第78話 逃亡3
文字数 1,077文字
佐野さんは大きく息を吐いて、銃の引き金を引いた。その弾は、部下の左腕に埋まった。部下の息が荒くなり、肩が大きく上下した。
「口、あるだろ?質問に答えろ。これは何という遊びだ?」
部下が答えないでいると、佐野さんがまた部下を撃った。
「耳、あるんだよな?質問に答えろ」
「さ、佐野さん」
「なんだ」
今まで僕には敬語で話していたのに、この時だけはそうじゃなかった。多分、怒ってたんだと思う。日が半分近く沈み、辺りは夜を迎えようとしていた。僕は、恐る恐る言ってみた。
「死んだんじゃ……」
「なに?」
「殺されたって聞いたから……」
佐野さんは「殺された?」と言いながら、助手席のドアを開け、左腕を押さえる部下の髪の毛を引っ張り、彼女を車から降ろした。彼女は体を車体に預け、荒い呼吸を続けた。
「どういう事だ?」
「ず、ずるい!この人たちはこの島から出られるなんて!」
「それで?」
「私だってここから出たい!こんなとこ……」
「出たところで、頭を吹き飛ばされるだけだ」
「でも、でも、『鬼』の頭は吹き飛ばなかった!」
佐野さんがまた銃の引き金を引いた。弾は部下の太ももに命中した。部下は一瞬叫び、うずくまるようにして体を丸めた。
ジープの後ろから追っていた車がすぐ近くで止まり、中からライフルを持った人が数人出てきた。
佐野さんが指示をすると、部下はその数人に持ち上げられ、車の中へ連れられていった。
佐野さんが「行きましょう」と僕たちを大きな車の方へ案内してくれた。僕は座席の間から顔を出して一部始終を見ていた椿を車から降ろした。椿が「腰が抜けた」と言って僕におんぶをせがんできたので、僕は素直に椿をおんぶした。
後ろの座席に座った。窓は無い。でも、車内は明るい。座席は簡易的な物で、とても乗り心地が良いと言える物ではなかった。
車が出発した。車体がカーブする度に、僕たちは揺られた。
僕と椿と光、そして佐野さんと、佐野さんの部下と思われる人が二人。少しの間、人の声はしなかった。そこに、僕は声を発した。
「あの、さっきの人はどうなるんですか?」
「病院に送ります。しばらくは入院するでしょう」
僕は安堵した。
「予定より早いですが、目的地に向かいましょうか」
「待ってください。僕の家はどうなるんですか?」
「燃やします。今、手配をしているところです」
僕が佐野さんに、家の中に置いてあるお金を全て椿の病院に渡してほしいと言うと、佐野さんは「分かりました」と言った。椿が「え?いいの?」と言ったので、僕は「結納金さ」と答えた。光が鼻で笑った。椿は顔を床に向けた。そして、少し開いていた膝を静かに閉じた。
「口、あるだろ?質問に答えろ。これは何という遊びだ?」
部下が答えないでいると、佐野さんがまた部下を撃った。
「耳、あるんだよな?質問に答えろ」
「さ、佐野さん」
「なんだ」
今まで僕には敬語で話していたのに、この時だけはそうじゃなかった。多分、怒ってたんだと思う。日が半分近く沈み、辺りは夜を迎えようとしていた。僕は、恐る恐る言ってみた。
「死んだんじゃ……」
「なに?」
「殺されたって聞いたから……」
佐野さんは「殺された?」と言いながら、助手席のドアを開け、左腕を押さえる部下の髪の毛を引っ張り、彼女を車から降ろした。彼女は体を車体に預け、荒い呼吸を続けた。
「どういう事だ?」
「ず、ずるい!この人たちはこの島から出られるなんて!」
「それで?」
「私だってここから出たい!こんなとこ……」
「出たところで、頭を吹き飛ばされるだけだ」
「でも、でも、『鬼』の頭は吹き飛ばなかった!」
佐野さんがまた銃の引き金を引いた。弾は部下の太ももに命中した。部下は一瞬叫び、うずくまるようにして体を丸めた。
ジープの後ろから追っていた車がすぐ近くで止まり、中からライフルを持った人が数人出てきた。
佐野さんが指示をすると、部下はその数人に持ち上げられ、車の中へ連れられていった。
佐野さんが「行きましょう」と僕たちを大きな車の方へ案内してくれた。僕は座席の間から顔を出して一部始終を見ていた椿を車から降ろした。椿が「腰が抜けた」と言って僕におんぶをせがんできたので、僕は素直に椿をおんぶした。
後ろの座席に座った。窓は無い。でも、車内は明るい。座席は簡易的な物で、とても乗り心地が良いと言える物ではなかった。
車が出発した。車体がカーブする度に、僕たちは揺られた。
僕と椿と光、そして佐野さんと、佐野さんの部下と思われる人が二人。少しの間、人の声はしなかった。そこに、僕は声を発した。
「あの、さっきの人はどうなるんですか?」
「病院に送ります。しばらくは入院するでしょう」
僕は安堵した。
「予定より早いですが、目的地に向かいましょうか」
「待ってください。僕の家はどうなるんですか?」
「燃やします。今、手配をしているところです」
僕が佐野さんに、家の中に置いてあるお金を全て椿の病院に渡してほしいと言うと、佐野さんは「分かりました」と言った。椿が「え?いいの?」と言ったので、僕は「結納金さ」と答えた。光が鼻で笑った。椿は顔を床に向けた。そして、少し開いていた膝を静かに閉じた。