第73話 告白1

文字数 1,818文字

 僕は生きていた。
佐野さんが放った弾丸は僕の胸を撃ったけど、首にかけていたペンダントがクッションとなって僕を守ってくれた。でも無傷だったわけではなく、僕はしばらく意識をなくしていた。

 気がついたとき、僕はどこかの病院のベッドにいた。点滴の管が僕の腕に繋がっていた。左腕は固まって動かせなかった。腕どころか、首以外は動かすことが出来なかった。
 隣のベッドにいた光が教えてくれた。あの後、光は僕を手当てしてくれた。折れた腕は木の枝と自分が着ていた服で固定。体中にのめり込んだ弾丸は取り出せなかったので、止血だけ。その間にも建物は燃えていき、中に入ることはできなかったそうだ。
悠也はどうなったのか分からない。
 なにもかも消えた。子ども達も、僕らの友達も思い出も、樹も、火の中に消えていった。
 それからしばらくして、別の車がやって来た。あの女優がやって来たそうだ。転がっていたたくさんの死体を見て、その人は泣き崩れたそうだ。

光は泣きながら教えてくれた。

「アンドレがあんたの話を聞きたいらしい。何があったのかってさ」
「……君に任せるよ」
「……言いたくねぇよ」

その日はこれ以上話をすることはなかった。

 数日後、僕は病院から椿の家に連絡してもらった。するとその二日後に椿とおじさんが来てくれた。
そして僕と光は、椿の病院に移された。
朝早くから病院を出て、椿の病院に着いたのは夜中だった。

 それから二カ月後、何とか歩けるようになった頃、僕は光と一緒に家に帰った。玄関に手をかけると、すぐに開いた。椿がいるのだろうと思っていた僕は、玄関を開けて驚いた。
 とんでもない数の大きな袋が、廊下を埋め尽くしていたからだ。その袋を開けると、紙幣でいっぱいだった。

「なんだこれ?お前のヘソクリ?」
「違う。こんなの知らないよ」

廊下を渡って部屋に入ると、ソファに一人の男が座っていた。
僕は固まった。彼は僕たちに気づいて、嬉しそうな顔をしながら挨拶をしてきた。

「生きてましたね。よかった」
「佐野さん……」
「怖い顔をしないでください。私はあなたの味方です。ねぇ?光」

僕は光の顔を見た。光は、目を伏せて「ごめん」と言った。

「どういうこと?」
「俺……、樹からあんたを護るように言われて、ここに来たんだ」

 少年兵でありながら大人顔負けの身体能力を持った光だけど、樹に捕虜として捕まった時、その能力の高さが認められて、殺されたふりをして逃がしてもらった。その代わり、僕が死なないように護るのが条件だったそうだ。

「俺は、巽にも樹にも助けられた」

僕は落ち着きを取り戻せなかった。むしろ頭がパニックになっていた。
そんなとき、佐野さんが「落ち着いて聞いてください」と言った。その声は冷静で、さっきの嬉しそうな顔から一変した。

 「私も大人たちに連れ去られ、戦うことを強制させられました。
樹と私は、訓練施設で知り合い仲良くなりました。私たちは毎日必死に訓練を受けました。
 死にたくなかった。頭にチップを埋め込まれていて、命令に逆らったり言われたことが出来なかった人は容赦なく起爆スイッチで殺されました。
 樹は九歳でスパイとして反乱軍に入りました。眼球に当時最新だったフィルム型のカメラを埋め込み、耳には超小型のボイスレコーダーを軟骨に埋め込んでね。私はそのまま残り、樹から発せられた情報を集めました。
 しかし、私たちがどれだけ情報を集めて報告しても、上層部は動きませんでした。それが十年続きました。
 なぜこんなにも長く戦争をしなければいけないのか、私たちは疑問に思い、それを探りました。その理由は、樹が言ったとおりです。

 ばかばかしい事です。私利私欲のままに振り回されて、俺たちには何の関係もない戦争をやらされて……。この国は『オモチャ』に、いや、この島は『実験台』にされた。人工知能、生物兵器、サイボーグ技術、放射線の被爆、環境汚染。
 全ては『金』の為です。もはやこの国は、『金持ちの道具』に、政治家なんて『ただの金持ちの犬』になりました。まったく、腐ってる……」

その場が急に静かになった。僕は自分の足元を見た。佐野さんの声が聞こえた。

「この金は樹の遺言です。彼はいつもあなたのことを思っていました。風邪ひいてないか?とか、ちゃんと飯を食ってるか?とね」

 僕が少し佐野さんに目を向けた時、佐野さんは外の緑がかった庭を見つめた。その目は、涙ぐんでいたのを覚えてる。そして彼は「腐ってる」と言った。
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