第62話 昔話16

文字数 1,601文字

 「だんだんジャックが物陰に隠れるようになって、俺たちの弾薬も尽きてきた。ジャックは脇腹と太ももを怪我してて、力もスピードも落ちてた。みんなが、『死ぬかもしれない』って思ってた。
だから……、俺たちもサイボーグ野郎に接近戦で戦った。俺の武器はナイフが一本、弾が三発、閃光手榴弾が一個。とにかく、皆で敵を囲って戦った。

 凄かったよ。皆で一斉にかかってもビクともしないし、思い切り投げたナイフが膝の関節に刺さったけど勢いは止まらない。皆、傷だらけで血だらけだった。トムは首の骨を折られて死んだ。ブラッドは腹に穴が空いて、後で死んだ。
それでも戦いをやめなかった。とにかく敵を休ませないように、がむしゃらに攻撃したんだ」

悠也はだんだんと早口になっていった。右手を拳にして、左手でそれを覆って、お腹の前で組んだ。指先に血の気は見えなかった。

「首を掴まれて、持ち上げられて、絞められた時は、もう死ぬと思った。でもその時に、狙撃部隊の弾が一発、あいつの首の付け根に入ったんだ!レオンがそいつに弾を撃ったんだ!
 俺は咄嗟に緩くなった指を開いてその場に落ちて、そして足首の関節にナイフを差し込んでやった。そしてジャックが、あいつの首の付け根を切ったんだ。
ピンクの液が噴き出てきて、あいつが俺の目の前に倒れてきた。で、それから動かなくなったんだ。

 ジャックがあいつの体を上に向かせた。そしたらあいつ、急にジャックの腕にしがみついてきたんだ。なんかピーピー鳴りだした。ジャックが『逃げろ』って叫んだから、俺たちはすぐにその場から離れた。

 そのあとは覚えてない。気がついたら、知らないところで横になってた」

悠也は手を緩め、ゆっくりと息を吐いた。

 「頭ん中がフワフワしてた。でも檻に入れられてるのはすぐに分かった。檻の外で、俺とおんなじくらいの子どもが見てたんだ。でもそいつ、体が機械で、頭だけが生身だった。精鋭部隊の基地だって、すぐに分かった。銃口を俺に向けて、『小鬼め、変なことしたら殺す』って言われて、俺、笑ったよ。殺したきゃ殺せって言ってやった。そしたらあいつ、しばらくして銃口を外した。『ほんとはこんなことしたくない』って、泣き言言ってた。だから俺、戦争だから仕方ないって言ってやった。
 そいつは少し話をしてくれた。なんで機械の体をしてんのか聞いたら、隊長が助けてくれたんだって。死神のことだって、すぐに分かったよ。

 で、しばらくしたら、壁の向こうから銃声が聞こえてきたんだ。そいつは明らかにビビってた。変なやつだ。
すぐにそいつの仲間がやってきて、援護しろって命令して、あいつ、怯えた目をして『バイバイ』って言って走っていったんだ。

何があってるのかわかんなくてぼんやりしてたら、翼が俺の目の前にやってきた。『無事か?』って言われて、肩に担がれて、そこを脱出した。途中、団長が死神と戦ってた。俺、団長が戦場に立って戦ってるの、初めて見た。で、基地から出る途中、子どもくらいの死体が転がってた。赤かったりピンクだったり、なんか変な匂いがしてたと思う。あいつも死んでた。

 そしてまた気がついたら、新開博士のラボのベッドで横になってた。

 三週間眠ってたって、なおが言ってた。他の皆も、ベッドで横になってた。
あのサイボーグが死んだ時、狙撃部隊にいた司に聞いたら、サイボーグの頭が爆発して、皆吹っ飛ばされたって言った。シュウは爆発寸前のところで、自分の腕を、あいつの長いナイフで切り離して逃げようとしたら、すぐに爆発したらしい。すぐに現場に向かったら、死神が俺とシュウを肩に担いで誘拐していったって、言ってた。

 シュウを助けた時に、左腕にサイボーグの機械が付いた状態で眠ってたって翼が言った。それを聞いていた皆は『変だよな』って言ってた」

悠也は口を閉じて自分の足元に目をやった。話を終えたんだ。うさぎはいつの間にか居なくなっていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み