第22話 夜の出来事2

文字数 1,326文字

 悠也の部屋に戻る途中、僕は思いついた。

「ちょっと、外で話そうか」
「……何で?」
「ん?ほら、今日は月が綺麗だから」

悠也が首を軽く縦に振ったので、一度自分の部屋に戻り、銃を取って外へ出た。

「いいのか?夜中に出て」
「大丈夫。夜明け前に戻ればわからないよ」

僕はケラケラと笑い、胸ポケットからタバコを取り出し、口にくわえて火をつけた。煙が肺に入り、頭がスッキリしていくのがわかった。

「……フゥ……」

タバコを手に持つと、悠也がそれを奪って自分の口に入れた。

「あ……」

仕方なく、胸ポケットからタバコの箱を取り出すが、その中にタバコは入ってなかった。

「……」

箱を握りつぶし、歩き続けた。良い子のみんなは、タバコは二十歳を過ぎてから楽しみましょうね。

「ねぇ悠也、何で真紀ちゃんの部屋にいたの?」

悠也は僕の質問に答えず、黙々と歩いた。

 小川が見えた。僕は悠也に声をかけ、川を沿って下流の方に少し下りた。小川を下りると、川幅が広くなり、少し開けた場所に着いた。その場所は僕のお気に入りの場所で、何かあった時は、よくここに来ていた。

 雲ひとつない夜空に満月が輝いて、周りの星々は、申し訳なさそうに光っていた。夏の夜らしく、虫が鳴き、そよ風がさやさやと流れた。川の流れる水の音が、僕の心を静めてくれた。

 悠也は、吸い終わったタバコを僕に返してきた。僕はそれを受け取って、灰ケースに投げ入れ、川のそばに座った。悠也は僕と少し距離をおいて座った。そして悠也は、さっきの僕の問いに答えてくれた。

「……俺、眠れなくて、部屋の周りをウロウロしてた。そしたら、真紀の部屋から声が聞こえたんだ。中に入ったら、真紀が泣いてた」
「……」
「怖い夢を見てしまったって、泣いてた。だから俺、そばに居てやった」
「……何もやってない?」
「……うん」
「本当に?」

悠也は少し黙って、言いづらそうに口をモゴモゴとさせた。

「……だ、抱きしめた。泣きやんで欲しかったから」
「それだけ?本当のことを教えて?」
「キ、キスした。……おでこに」
「それ以上は?」
「……それ以上?」
「だから、それ以上のことはした?」
「……それ以上があるのか?」
「……え?」
「……それ以上に何があるんだ?」
「ほ、ほら、君も年頃だし、男の子がそういう事に興味を持つのは当たり前の事だし……」
「何の話だ?」
「あ、あの、その……か、体を……重ねたり、とか……してないの?」
「何それ?」
「君、もしかして、童貞?」
「ドーテーって、何?」
「……」

彼は、純粋な子だった。

「キスは知ってるのに?」
「キスは……昔、母さんがよくやってくれたから」
「じ、じゃあ、何でベッドで、二人で寝てたの?」
「お前が俺にしてたのと同じだ。お前もあの時、俺のベッドで寝てたろ」
「……」
「あいつの頭をヨシヨシしてたら、あいつ、眠って、俺も眠くなって、いつの間にか寝てた」

 悠也はスクッと立ち上がり、白いワンピースパジャマのままの姿で川に飛び込んだ。水しぶきが、僕の服を濡らした。

「うわっ」

この川のこの場所は深い。大人の僕の身長でさえも、足が着かないほどだ。

「悠也、危ないよ」
「大丈夫」

悠也は気持ち良さそうに泳いだ。水面にフワフワと浮いたり、水中に潜ったり、自由自在に体を動かしていた。
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