第4話 虚ろ1

文字数 920文字

 次の日、朝ごはんを彼の部屋に持っていった。昨日暴れたから、彼はベッドに固定されていた。
彼は僕を睨みつけ、必死にベッドの中でもがいていた。

「おはよう」

僕はベッドの端に座って、お粥をスプーンですくって彼の口元にやった。彼は口を開けようとせず、そっぽを向いてしまった。

「おなかすいたでしょ。食べなきゃ傷も治らないよ」

スプーンを出すけど、彼は口を開かなかった。その後、朝昼晩、次の日も、また次の日も、全く口を開かなかった。

 彼を保護して五日目。いつものように僕は彼の部屋のベッドの端に座った。そして、いつもの朝ごはんのお粥をスプーンですくって彼の口元にやった。
いつもは顔を背けるのに、今日は背けることはなく、虚ろな目でお粥の入った器を見つめていた。

「食べようよ。元気出ないよ」

彼の目の下は、クマが出来ていた。

「毎日眠れてる?」

問いかけるけど、彼は口を開かない。

その時、彼のお腹が鳴った。彼は赤面した。僕は笑っちゃった。

「ははは……、我慢はよくないよ。ほら」

スプーンを差し出した。でも彼は、僕が笑ったことに対して怒った。言葉は出さないものの、顔で分かったよ。

「あ、ごめん。これでも、君を心配してるんだよ」

 僕は持っている器を置いて、彼を締め付けているベルトを外して彼を起こした。そして、彼にお粥の入った器を渡した。彼は疑うような顔をして僕を見つめながら、左腕をゆっくりと伸ばし、器を受け取った。

「何も入ってないよ。冷めないうちに食べなさい」

僕は彼に笑って見せた。彼は器に目線を移し、お粥の匂いを嗅いで、それを自分の太ももに置き、スプーンを取ってお粥をすくった。そして、おそるおそる口に流し入れた。

 その後は一気に口に入れたよ。僕は嬉しかった。

 食事をした後、彼はすぐに横になった。そして彼は天井を見つめた。
あの虚ろな目、その瞳はおかしかった。

「君、薬か何かやってたんだよね?」

彼は答えなかった。よく見ると、手が少し震えていた。目の下のクマと瞳と……。食事は元々少なかったからわからないけど。

「もしかして、麻薬?それとも……ガン……パウダーかい?」

すると、彼が口を開いた。その声はか細かった。

「……どっちも」
「どっちも?」

それ以上は口を開かなかった。
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