第59話 昔話13

文字数 1,678文字

 悠也は、僕の気持ちを知ってか知らずか、僕の言ったことには触れることは無かった。僕は話を戻すために質問をした。

僕が樹について聞きたかったことの一つだ。

「ねぇ悠也、どうして樹の腕は無くなったの?」

悠也は少し黙り込んだ。そして、さっきのあの虚ろな目をした。

 「右腕が無くなったのは、俺が旅団に入る四年前だったらしい。戦闘中に、サイボーグ野郎に出くわして切り落とされたって聞いた事がある」
「サイボーグ野郎?」
「脳みそ以外、全身が機械で出来た奴だ。敵の部隊の中に精鋭部隊があって、そこの連中は機械の体をした奴ばかりだった。

 厄介な奴らだった。弾丸はほとんど効かないし、接近戦でいけば力負けする。サイボーグの体になったあいつらは、身体能力がとてつもなく高い。人間離れした脚力と大きな岩を軽々と砕く腕力で、他の旅団や陸上部隊、航空部隊は負けていった。

 俺たちの言う『負ける』というのは、『死ぬ』ことだ。負ける時は死ぬ時ーー。団長はその言葉をいつも言ってた。

 デイヴィッドーー。精鋭部隊の隊長だ。
俺たちは『死神』って呼んでた。あいつは刀剣も使う。それで何でも切り落とすんだ。銃弾だって一振りだ」
「その死神に、腕を切り落とされた?」
「ん。シュウは翼を庇って腕を切られたんだ。瀕死だったらしい。血を出し過ぎて、いつ死んでもおかしくなかった。体が冷たくなり始めてて、心拍が弱々しかったって、翼が言ってた。でもシュウは助かったんだ。

 たまたま近くに、団長の友達がいるラボがあった。木に囲まれた建物があって、そこにはいろんな道具が揃ってた。
とにかく止血を急いで、輸血をしたんだって。

 それでなんとか助かったけど、シュウの腕は無かった。そんな時に、団長の友達の新開(しんかい)博士が試作品で作ってたサイボーグの腕をシュウにくっ付けた。
ただくっ付けても腕は動かないから、頭に電池を埋め込んで、なんだかんだで動かせるようになったんだ。右腕はそれで元に戻った。
おかげで手ぶれが無くなって、腕力、握力も格段に上がったって。

 それを付けた最初の時は力の加減が難しかったみたい。カップを持ってたら、いつの間にか潰して使い物にならなくなったり、銃を構えて引き金を引いたら、引きすぎて戻らなくなって使い物にならなくなったり、近接戦闘の訓練中に、仲間の腕を持ったらそのまま骨を折ったり、コントロールするのが大変だったらしい」

悠也はいったん言葉を切って、小さく息をついた。そして真顔でこう言った。

「……喉乾いた」

 僕はいったん施設に戻り、水を入れ物に入れた。その時、たまたま光に会ったけど、その時は何も言わずにすれ違った。

 僕が水を持って戻ると、悠也の手元に何かがいた。ウサギだ。
自分の足の上に乗せ、頭を撫でていた。

「……腹減った」
「ウサギはダメだよ」
「……じゃあ煙草欲しい」
「煙草もダメ」
「じゃあウサギ食べたい」
「……」

僕は彼を見つめた。するとしばらくして彼は少しうなだれて、僕が渡した水を飲み干した。

 「そういえば、なおって人も目がサイボーグって言ってたよね?その人も怪我か何かしたの?」
「いや、あいつは自分で望んでサイボーグにしたんだ。というより、実験台になったんだ。
 新開博士は、サイボーグ技術を研究してて、それをフクシに役立てたいって言ってた。
『この技術が戦争で利用されるのは嫌だけど、これで戦争が終わるというなら、僕は嶽上に託そうと思う』って、博士は言ったことがある。

 その時のなおは目が良くなかった。何かの拍子に目に傷が入って、視力が悪くなったらしい。その時、団長にお願いして、開発中の機械の目を付けたんだって。
でも体の中でも脳みそに近くて危ない場所だからって、博士は迷った。何かあってからではただではすまない。でもデータが欲しいって。
なおはそれを覚悟して目を機械にしたんだ。おかげでその目からいろんな情報が取れるし、なおも狙撃の能力が格段に上がったんだ」

 悠也は話している間も、ウサギを離そうとしなかった。むしろ『あったかい』と言って自分の着ているコートの下に入れた。
ウサギも珍しく、大人しかった。
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