第18話 情熱と情熱のあいだ4
文字数 1,330文字
しばらくすると、彼は落ち着いてウトウトと眠ってしまった。それを引き離して彼を横にしてベッドに寝かせた。それからしばらくぼんやりしていると、部屋の扉が開いた。光だった。
「寝たのか」小さな声で光が言った。
「うん」僕も自然と小さな声になった。
「悪かったな。言い過ぎた」
「ううん、大丈夫」
「……」
「彼はまだ、ここの環境についていけてないんだ。今まで正しいと思ってた事を否定されて、どうしたらいいか分からなくて、ずっと悩み続けてた」
「……そうか」
光は頭をかいた。
「光」
「何だ」
「僕、やっぱり戦争が嫌いだ」
「……」
「みんな、正義のために戦ってるんだって、だから、戦争は仕方ないことだって……。僕も、弟も、何もかも運命なんだって、ずっと自分に言い聞かせてきた……」
この時僕も、頭の中がぐちゃぐちゃになっていたと思う。涙が出た。悔しくて、悲しくて、腹が立ってきた。
「なんで戦争で子ども達が戦うんだろう。子ども達は関係無いじゃないか。大人が始めた戦争を、なんで子どもにやらせるの?」
「巽……お前、まだ弟の事を諦められないのか……」
「……あいつ、どこに行ったんだろう……もう、会えないのかな……」
その時、悠也がもぞもぞと小さく動いた。僕は彼に掛け布団を掛けた。光は僕のそばまで来て、肩をポンポンと叩いた。
「もう何も考えるな。もう休め。明日は彼とお別れするんだろ?しっかり送ってやれ」
「……うん」
光は部屋の電気を消し、出ていった。
「……ん、巽」
再び悠也がもぞもぞと動いた。
「ごめん、起こしちゃったね。眠っていいよ」
「巽、弟って」
「……聞いてたのか」
「樹 ?」
彼から、信じられない言葉が出てきた。
「……今、何て……」
「俺、樹に拾われたんだ」
絶句した。弟の名前を聞くことができるなんて思っていなかった。いや、その名前を聞くことを諦めていたんだ。
「少し、話していいか」
「うん」
「俺、六歳の時、正規軍にさらわれそうになって、その時、樹が助けてくれたんだ。……俺の母さんは、俺の目の前で殺された。行くあてもない俺を、樹は拾ってくれたんだ」
「……そうなんだ」
「俺は、正規軍が憎かった。誰も守れない自分にも腹が立った。そんな俺に、樹は『ついてこい』って言ってくれた。
実は、ここに俺を連れてきたのは樹だ。『ここには兄貴がいるから安全だ』って、俺の体を傷つけて、大量のガンパウダーを傷口にすり込んで、俺を置いて行った……。お前を見た時は驚いた。ほとんど樹と一緒だった。性格は似てないけど、同じ体つきに同じ大きい手と、同じ懐の暖かさ。巽と樹は同じなんだって、本当に思った」
「……そうなんだ」
僕は、樹が僕の居場所を知っていた事に驚いた。同時に、樹を懐かしく思った。
「樹に、会いたい……」また涙が出た。
僕の口から出た言葉に悠也は反応することなかった。
部屋がしばらく静寂に包まれた。月明かりが部屋の窓を通して、壁や床を青く照らした。悠也はすっかり眠ってしまった。僕はベッドの横に座って、うつらうつらとなった。
時々、悠也がうなされていたので、彼の頭をなでたり、胸をトントンと優しく叩いたりしてやった。すると彼は、すぐに寝息を立てて眠った。
朝までずっとその繰り返し。はっきり言って、僕はよく眠れなかった。
「寝たのか」小さな声で光が言った。
「うん」僕も自然と小さな声になった。
「悪かったな。言い過ぎた」
「ううん、大丈夫」
「……」
「彼はまだ、ここの環境についていけてないんだ。今まで正しいと思ってた事を否定されて、どうしたらいいか分からなくて、ずっと悩み続けてた」
「……そうか」
光は頭をかいた。
「光」
「何だ」
「僕、やっぱり戦争が嫌いだ」
「……」
「みんな、正義のために戦ってるんだって、だから、戦争は仕方ないことだって……。僕も、弟も、何もかも運命なんだって、ずっと自分に言い聞かせてきた……」
この時僕も、頭の中がぐちゃぐちゃになっていたと思う。涙が出た。悔しくて、悲しくて、腹が立ってきた。
「なんで戦争で子ども達が戦うんだろう。子ども達は関係無いじゃないか。大人が始めた戦争を、なんで子どもにやらせるの?」
「巽……お前、まだ弟の事を諦められないのか……」
「……あいつ、どこに行ったんだろう……もう、会えないのかな……」
その時、悠也がもぞもぞと小さく動いた。僕は彼に掛け布団を掛けた。光は僕のそばまで来て、肩をポンポンと叩いた。
「もう何も考えるな。もう休め。明日は彼とお別れするんだろ?しっかり送ってやれ」
「……うん」
光は部屋の電気を消し、出ていった。
「……ん、巽」
再び悠也がもぞもぞと動いた。
「ごめん、起こしちゃったね。眠っていいよ」
「巽、弟って」
「……聞いてたのか」
「
彼から、信じられない言葉が出てきた。
「……今、何て……」
「俺、樹に拾われたんだ」
絶句した。弟の名前を聞くことができるなんて思っていなかった。いや、その名前を聞くことを諦めていたんだ。
「少し、話していいか」
「うん」
「俺、六歳の時、正規軍にさらわれそうになって、その時、樹が助けてくれたんだ。……俺の母さんは、俺の目の前で殺された。行くあてもない俺を、樹は拾ってくれたんだ」
「……そうなんだ」
「俺は、正規軍が憎かった。誰も守れない自分にも腹が立った。そんな俺に、樹は『ついてこい』って言ってくれた。
実は、ここに俺を連れてきたのは樹だ。『ここには兄貴がいるから安全だ』って、俺の体を傷つけて、大量のガンパウダーを傷口にすり込んで、俺を置いて行った……。お前を見た時は驚いた。ほとんど樹と一緒だった。性格は似てないけど、同じ体つきに同じ大きい手と、同じ懐の暖かさ。巽と樹は同じなんだって、本当に思った」
「……そうなんだ」
僕は、樹が僕の居場所を知っていた事に驚いた。同時に、樹を懐かしく思った。
「樹に、会いたい……」また涙が出た。
僕の口から出た言葉に悠也は反応することなかった。
部屋がしばらく静寂に包まれた。月明かりが部屋の窓を通して、壁や床を青く照らした。悠也はすっかり眠ってしまった。僕はベッドの横に座って、うつらうつらとなった。
時々、悠也がうなされていたので、彼の頭をなでたり、胸をトントンと優しく叩いたりしてやった。すると彼は、すぐに寝息を立てて眠った。
朝までずっとその繰り返し。はっきり言って、僕はよく眠れなかった。