第46話 明後日

文字数 834文字

 三日たった。悠也は、頭痛は少しずつ減っていったけど、イライラするのか、落ち着かない様子が続いた。
どうすることもできず、物に八つ当たりするのは普通だった。
でもこの時、悠也が自分の事を話してくれた。夜の事だった。

「母さんが」
「ん?お母さん?」

悠也は、ゆっくりと瞬きを一回した。

「母さんが俺を育ててくれた。父さんは、知らない」
「そっか……」
「でも、父さんは外国の人だと思う。俺、髪の毛茶色いし、目も周りと少し違うし……」
「……うん」
「俺、ここを出たら父さんに会いに行きたい。真紀を連れて、旅したい。団長が言ってた。『世界は広くて大きくて、面白い』って」
「そ、そっか、会えるといいね、お父さんに」
「……ん」

彼は、ゆっくり目を閉じて眠った。
この日から悠也は、自分の事を話すようになってくれた。どんなところで生まれたとか、どんなことをして遊んでいたとか、お母さんがどんな人だったとか、子供の頃の事を話してくれた。

 あれから一週間経ち、悠也は謹慎を解かれて部屋の外に出られるようになった。彼が部屋から出て向かった先は、やっぱり真紀ちゃんのところだった。
 その頃の真紀ちゃんは体調が良く、人の手を借りるけど、歩くことができる程だった。
ふと真紀ちゃんの部屋を窓から覗いてみると、二人は並んで座って、手なんか繋いで、お互いに頬を赤くして、楽しそうに会話なんかしてた。
なんだか羨ましくなった。僕、椿と手なんか繋がなかったから……。

「若いなぁ……」

って、思わず声が出たよ。
僕の話はどうでもいいけど、とにかく二人は、相変わらず仲睦まじい様子だった。
それから、彼は前のように献身的に彼女の部屋へ出入りしてたみたい。

 悠也の謹慎が解けて二週間目の夜、彼が話をしたいと言ってきた。

「話って、前言ってた事?」

悠也は一つ、瞬きをした。そして、明後日、外で話をしたいと言った。

「うん分かった」

彼はそれ以上何も言わず、ベッドに入った。
僕は、「おやすみ」と言って部屋を出た。雲ひとつ無い、星の綺麗な夜だった。
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