第67話 犠牲1

文字数 1,645文字

 「遅くなって悪かった」
「樹……」
「まぁ座らないか?」

樹は近くの木にもたれ掛かるように座った。僕は樹の正面に、悠也はルーと一緒に僕たちの近くに座った。

「いろいろやってたら、遅くなってしまった」
「『いろいろ』って?」
「……この戦争の原因を探してた」

樹の目はずっと僕の顔より下を見ていた。

「それは、この国の貧富の差が招いたんじゃ……」
「表向きはな」
「え?」

樹は僕にタバコを催促した。僕はタバコに火を付け、それを樹に渡した。
「美味い」と一言呟いた。

 「三十年前に戦争が起こった原因は、膨大な量の資源がニッポンの海底にあったからだ。今まで主だった資源は底をついたから新たな資源として世界が注目し始めて、世界中の国がなんとかその資源を物にしようとした。
 世界は、今のニッポンの政治に不満を持っていた民衆に目をつけた。それほどニッポンは腐っていたということだ。そして、メディアを乗っ取り、うまく暴動を起こらせた。それと同時に、原子力発電所が爆発。キュウシュウは全滅して、ニッポンの政治家はまんまと騒ぎに引きつけられ、その間に世界の国々は資源を搾取していった。

 そう、俺たちニッポン人は、まんまと世界中の国に踊らされたって訳だ」
「じゃあ、三十年も戦争が続いた理由って……」
「……資源を根こそぎ取るためさ。金の為ならどんな手でも使う。人間ってのはそんな生き物だ」
「そんな……」
「戦争が……こんなにも長く続いてしまったのはそれだけじゃない。兵器開発のためだった。新しい兵器を世界中から運びこんで、ニッポンで実験していた。その代表が『無人兵器』だ。誰も汚れ仕事はしたくない。だから人工知能を入れた殺人マシーンを開発して、ここで実験して、そのデータを集めてまた開発を進める。
 そして忘れちゃいけないのは『サイボーグ』だ。生身の人間を大量破壊兵器に仕立て上げる、まったくいやらしい兵器だよ」

 樹が自分の口元からタバコを落とした。悠也がいち早くそれを拾って自分の口に入れた。

「でも、その資金はどうしてたの?」
「資源を金に換えれば、戦争の資金なんて微々たるもんだ。武器商人に少しの金を回して新しい武器を開発させる、暴動を起こしてニッポンの連中が武器商人から武器を安く買う……、武器屋は大儲けしただろうな。

 この戦争の黒幕は、ニッポンじゃない、世界の国々だ。できるだけたくさんの資源を搾取したいがために、反乱軍と新政権軍の組織に資金と武器を与え、戦争を長期化させた。でないと、こんなにも長く戦争ができるわけがない。普通なら、戦争をする資金が底をついて、とっくに戦争は終わってるはずだ」

 僕は衝撃を受けた。そして、樹や悠也や、多くの人たちが苦しめられて傷つけられて……腹が立った。

「もちろん、他の国々はそんなことを公になんかしない。メディアさえも巻き込んで、このことを隠している。なぜかはわかるだろう。国にとって資源は重要なものだから。それがなければ、他の国々はもはや発展できないから。

俺たちは……弄ばれたんだよ……」

 樹の様子がおかしかった。息が少しずつ荒くなっていった。僕は嫌な予感がした。

「樹、具合が悪いのか?」
「……」
「樹?」
「悠、そろそろ時間だ。俺について来るか、巽について行くか、選べ」
「え?」
「お前をニッポンから逃がす。どうする?」
「……」

明らかに動揺しているようだった。僕は彼に言った。

「そうだね、悠也、君はもう外で暮らしてもいいかもね。いいよ、ここから出ても。何か言われたら、僕が言い訳しとくから」

僕は笑顔で言ってみせた。外で暮らせるなんて嘘だ。ただ、「世界を旅したい」と言っていた悠也の背中を押してみようとも思った。樹がいるなら安全だろうとも思った。
でも、悠也の答えは意外にも「ここに残る」だった。

「シュウ、お、俺……好きな人がいるんだ」
「……」
「結婚しようって、昨日約束したんだ、だから……」
「悠」
「はい」
「その女を、命にかけて守るってことか?」

悠也は恥ずかしそうに頷いた。樹は「分かった」と言った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み