第58話 昔話12

文字数 1,307文字

 話は樹の話題になった。

「シュウは日頃、あまり喋らない。自分の事は言わないし……あ、でも、顔にはよく出てた。怒ってる時とか機嫌がいい時とか、すぐに分かるんだ。

 かと言って、ずっと無口でもない。シュウはなんでも知ってるんだ。銃の使い方とか車の運転の仕方とか、敵との戦い方とか体の急所とか、タバコの吸い方も教えてくれた。

 シュウは器用だ。葉っぱで笛を吹くんだ。ピーピーって、上手に吹く」

悠也の目は、キラキラと輝いていた。

 少しずつ晴れ間が出て来た。雪はやんだけど、風がまだ冷たかった。僕の手は、かじかんだままだった。

「知りたい?」
「……え?」
「シュウの女の話。周りから聞いた話だけど」

僕が何も言わないでいると、悠也は僕の気持ちを察してか、話してくれた。

 「シュウには、『サヤネ』っていう女がいたんだ。いつも元気でハキハキした奴。男に酒ついだり、話をしたりする仕事だって言ってたと思う。
 始めて会ったのは、俺が旅団に入る前。初対面でシュウはサヤネにパンチされて、顔に酒をぶっかけられたんだ。『なんでそんなにぶっきらぼうなの?』って。ハチャメチャな女だよな。
2人は一触即発、部屋が静かになったって、翼が言ってた。ただでさえキレやすいシュウだから、女も殺しかねない。
 でもシュウはサヤネに手をあげなかったんだ。サヤネを睨みつけた後、その部屋から出て行ったんだって。そこにいた皆は、『生きた心地がしなかった』って言ってた」
「なんか、すごく元気な子なんだね」
「あぁ、俺も会ったことがあるけど、俺より元気だった。声はデカいし世話焼きだし、俺から言わせれば変な奴だよ」

僕は少し声を出して笑った。椿を思い出したからだ。

「そのあとは何があったのか知らないけど、いつの間にか仲良くなってたんだって。
なんかトラブルに巻き込まれて、サヤネがチンピラに絡まれて、連れ去られそうになった時にシュウが助けたって聞いたことがあるけど。本当かどうかわかんない。

 サヤネに会う時はいつもなんか手に荷物をぶら下げてた。花が多かったけど、たまに食いもんとか、女物の服とか櫛とか、どこで調達してきたのか分かんないものばかりだった」
「へぇ〜、けっこう粋な事をするんだね」
「イキ?まぁいいや。シュウは女にはけっこう何でもやるぞ」
「え?そうなの?女たらしなの?」
「あぁ。だって、ルーにも食いもんをやってたぞ。ネズミとかウサギとか。ルーも女だからな」
「へ?」
「シュウも、女には弱いんだ」

 悠也は少し唇を歪ませた。初めて見る悠也の表情に、僕は思わず笑った。

「女って、『メス』も入るんだね?」
「当たり前だ!ルーは仲間だ。家族だ!だから女だ。でも、なおは変人だから女じゃない。自分でも『俺は男だ』って言ってたし……」
「女の子を口説く女の子?」
「そう!俺たちの周りには、ハチャメチャな女が多いよな。巽もそう思うだろ?」

 確かに、僕の周りの女子は、僕の胸ぐらを掴んだり僕の肩にパンチしたり、椿なんか、昔僕に向かって飛び蹴りしてきたんだ。

 でも、それでもいいって思ってる僕は……。

「言っとくけど、僕は変な性癖は持ってないからね!」
「何の話だ?」
「あ……」

僕は墓穴を掘ってしまった。
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