。
「巽ちゃん、起きて!」
「……んあぃ?」
僕は彼女に胸ぐらを掴まれ、頬に平手打ちをくらった。目の前が、チカチカと光った。
「起きなさい!」
「な、何?」
「ちょっと、こっち来て‼︎」
ベッドから引きずり出されて、頭を強く打って、僕はすっかり目を覚ました。そして、彼女の後ろからついていった。
「どうしたの?僕、何かしたっけ?」
「いいから黙ってついてきて」
完全に怒ってる宇佐美さん。怖かった。
着いたのは、真紀ちゃんの部屋。中に入って僕の目に飛び込んできたのは、ベッドに入った真紀ちゃんの寝顔だった。
「かわいい寝顔」
「……よく見てちょうだい」
宇佐美さんはそう言うと、ベッドのタオルケットをゆっくりと外した。僕は固まった。真紀ちゃんは誰かを抱きしめていたんだ。その栗色の髪、悠也だった。
二人は向き合い、真紀ちゃんは悠也の頭を抱きしめて、悠也は真紀ちゃんの胸に顔をうずめていた。
「あ……」
「この子、なんでこんなところにいるのかしら?」
「でも、二人ともかわいい寝顔だね」
「巽ちゃん、問題はそこじゃないでしょ?」
「はい、すみません」
僕は悠也の肩を叩き、揺さぶって起こした。
「悠也、悠也」
「……ん」
「部屋に戻るよ」
悠也は目を半分開けて、ノソノソと起き上がり、ベッドの端に座った。真紀ちゃんも、悠也が動いたことで起きてしまった。
「……ん……あ」
真紀ちゃんは慌てて体を起こした。
「おはよう、真紀ちゃん」
「あ、あの……」
「あ、ごめんね。悠也がお邪魔しちゃって」
僕は彼女に笑ってみせた。彼女はそれ以上何も言わなかった。
「悠也、行くよ」
「……ん」
目をこすりながら歩く悠也の後ろから僕も歩き、真紀ちゃんの部屋を出た。
亮は、いつものようにお勉強と体を動かすのを楽しんでいた。俊輔は、僕と同じように風邪をこじらせたらしく、二日間だけ寝込んでいたらしい。哲は、亮と同じように勉強と遊びと、精一杯楽しんでいた。悠也は、カウンセリングを受けるようになった。でも、カウンセラーと対峙して椅子に座って他愛もない話をするだけで、自分の話になると、だんまりを決め込むそうだ。
それでも僕は、安心して休んだ。
隼人が亡くなって三ヶ月、悠也がここに来て半年が過ぎた。悠也は、僕が寝込んだあの日から、徐々に自分を取り戻していったようだ。でも、戦争での心の傷は簡単に癒えるものではなく、ふとした時に、虚ろな目でボンヤリしていたり、何もないのに突然怖い顔をして辺りを警戒したり、夜中には悪夢を見る為、夜が怖いといったことは、頻繁にあった。
あと、悠也が極度に怖がるものがあった。雷だ。
悠也は、雷の大きな音と稲妻の光を見ると、パニックになった。呼吸を荒くして、目を大きく見開き、全身をガタガタと震わせていた。その場から逃げようと施設中を走り回り、最後には息を切らしながら倒れるといったことがよくあった。
それでも彼は、頑張ってカウンセリングを受け、年相応の勉強をし、少しずつ大人に近づいていった。
そんなある日、ある出来事があった。その日の夜、僕は自分の部屋のベッドで寝ていた。夜中に同じ看護師の宇佐美さんが、ドアを思いっきり開けて、僕のところにドカドカとやってきた。
「巽ちゃん、起きて!」
「……んあぃ?」
僕は彼女に胸ぐらを掴まれ、頬に平手打ちをくらった。目の前が、チカチカと光った。
「起きなさい!」
「な、何?」
「ちょっと、こっち来て‼︎」
ベッドから引きずり出されて、頭を強く打って、僕はすっかり目を覚ました。そして、彼女の後ろからついていった。
「どうしたの?僕、何かしたっけ?」
「いいから黙ってついてきて」
完全に怒ってる宇佐美さん。怖かった。
着いたのは、真紀ちゃんの部屋。中に入って僕の目に飛び込んできたのは、ベッドに入った真紀ちゃんの寝顔だった。
「かわいい寝顔」
「……よく見てちょうだい」
宇佐美さんはそう言うと、ベッドのタオルケットをゆっくりと外した。僕は固まった。真紀ちゃんは誰かを抱きしめていたんだ。その栗色の髪、悠也だった。
二人は向き合い、真紀ちゃんは悠也の頭を抱きしめて、悠也は真紀ちゃんの胸に顔をうずめていた。
「あ……」
「この子、なんでこんなところにいるのかしら?」
「でも、二人ともかわいい寝顔だね」
「巽ちゃん、問題はそこじゃないでしょ?」
「はい、すみません」
僕は悠也の肩を叩き、揺さぶって起こした。
「悠也、悠也」
「……ん」
「部屋に戻るよ」
悠也は目を半分開けて、ノソノソと起き上がり、ベッドの端に座った。真紀ちゃんも、悠也が動いたことで起きてしまった。
「……ん……あ」
真紀ちゃんは慌てて体を起こした。
「おはよう、真紀ちゃん」
「あ、あの……」
「あ、ごめんね。悠也がお邪魔しちゃって」
僕は彼女に笑ってみせた。彼女はそれ以上何も言わなかった。
「悠也、行くよ」
「……ん」
目をこすりながら歩く悠也の後ろから僕も歩き、真紀ちゃんの部屋を出た。