第48話 昔話2
文字数 1,357文字
悠也はぶかぶかの長靴を脱ぎ捨て、素足を外に放り出し、指をグーパーと動かした。
「みんな、優しかった?」
「うん。強くて優しくて、面白かった」
「そっか」
「でも、怖い時は怖い。最初は俺、みんなが怖かった」
「君は、六歳の時に樹に拾われたって言ったね。覚えてる?」
悠也の表情が変わった。
「俺、友達のユージと外で遊んでたんだ。そしたら、突然近くのお寺が爆発して、俺達は吹っ飛ばされて……。しばらく眠ってたと思う。遊んでたのはお昼ご飯の前で、目が覚めたのが夕方くらい」
「怪我はなかった?」
「俺は別に無かったけど、ユージは死んでた。腹に長くて大きな木が刺さってたんだ。ユージ、冷たくなってた。
でも、助けることができなくて、俺、怖くなって逃げた。母さんのところに……。でも、家がどこか分からなくて、いろんなところで人が死んでて、地面が血だらけだったんだ。そして兵士がやって来て、みんなを殺していったーー。
みんな逃げた。でも、死んでいった」
「その時、どんな気持ちだった?」
「……とにかく怖かった。でも、母さんを探さなきゃって思った。そしたら、母さんがいたんだ。兵士に頭を銃で突きつけられてた。俺が呼んだら、母さん、『来ちゃダメ』って言った。そのあと母さんは殴られたり蹴られたりして、そして、銃で頭を撃ち抜かれた」
悠也は、どこか遠くを見つめて淡々とした口調で語った。
「俺、母さんのところに行ったんだ。でも、もう死んでて……。顔変わってた。そしたらあいつら、俺に銃口を向けてきたんだ。だから俺、走って逃げた。走って、とにかく走った。そしたら、俺ん家の隣の家の、ナツメとナツメのおじちゃんがかくまってくれたんだ。
ナツメって言うやつは俺より二つ年下で、妹みたいなやつ。いつも一緒に遊んでたんだ。ままごとばっかりだけど、俺はいつも父さん役で、ナツメは母さん役で、石ころが赤ちゃん役で、俺、父さんいないから、どうやってままごとしたらいいか分からなかった。
だからいつもナツメに、父さんはこんな人だって、教えてもらった。
で、その日はもう夜になってて外は危ないから、次の日の朝に母さんの体をお墓に入れてあげるって、おじさんに言われた。
桜が散ってたと思う。それが綺麗だなって思ったから……」
悠也は少し目を閉じて、軽く深呼吸をした。そして、目を開けて、また遠くを見つめて話を続けた。
「おじさん、正規軍の兵士に金をもらって、俺を連れて行こうとしたんだ。
朝から母さんを見つけに外に出たんだけど、おじさんについて行ったら、兵士が三人いて、『目当ての子ども』って言われて、兵士たちに連れて行かれそうになったんだ。
そしたら、いきなり銃声が聞こえて、俺の首根っこを掴んでた兵士が倒れたんだ。胸から血を出してた。そして、兵士が『鬼だ』って叫んだんだ。
その時、俺の目の前に、全身真っ黒いけど頭だけ白い人が上から降りてきて、ナイフとハンドガンで兵士を殺した。すごく早くて、近くにいた兵士とか、後で駆けつけた兵士とか、すぐに倒れていった。
俺、それ見てからあまり記憶がない。気がついたら、真っ黒い奴に抱っこされてたんだ。そいつがシュウだったんだ」
悠也は、伸ばしていた足を折り曲げ、膝を抱えた。
「寒い?」
「……大丈夫。寒くない」
また雪が、チラチラと降りだした。
「みんな、優しかった?」
「うん。強くて優しくて、面白かった」
「そっか」
「でも、怖い時は怖い。最初は俺、みんなが怖かった」
「君は、六歳の時に樹に拾われたって言ったね。覚えてる?」
悠也の表情が変わった。
「俺、友達のユージと外で遊んでたんだ。そしたら、突然近くのお寺が爆発して、俺達は吹っ飛ばされて……。しばらく眠ってたと思う。遊んでたのはお昼ご飯の前で、目が覚めたのが夕方くらい」
「怪我はなかった?」
「俺は別に無かったけど、ユージは死んでた。腹に長くて大きな木が刺さってたんだ。ユージ、冷たくなってた。
でも、助けることができなくて、俺、怖くなって逃げた。母さんのところに……。でも、家がどこか分からなくて、いろんなところで人が死んでて、地面が血だらけだったんだ。そして兵士がやって来て、みんなを殺していったーー。
みんな逃げた。でも、死んでいった」
「その時、どんな気持ちだった?」
「……とにかく怖かった。でも、母さんを探さなきゃって思った。そしたら、母さんがいたんだ。兵士に頭を銃で突きつけられてた。俺が呼んだら、母さん、『来ちゃダメ』って言った。そのあと母さんは殴られたり蹴られたりして、そして、銃で頭を撃ち抜かれた」
悠也は、どこか遠くを見つめて淡々とした口調で語った。
「俺、母さんのところに行ったんだ。でも、もう死んでて……。顔変わってた。そしたらあいつら、俺に銃口を向けてきたんだ。だから俺、走って逃げた。走って、とにかく走った。そしたら、俺ん家の隣の家の、ナツメとナツメのおじちゃんがかくまってくれたんだ。
ナツメって言うやつは俺より二つ年下で、妹みたいなやつ。いつも一緒に遊んでたんだ。ままごとばっかりだけど、俺はいつも父さん役で、ナツメは母さん役で、石ころが赤ちゃん役で、俺、父さんいないから、どうやってままごとしたらいいか分からなかった。
だからいつもナツメに、父さんはこんな人だって、教えてもらった。
で、その日はもう夜になってて外は危ないから、次の日の朝に母さんの体をお墓に入れてあげるって、おじさんに言われた。
桜が散ってたと思う。それが綺麗だなって思ったから……」
悠也は少し目を閉じて、軽く深呼吸をした。そして、目を開けて、また遠くを見つめて話を続けた。
「おじさん、正規軍の兵士に金をもらって、俺を連れて行こうとしたんだ。
朝から母さんを見つけに外に出たんだけど、おじさんについて行ったら、兵士が三人いて、『目当ての子ども』って言われて、兵士たちに連れて行かれそうになったんだ。
そしたら、いきなり銃声が聞こえて、俺の首根っこを掴んでた兵士が倒れたんだ。胸から血を出してた。そして、兵士が『鬼だ』って叫んだんだ。
その時、俺の目の前に、全身真っ黒いけど頭だけ白い人が上から降りてきて、ナイフとハンドガンで兵士を殺した。すごく早くて、近くにいた兵士とか、後で駆けつけた兵士とか、すぐに倒れていった。
俺、それ見てからあまり記憶がない。気がついたら、真っ黒い奴に抱っこされてたんだ。そいつがシュウだったんだ」
悠也は、伸ばしていた足を折り曲げ、膝を抱えた。
「寒い?」
「……大丈夫。寒くない」
また雪が、チラチラと降りだした。