第16話 情熱と情熱のあいだ2

文字数 1,357文字

 彼を、次の日に埋葬することになった。

 僕は仕事を終えて、自分の部屋に戻った。奥の隅にあるベッドの上に座り、背中を壁に預けた。しばらくして、ドアをノックする音が聞こえた。

「……はい」

ドアが開いたその先には、光がいた。

「……」
「お疲れ。はい、これ」

光が持ってきたのは、温いビールだった。
光は僕の隣に座って、ビールを一口飲んだ。

「中毒末期だったんだって?」
「……うん」
「そうか」
「……うん」

しばらく沈黙が続いた。すると、またドアを開ける音が聞こえた。ドアに目をやると、そこにいたのは悠也だった。

「……何?」
「……」

彼は、その場に立ち尽くしたままだった。
僕は彼に手招きをし、彼はそれに従って部屋の中に入ってきた。その足で、僕のベッドの前まで来て、下を向いた。

「どうしたの?」
「……」
「言ってごらん」
「……眠い」
「じゃ、ベッドに入らなきゃ」
「……眠るのが、怖い」

僕と光は、互いの顔を見合わせた。そして、彼が続けた。

「夢を見る、いつも、怖い夢……」

白い服の少しを握りしめ、彼は下を向いたまま呟いた。すると、光が口を開いた。

「どうして欲しいんだ?」

悠也はゆっくりと顔を上げ、光を見つめた。

「悠也、だっけ。お前は、巽にどんな言葉をかけてほしいんだ?同情してほしいのか?憐れんでほしいのか?そんなもんは仏にでも頼め。お前の辛さなんぞ、俺たちには分からないんだぞ」
「光、何を……」

光は僕の言葉を無視し、悠也に言った。

「いいか、ここにいる子ども達は、お前と同じように戦場で戦って傷ついた奴ばかりだ。みんな、お前と同じように苦しい夢を見て、毎晩うなされて辛い思いをしてる。それでもみんな、苦しい中耐えてるんだ」
「光⁈」
「なぜか分かるか?これから生きていくには、何でも自分の力で問題を解決して、苦しいことに耐え抜いていかないといけないからだ」
「光、やめて……」
「なぜそこまで生き抜こうとしてるのか分かるか?今まで自分がやってきたことの償いをするためだ。ここにいるみんなは、罪を背負って生きることになる。それが、この乱れた世の中に生かされた奴らの使命だろ。いつまでも俺たちがお前の隣にいると思うなよ。いつまでも甘えてんじゃねぇよ」
「光‼︎」
「巽は優しい過ぎんだよ。こうでもしないと自立しないだろ⁈」
「だからって言い過ぎだよ。少しずつ教えていけばいいだろ⁈助けられる時に助けてあげるのが、僕たちじゃないか!」
「お前な、優しさと甘やかしは全然違うんだぞ!」
「光はただただ厳しすぎるよ!」

 その時、悠也は走って部屋を出ていった。

「悠也!」
「ほっとけ巽」
「……光、君が一番分かってるはずだろ⁈何であんな言い方をするんだ?」
「だから言うんだよ。どんなに周りが声をかけようが気にかけようが、今を乗り越えるのは、自分自身だ。言い方を間違えれば、逆に傷つくんだよ……」
「光……」
「……俺たちができるのは、気持ちを汲み取る事だ。分かることは出来ない。みんながみんな、俺と同じ経験をしてきたわけじゃない。兵士もそれぞれ、子どももそれぞれだ」
「……」
「巽は、俺に優しくしてくれた。凄く励みになったし、力になったよ。でも、今のあいつは大丈夫。自力で乗り越えられると思う」

僕はそれ以上何も言うことができなかった。でも、どうしたらいいかわからなくて、悠也を追いかけた。
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