第33話 再会2
文字数 1,463文字
冷たい風が吹いた。それと一緒に、僕が置いた季節外れの白い百合の花束から、あの強い香りが漂ってきた。僕はその匂いで、泣きながらむせてしまった。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
僕は呼吸を整えて、彼の顔を見た。
「樹、ちゃんとご飯食べてる?風邪ひいてない?ちゃんと寝てる?」
樹は涙ぐみながら、小さく笑顔で頷いた。
「ほら、もう泣くな」
僕は袖で顔を拭いた。
「寒いから、お家に帰ろうか」
僕は樹に笑って見せた。
「そうだな。その前に」
樹はそう言って立ち上がると、コートの内側から、サイレンサーのついたハンドガンを取り出した。
「お前、尾けられたな」
「え?」
その瞬間、樹は片手でハンドガンを構え、両親が眠っている木の上の方に向かって発砲した。
すると、上から男が降ってきて、水仙の花と百合の花束を背中で潰した。
男は、左の脇腹を手で押さえ、唸り声を出しながらもがいた。樹は男の元まで近づき、その男の額に銃を突きつけた。
「巽、俺から離れろ」
僕は唖然としてしまっていた。すると樹は、大きな声で「早く」と言ったので、僕は慌ててバイクのある方向に、もたつきながら走った。
抜けそうになる腰に力を入れて、バイクのあるところまでたどり着くと、横から突然、大きな塊が僕の視界に入ってきた。
「うわぁっ!」
あまりにもビックリして、僕は、派手に転んだ。
「い、犬?」
犬は僕に乗っかってきて、僕の顔を舐めまわしてきた。尻尾を強く振り、獣臭い息を僕の鼻にかけた。
その時、僕が走ってきた方向から、「ルー!」という大きな声が聞こえた。すると犬は、声の方に首を向けた後、僕を容赦なく踏みつけ、走っていった。
犬の脚力を見くびってはいけない。みぞおちとかに入れば、けっこう痛いんだよね。
僕は起き上がり、服に着いた泥を払いのけた。犬は、大きな声の主の体に飛びつき、僕にしたように、顔を舐めまわしていた。まぁ、声の主は、樹なんだけどね。
樹は犬を手で退けて、顔をコートの袖で拭きながら歩いてきた。
「こいつは『ルー』って言うんだ。俺たちの相棒」
「ずいぶんと大きな犬だね」
「犬じゃない。狼だ」
確かに、猫みたいに目が金色に光っていて、頭は犬ほど持ち上がっていない。耳が大きくて、太い尻尾は垂れ下がり、そして何より、とにかく大きい。立ち上がれば、樹と同じくらいの身長だ。
本来、ニッポンに狼はいない。それを樹に聞いてみた。
ニッポンにかつていた狼は、既に絶滅していた。すると、それまで狼の餌になっていた鹿や猪が異常に増え、山や森にある餌が減った。そして、農作物が食い荒らされ、人里にまで出没することが多くなった。
そこで、外国から狼を連れてきて、山に放ったそうだ。
ルーは、樹が森を散策していた時に見つけた。その時はまだ子どもで、死んだ母親のそばでクンクンと鳴いていたそうだ。樹はその子を連れ帰って、部隊の仲間と育てたらしい。
「狼って、懐くんだね」
「いや、女子供には興味を持つけど、男には懐かない」
「そうなの?」
「まぁ、アレだ。ルーが巽に懐いた理由は、俺にそっくりだからか、お前が女々しいからか、女 の匂いが染み付いてたか」
「……」
「……その顔は、図星か?」
「いや、そ、それは……」
「別に悪いことじゃない。『本能』だ」
自分の顔が火照っていくのが分かった。
「か……帰ろっか」
僕はバイクに跨った。樹は僕の後ろに乗った。ヘルメットがひとつしかなかったので、それを樹にかぶせた。ルーはバイクの後ろからついて来ると言うので、気をつけて走ることにした。
