第35話 再会4

文字数 1,046文字

 少しの間、静かになった。コーヒーを飲み終えて、僕の頭に疑問が浮かんだ。

「さっきの人……どうなったの?」

樹は、庭に向けていた視線を僕に移し、持っていたマグカップをテーブルに置いた。そして、何も言わずまた視線を、何もない庭に向けた。

「そ、そっか」

 僕はポケットからタバコを取り出し、その一本を口に咥えて火をつけた。煙を肺にたっぷりと吸い込んで、勢いよく紫煙を吐き出した。そして、テーブルの端に置いていた灰皿を自分の目の前に置き、その灰皿にタバコを置いた。
すると樹が「ちょうだい」と言ったので、タバコを一本渡し、彼に火を近づけた。彼はその火を吸って、タバコに火をつけ、「ふう」と煙を吹き、口をすぼめた。

「『STARS』か」
「うん、知ってる?」
「うん、いつも吸ってる。誰に教えてもらったんだ?」
「今居る施設で。樹は?」
「十歳くらいの時から、いつの間にか吸ってた」

僕はここで、子ども達にする質問をしてみた。

「タバコを吸ってる時、どんなことを考えてるの?」
「……何も考えなくていいんだ。ただ、頭の中がスカッとするっていうか……落ち着く」

戦いに身を投じた子ども達と、同じことを答えた。樹は、少しホッとしたような顔をした。

 僕はそろそろかと思って、お風呂場に向かった。ルーは玄関でおとなしく伏せていた。試しに、ルーの目の前に手を差し出した。ルーは少し僕の手の匂いを嗅いで、小さく唸った。僕は怖くなってルーから離れた。

 湯船のお湯が溢れていたので、慌てて蛇口を捻り、脱衣所にタオルと新品の下着、ズボンと長袖のシャツを置いた。そして樹に、お風呂が沸いたことを知らせた。樹は脱衣所に向かい、僕はマグカップを片付けた。

 しばらくすると、脱衣所から「半袖貸して」という声がしたので、僕はTシャツを持って脱衣所に入った。

 僕は、言葉を失った。全身びしょ濡れのルーが、脱衣所でブルブルと自分の体に着いた水をはじいたからじゃない。樹の両肩から、左右の指先まで、黒い金属のようなもので覆われていたからだ。

「悪いな、長袖じゃ腕が入らなくて……」
「樹、それ、どうしたの?」

僕は、樹の腕をまじまじと見た。すると樹は、「手が冷たい原因だ」と言った。

「俺の腕、機械なんだ」
「キ、キカイ?」
「あぁ、きちんと言うと、『サイボーグ技術』ってやつだ」
「サイボーグ?」

 サイボーグとは、『サイバネティク・オーガニズム』の略で、身体の機能を、電子機器などの人工物に替えたものらしい。

生身の体よりも、身体機能は強化され、いろいろと重宝してるらしい。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み