第24話 夜の出来事4

文字数 1,379文字

 僕が目を覚ましたのは、夜が明ける前だった。光が迎えに来てくれたんだ。

「……み……巽」
「……ん、光?」
「お前、何やってんだよ」
「……あれ、寝てた」
「何やってんだよお前。施設を探してもいないし、亮が泣いてたぞ」
「あ、ごめん」

光は深く息をついた。

「もう……、ところで、お前、何で服を脱いでるんだ?」
「あ?あぁ、これね……」

と言いかけたとき、先に起きていたのか、悠也が木々の間から何かを持ってきた。

「ウサギがいた。食べていい?」

パンツ一枚の悠也が、茶色のウサギの耳を掴んで持ち上げた。そのウサギは、まだ動いていた。

「駄目、森に返してあげなさい」

僕がそう言うと、悠也は渋々ウサギの耳を離し、ウサギを地面に落とした。ウサギはすぐに森の中に入っていった。

「まぁ、ちょっと色々あってね、少し、ゆっくりと話したくてね」
「色々って?」
「悠也がね……」

と言いかけたところで、悠也に目を移した。その時の顔、少し笑えた。顔を赤くして僕を睨んでいたんだ。

「あ、やっぱり何でもない」
「なんだよ、悠也が何かしたのか?」
「ま、まぁね」

僕はケラケラと笑いながら、服を整えた。

 僕たちは施設に戻った。亮が泣きながら僕にしがみついてきた。

「兄ちゃぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁぁん」
「亮、ごめんねぇ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
「あらあら、鼻水……」

亮は僕の肩に顔を伏せて、そのまま鼻を出した。そして、顔をグリグリと擦り付けた。生温かいものが、肩に染み込んでいったのが分かった。

「グス……グス……ヒック」
「落ち着いた?」
「う……ヒック」
「よしよし、どうしたの、泣いちゃって」
「ヒック……こ、こわ……ヒック……怖かった」
「何か夢を見た?」
「お……おば……ヒック……オバ……ヒック……ケ……グス」
「オバケが出た?」
「ん……ヒック」

 亮は、他の人には見えないものが見えるそうだ。この施設にも数人いるらしく、亮はたまに、一人で何かに喋っていることがあった。
僕が亮に話しかけることもしばしば。最近はこんなことがあった。

 ある日、亮が自分の部屋で、壁に向かってブツブツと呟いていた時の事だ。

「亮、一人で何言ってるの?」
「兄ちゃん!この人、ここに迷い込んで困ってるって。どうしよう?」
「どうしようって……」
「この人、おうちに帰りたいって」
「この人って、どこにいるの?」
「そこ」

亮が指をさした先には、もちろん、誰もいなかった。僕は、亮の指さす方向に向かって言った。

「あの、どうか出て行ってください」

僕がそう言うと、その誰かは寂しそうな顔をして、どこかに消えていったそうだ。

 今日は、『オバケが出た!』という夢だった。とても怖かったんだって。

「亮、もう大丈夫だよ」
「う、うん……グス」
「さ、朝ごはん食べよう」

僕たちは食堂へと足を運んだ。

 夜中の出来事は、何もないことが分かった。あの看護師の早とちりだったんだ。でも、あんな光景を見たら、誰でも驚くよね?

 それからというもの、悠也は時間があれば真紀ちゃんの部屋に行くようになった。ある日は小さな野の花を摘んで持っていき、ある日は食事を運んで一緒に食べたりと、それはそれはとても仲睦まじく、というか、献身的な態度を取るようになっていった。

 悠也の表情も、少しずつ豊かになっていった。まだまだ固いけど、最初の頃に比べたら全然違うんだ。

 愛の力というものを感じた、この頃だった。
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