第34話 再会3

文字数 1,083文字

 ここが田舎でよかった。ノーヘルで何も言われず、ルーが追いかけてきても、誰にも驚かれなかった。

「懐かしい匂いがする」

玄関に入った途端、樹は大きく息を吸った。横にいるルーは樹を少し見上げ、目を細めながらその場に座った。

「おかえり!あがってあがって」
「あぁ、ちょっと風呂入っていい?」
「もちろん!ちょっと準備するね」

僕はお風呂場に行き、湯船にお湯を入れ始めた。お湯が溜まるその間、キッチンに行って飲み物の準備をした。

「ココアとコーヒーはどっちがいい?」と言ったら、玄関の方から「コーヒー」と、樹の声が聞こえた。
やかんのお湯が沸いたので、インスタントコーヒーの粉、マグカップを二つと、やかんを持ってダイニングに移動した。

 この家は、それほど大きくない。広くない殺風景な玄関から廊下が伸びて、玄関から入ってすぐ左に入るとトイレとお風呂があって、そこから廊下を挟んで右に入ると、クローゼットなどがある収納部屋になっている。
 廊下を奥に進むと、殺風景なキッチンとリビング・ダイニングがある。ダイニングには、イスとテーブルが置いてあるだけ。リビングには、ベッドにもなるソファが二つあるだけ。壁にはシンプルな掛け時計が掛けてあるだけ。

そうそう、昨日から珍しく、ダイニングのテーブルの上に花瓶に綺麗な花が飾ってあった。バラとかかすみ草とか、名前は知らないけど、黄色やピンクや青や、とにかく色とりどりな花だった。
リビングの窓を開けたら、小さな庭が広がっている。枯れかけの芝生が敷いてあるだけ。二階とかはなく、本当に小さな小さな家だ。

 樹がダイニングに入ってきた。

「掛けて掛けて!」
「この花は、巽の趣味?」
「いや、椿だよ!」
「椿?」
「幼馴染でよく遊んだ女の子!覚えてる?」
「……あぁ、あの『暴力女』か」

樹は、口元を少し歪ませながらイスに腰掛けた。僕はマグカップにコーヒーを作り、樹の目の前に出した。

コーヒーの芳ばしい香りが、花の香りに負けじと強調してきた。

樹はマグカップに指をかけて、コーヒーに息を吹きかけながら口元に近づけ、ゆっくりと飲んだ。
「アチッ!」とすぐに口に入れたコーヒーをマグカップの中に戻し、またコーヒーに息を吹きかけながらマグカップを口元に近づけた。

 僕はとても嬉しかった。樹とこうして一緒に過ごすのが、昔からの夢だった。今、その夢が叶ってる。まるで夢みたいだった。

 そんなことを思っていたら、僕の顔は自然と緩んでいたみたいで、樹から「キモチワルイ」と言われた。

どこかで聞いたことがある言葉に、ますます顔が緩んでいくのが自分でも分かって、僕も、樹と一緒にコーヒーを飲んだ。
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