「コート、巻き込まれないでね」
エンジンをかけて、僕たちは家に帰った。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
僕は呼吸を整えて、彼の顔を見た。
「樹、ちゃんとご飯食べてる?風邪ひいてない?ちゃんと寝てる?」
樹は涙ぐみながら、小さく笑顔で頷いた。
「ほら、もう泣くな」
僕は袖で顔を拭いた。
「寒いから、お家に帰ろうか」
僕は樹に笑って見せた。
「そうだな。その前に」
樹はそう言って立ち上がると、コートの内側から、サイレンサーのついたハンドガンを取り出した。
「お前、尾けられたな」
「え?」
その瞬間、樹は片手でハンドガンを構え、両親が眠っている木の上の方に向かって発砲した。
すると、上から男が降ってきて、水仙の花と百合の花束を背中で潰した。
男は、左の脇腹を手で押さえ、唸り声を出しながらもがいた。樹は男の元まで近づき、その男の額に銃を突きつけた。
「巽、俺から離れろ」
僕は唖然としてしまっていた。すると樹は、大きな声で「早く」と言ったので、僕は慌ててバイクのある方向に、もたつきながら走った。
抜けそうになる腰に力を入れて、バイクのあるところまでたどり着くと、横から突然、大きな塊が僕の視界に入ってきた。
「うわぁっ!」
あまりにもビックリして、僕は、派手に転んだ。
「い、犬?」
犬は僕に乗っかってきて、僕の顔を舐めまわしてきた。尻尾を強く振り、獣臭い息を僕の鼻にかけた。
その時、僕が走ってきた方向から、「ルー!」という大きな声が聞こえた。すると犬は、声の方に首を向けた後、僕を容赦なく踏みつけ、走っていった。
犬の脚力を見くびってはいけない。みぞおちとかに入れば、けっこう痛いんだよね。
僕は起き上がり、服に着いた泥を払いのけた。犬は、大きな声の主の体に飛びつき、僕にしたように、顔を舐めまわしていた。まぁ、声の主は、樹なんだけどね。
樹は犬を手で退けて、顔をコートの袖で拭きながら歩いてきた。
「こいつは『ルー』って言うんだ。俺たちの相棒」
「ずいぶんと大きな犬だね」
「犬じゃない。狼だ」
確かに、猫みたいに目が金色に光っていて、頭は犬ほど持ち上がっていない。耳が大きくて、太い尻尾は垂れ下がり、そして何より、とにかく大きい。立ち上がれば、樹と同じくらいの身長だ。
本来、ニッポンに狼はいない。それを樹に聞いてみた。
ニッポンにかつていた狼は、既に絶滅していた。すると、それまで狼の餌になっていた鹿や猪が異常に増え、山や森にある餌が減った。そして、農作物が食い荒らされ、人里にまで出没することが多くなった。
そこで、外国から狼を連れてきて、山に放ったそうだ。
ルーは、樹が森を散策していた時に見つけた。その時はまだ子どもで、死んだ母親のそばでクンクンと鳴いていたそうだ。樹はその子を連れ帰って、部隊の仲間と育てたらしい。
「狼って、懐くんだね」
「いや、女子供には興味を持つけど、男には懐かない」
「そうなの?」
「まぁ、アレだ。ルーが巽に懐いた理由は、俺にそっくりだからか、お前が女々しいからか、
「……」
「……その顔は、図星か?」
「いや、そ、それは……」
「別に悪いことじゃない。『本能』だ」
自分の顔が火照っていくのが分かった。
「か……帰ろっか」
僕はバイクに跨った。樹は僕の後ろに乗った。ヘルメットがひとつしかなかったので、それを樹にかぶせた。ルーはバイクの後ろからついて来ると言うので、気をつけて走ることにした。
「コート、巻き込まれないでね」
エンジンをかけて、僕たちは家に帰った。