第56話 昔話10

文字数 1,868文字

 「あの時は辺りが真っ暗だった。発電所自体の灯りが少なかったし、七人が正面で戦ってくれたおかげで、俺たちは発電所の裏に難なく回り込めた。でも敵も馬鹿じゃなかった。俺たちがこんな山奥の発電所を襲撃する意味は分かってたみたいで、俺たちがたどり着いたところにも数人がウロウロしてた。

 ジェフがポイントマンになって、前の方の敵を報告、アタッカーのケヴィンと合わせて敵を殲滅していった。俺は後ろを警戒して、何かあったら隣にいるブラッドに報告することになってた。

 古びた建物の中に入って、廊下を通って、管理室に入るまで十人くらいの敵を倒したと思う。ライフルと、あと手投げ弾。ケヴィン達が敵を倒していったけど、それでも息がある奴は、ナイフでとどめを刺した。首を切るんだ。こうやって、片方の顎の下から片方の顎の下に向かって切る。力がいるけど、こっちの方が確実だし、敵もすぐに死ねるんだ。切ったら、敵は血を少し噴き出して死んだ。
 正直言って緊張した。いきなり襲いかかってくるかもしれないと思うと怖かった。でも、何度も首を切ってると慣れてきて、怖くなくなった。だって、みんなもそうやって首切ってたから、これが普通なんだって思えたんだ。

 で、管理室に到着したら、そこには敵の親玉と三人の敵がいた。すぐに銃撃戦になった。机の下に潜ったり、扉を盾にしたりして、隠れながら戦った。
俺はブラッドに言われた通りに、机の下をくぐって親玉の背後に回った。体が小さかった俺は、運がいいことに敵に気づかれることなく回れたよ。そして親玉に後ろから銃を突きつけたら、あっけなく手を上げたよ。それにつられて他の三人も手を上げた。
 初めて敵をホールドアップさせた時は、嬉しかった。

 その頃、正面で戦ってた奴らから無線が入ってきた。『アカ』って。『任務が完了した』って意味で、正面の敵は全滅したって事だった。そしたら、団長の声で『オーケー』って来た。

 俺たちは管理室の機材に爆弾をセットした。C4Sっていうプラスチック爆弾で、普通のC4よりも小さくて威力のある爆弾だ。それを三つに分けて機材にセット。そして、発電機の近くに三つセットして親玉たちと一緒に外に出た。

 建物から少し離れて、ブラッドが起爆スイッチを押したら、建物ごと吹っ飛んだ。凄い音だった。バーンってなって崩れていった。そしたらブラッドは無線で『アカ』って言って、団長が『お疲れさん』って言った」

 悠也は少し息を吐いた。そして少し黙った。僕は彼が口を開けるまで静かに待った。

 「敵を連れてキャンプに戻ったら、仲間が迎えてくれた。『お疲れさん』ってみんなと握手した。敵は近くの木にくくりつけて、熊と健太郎が殴ってて、俺はそれを見てた。しばらくしたら、敵がぐったりしてきたみたいで、熊たちは敵をほっといてテントに戻っていった。

 俺は親玉のところに行ってしばらく見てた。そしたらあいつ、俺に唾をかけてきたんだ。『クソガキ』って言われた。俺、頭にきたからそのまま殺した。胸に力いっぱいにナイフを刺して引き抜いたら、血が上からいっぱい俺の頭に落ちてきた。初めて戦った時はこんな感じ」

 さっきまでの興奮した様子とは一変して、またあの虚ろな目に戻った。僕は思い切って聞いてみた。

「ねぇ、初めて自分の意思で人を殺した後って、どんな気分だった?」
「……別に。みんなも同じことしてたし、それで団長とかシュウから頭を撫でてもらえて嬉しかったから、それ目当てでやった。あの時も、シュウがいるテントに入ったらシュウが目を開けてたんだ。手招きされたから隣に座ったら、『よくやったな』って言ってくれたんだ。シュウ、少し笑ってくれた」
「罪悪感とかは?」
「……みんなと同じことをしてたんだ。悪い事とは思わなかった。実際にあの時、虫の息だったあいつらは『殺してくれ』って言ってたんだ。望み通りにしてやったよ。でも、少し悲しかった。いつも敵を倒す時、あの時初めて人を殺した時の事が頭に浮かぶんだ。でもそれは仕方ない。戦争だから仕方ないんだって、いつも言い聞かせた」
「君は以前、ここでケンカしたよね?あの時の君は笑ってた。それはなぜかな?」
「……シュウに褒められたかった。シュウは普段怖くて笑わないしあまり喋らない。訓練も厳しくて、皆と少し離れてた。でも、俺が敵を倒したらシュウは笑顔になってくれるんだ。
 でもあの時は、シュウじゃなくてあんただったんだ。倒したら、シュウみたいに笑ってくれると思った。だって、同じ顔してるから……」

悠也はまた、ゆっくりと瞬きをした。
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