第43話 音楽プレーヤーの話1

文字数 1,211文字

 「随分手厚くもてなされたな」
「……シュウか」
「あぁ」
「……ふふ……、随分と手厚くもてなされた」
「それ、今俺が言ったから」
「すっげえ口の中が痛い」
「だろうな」

会話が続く間に、金属同士が擦れるような音が聞こえた。

「まさか、お前がスパイだったとはな」
「知ってたくせに」
「はは……」
「なぜだ。消そうと思えばいつでも消せたはずだ」
「シュウ」
「……何?」
「戦争を早く終わらせる簡単な方法は、負けることだ」
「……」
「って、誰かが言ってた」
「そんなことは聞いてない」
「お前こそ、俺を殺そうと思えば出来た筈だぞ」

少しの間、沈黙が走った。

「俺は早く負けたかった。そうすればすぐに戦争は終わる。だからお前を殺さなかった。そして俺たちの行動を、シュウを通して筒抜けにした。でも、いつまでたっても敵さんは裏を突いてこない。だからお前を殺さなかった」
「じゃあ、俺が死にそうになった時に助けたのはその為か。俺に、機械の腕を付けたのも」
「そうだ」
「……ハァ」

シュウのため息が、よく聞こえた。

「というのは嘘だ」
「は?」
「シュウ、涙目になってるな」
「なってねぇよ」
「強情な奴め」
「これは寝不足だからだ」
「あーはいはい」

また少し、沈黙の時間があった。

「俺たちの仲間は、生きてるのか?」
「死んだよ。悠以外は」
「そうか……」
「悲しいか?」
「まぁな」
「じゃあ泣けよ」
「涙、枯れちゃったんだよねー」
「そうかい」
「……お前はどうなんだ」
「何が?」
「裏切っていたとはいえ、二十年以上も一緒に行動してきた仲だ。お前は今、何を思ってる」
「……俺は命令に従っただけだ」
「俺たちと居ながら、本来の『仲間』を殺し続けるのが命令か?」
「そうだ。兵士なんて『使い捨て』だ」
「『鬼』と言われ恐れられるのが命令か?今まで敵と協力して味方を皆殺しにしてきた気分はどうだ?」
「うるさい」
「お前、あの時流してた涙は、嘘だったのか?お前も『使い捨て』じゃないのか?」
「うるせぇっつってんだろ!!」

長い沈黙ーー。金属や布の擦れる音が、時折聞こえた。

「お前、何の為に戦ってるんだ?」
「……さぁ」
「はは、そうか」
「あんたは?」
「俺?俺は……、国の為」
「ニッポン?」
「いや違う」
「……もういい」
「あ?何だ、もう行くのか」
「あんたに構ってる暇はない」
「待ってくれ」
「何だ?」
「……悠は、無事か?」
「安心しろ。まだ生きてる」
「そうか。シュウ、もう敵のお前に、こんなことを言うのはおかしいかもしれんが……」
「聞くだけ聞いてやる」
「……悠を、悠也を殺さないでくれないか」
「それは分からん」
「あいつだけは生かしてくれ!」
「……樹」
「は?」
御門樹(みかどたつき)。俺の本当の名前だ。覚えとけボンクラ」
「……ふふ」
「何がおかしい?」
「いや……。フィリップニコラエフ。俺の本当の名前だよ、白髪頭」
「ふふ、そうかい」
「ていうか今ボンクラって言った?」
「言ってない」
「いや言ったよね?絶対言ったよね?」
「うるさい!」

足音が二、三回鳴った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み